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緊急事態宣言の効果は限定的、対策をさらに強化すべき - 中西 享 (経済ジャーナリスト)

東京大手町のワクチン大規模接種センター( Yuki MIYAKE/gettyimages)

 急速な新型コロナウイルス感染拡大が続く中、日本感染症学会の前理事長で政府のコロナ感染症対策分科会などの委員を務める舘田一博・東邦大学教授は28日、日本記者クラブで政府が進めてきた東京オリンピックの感染対策や今後の対策について記者会見した。「緊急事態宣言が出されて2週間になるが、その効果は限定的で感染者数はピークアウトしておらず、危機的状況になりつつある。宣言の対象となる地域を広げ、『飲食』以外の商業施設にも広げる必要がある」と指摘、躊躇なく早め早めの対策を打つ必要性を強調した。オリンピックに関連しては「バブル方式を取っているが、これでは限界があるので、2重、3重の感染対策を取ることが重要だ」と述べた。

東京の感染者が3000人突破


 たてだ・かずひろ 1960年生まれ、85年長崎大学医学部卒業、95年東邦大学医学部微生物学教室講師、2000年米国ミシガン大学呼吸器内科に留学、11年東邦大学微生物・感染症学講座教授。20年新型コロナウイルス感染症対策本部新型コロナウイルス感染症対策分科会委員。神奈川県出身(日本記者クラブ提供)

 東京都は同日、新型コロナウイルスの感染者が新たに3177人確認されたと発表した。3000人を超えるのは初めてで、27日の2848人を上回り過去最多となった。館田教授は感染の現状について「世界では1日当たり50万人の新規感染者、8000人が亡くなって、まだまだパンデミックの終息が見えない。日本ではこれまでに85万人が感染し、1万5000人が亡くなっている。いま感染は第5波に入ろうとしており、今後どういう状況になるのか心配しなければならない」と指摘した。

 27日までの感染状況を踏まえて「このペースで入院患者が増えると、あっという間に医療施設の入院キャパシティを超えて医療崩壊につながる」と危機感をあらわにした。

 緊急事態宣言の効果が出ずに感染の第5波になりつつある理由に関しては「感染力の強い変異したデルタ株の増加、度重なる宣言で市民の協力が得られなくなっている、オリンピックやこれからの夏休みで人の動きが増える、感染に対する気持ちの緩みが出ている」ことなどを挙げた。

若い世代へのワクチン接種

 最近の世代別感染者を見ると、「90%以上が50歳代以下で、20歳から30歳代が半分を占めており、若い世代にワクチンの接種をしていない世代に感染が下りてきている。重症例の半分が50歳代だ」と述べた。

 「ワクチン接種で課題となっているのが、接種を受けたくないという人にどうやって受けてもらうかだ。若い世代が受けない傾向があるため、イスラエルでは接種率が60%から増えない。米国では50数%から上がらないなど課題があり、若い世代にどうやってアプローチするかが重要だ。教育、啓発、ニセ情報に惑わされないことが重要で、デマ情報をなくすには政府、自治体、アカデミア、メディアとの連携が必要になる。同時に接種しない人、できない人への差別が起きないよう配慮した対策を考える必要がある」と指摘した。

 ワクチンの接種については「日本では1回接種したのが4500万人、2回が3000万人。高齢者は1回接種が84%、2回が64%にまで皆さんの協力で接種できた。それでも残念ながら、今の東京、日本で見られるのは危険な兆候と考えざるを得ない」とワクチン接種による油断を戒めた。

 「メッセンジャーRNAワクチンが世界中の何億人に接種され、その有効性が確認されたことは朗報だ。日本では1日約100万人を超える接種が行われ、合計7000万回の接種ができたのは、みんなが協力することで日本の力が示された」と指摘、高齢者を中心としたワクチン接種が感染拡大に歯止めをかけていることを評価した。

ワクチン接種の意義は大きい

 また接種を済ませた人がブレイクスルー・インフェクション(再感染)することが米国などで報告されていることについては、「1万人に1人で再感染が起きているが、その多くは軽い症状で、再感染があってもワクチン接種の意義は非常に大きい」と強調した。

 デルタ型と言われている変異ウイルスの感染拡大については「あと2週間後の8月初めになれば、首都圏はほとんどがこの変異ウイルスに置き換わるだろう」と予測した。しかし、「だからといって、強弱はあるがワクチン接種の効果がなくなるということはない」と断言した。

 新型コロナの治療薬については「新しい動きが出てきている。抗ウイルス薬、抗サイトカインストーム薬などが出てきており、治療の方向性が見えている。将来的には風邪の飲み薬となるような治療薬にしなければならない」と述べた。その上で「ワクチン接種と、軽症、中等症患者向けの点滴で行う抗体カクテル療法が広がってくれば、秋以降にはいまほどの危機感を持たなくてよくなる」との見通しを示した。

大会を理由に対策を後回してはならない

 オリンピックについては「開催に潜むリスクがある。無観客にしても、競技場の外ではお祭り気分になり人の流れが増える。『オリンピックだからいいじゃないか』といった矛盾したメッセージにより、感染に対して無関心、非協力が増幅されるリスクがある。大事なことは、オリンピック大会中だからと言って、強化しなければならない対策を後回しにすることはあってはならない。その時が来たら対策は取るという決意が重要だ」と強調した。

 感染者数が増える中で、専門家はオリンピック開催の中断をなぜ政府に対して提言できなかったのかという質問に対しては「(政府の感染症対策分科会の)尾身茂会長も指摘されているように、専門家はオリンピックの開催を決める立場にはない。政府が開催を決めたことで、いかに感染拡大を防ぐ方法を提言するのが我々の務めで、早め早めの対策を躊躇なく打ち出すべきだ」と指摘した。

「出口戦略」は時期尚早

 関西圏で前週の2.4倍も感染者数が急増したことには「これは大変なことだ。遅れないよう早めの対策を打つべきだ」と述べ、一部で経済活動と感染対策を両立させるために議論されている「出口戦略」に関しては「今の段階では『出口戦略』は慎重にあるべきだ」と指摘した。

 ワクチンパスポートに関連して「パスポートをどう使いながら、社会経済の活性化を元に戻していくかが課題になる」と指摘した。一部の飲食店でパスポートを提示すれば代金割引をすることが検討されていることについて「ワクチン接種が受けたくても受けられない人がいる中で、割引をするのは差別を招く恐れもあるので、段階的に行うことが大事だ」との見方を示した。

 今後の感染症対策では「次のパンデミックも起きるという危機意識が重要で、有事の際の司令塔機能が必要だ。地域の感染症医リーダーの育成と配置も必要になる。また新薬や創薬に対する投資を危機管理の視点で行うことが重要だ」と述べた。

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