- 2021年07月27日 14:20 (配信日時 07月27日 11:15)
「冷凍食品は手抜き?」悩む主婦を救うために味の素冷凍食品が打ち出した"スマートな返し"
1/22020年8月、「冷凍食品は手抜きなのか」という論争がSNSで起きた。このとき、冷凍食品大手の味の素冷凍食品が、あえて論争に加わり、大きな反響を得た。PRストラテジストの本田哲也さんは「消費者との“共体験”を作ることで、社会に大きな影響を与えることができた好例だった」という――。(第2回/全2回)
※本稿は、本田哲也『ナラティブカンパニー:企業を変革する「物語」の力』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/wckiw
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wckiw“おみくじ”でバズったサントリーの伊右衛門
ナラティブにおける「余白」とは? さて、次にもうひとつのポイントである「余白」に話を進めよう。

【図表】ナラティブとストーリーの違い - 出所=『ナラティブ・カンパニー』
ナラティブの特性は前稿でも述べたが、ストーリーにおける主役が企業やブランドなのに対して、ナラティブではあなた(生活者)を含むマルチステークホルダーが演者=物語の登場人物となる。ストーリーには「起承転結」があって必ず終わりが来るが、ナラティブは現在進行形であり未来をも包含するので「終わり」という概念がない。
そして、ストーリーの舞台が業界や競合環境なのに対して、ナラティブの舞台は「社会全体」だ。ここではストーリーとの違い、という観点から解説しているが、この3要素こそが、すなわちナラティブというものの特性なのだ。
ナラティブとストーリーの違いは、物語が「共創」されるかどうかであり、コロナ禍も経て世の中では「共体験」の価値が向上している。
そして、共創することが前提であるなら、ナラティブには、生活者やステークホルダーが「参加できる余地」があってしかるべきだ。「コミュニケーションの余白とは、オーナーシップを受け手に託すということです」。クリエイティブディレクターの嶋浩一郎氏は言う。
「コンテクストデザイナーの渡邉康太郎さんから聞いた話ですが、ある日、彼がある食材をテイクアウトしたら、パッケージに『シェフとして格好よくこれを盛り付けてください』と書いてあったそうです。例えばこれも、受け手がひとつの物語に参加している感じがあって、非常にナラティブだと思います」
サントリーの「伊右衛門」と言えば、日本人なら誰もが知る緑茶飲料のロングセラーである。京都の老舗「福寿園」と共同開発された伊右衛門は、CMなどを通じてそのこだわりやブランドストーリーを訴求してきた。
その伊右衛門が、2020年4月にリニューアルされ非常に好調だという。リニューアルした伊右衛門では、ラベルの内側にフクロウや七福神などのイラストを配した。さらに発売後のキャンペーンでは、「大吉」や「中吉」といったおみくじを印刷した。
その結果、「おみくじ当たった!」などラベルはがしを楽しむSNS投稿が活性化される。これまでの伊右衛門が、「ブランドストーリー」的なアプローチだったとすれば、リニューアル後のアプローチにはナラティブな要素が含まれている。
「ブランドの物語」から「ユーザーの物語」へのシフトだ。ここにも、「受け手が参加できる」という、コミュニケーションの余白が存在している。このように、「余白」の考え方は、ナラティブを描くにあたっては非常に大切な発想なのだ。
ナラティブにおける余白は、2020年のコロナ禍のさなかに世の中の話題となった、「手間抜き論争」にも見てとれる。事例を見てみよう。
「手抜きではなく“手間抜き”」を打ち出した味の素冷凍食品
味の素冷凍食品の事例
ことの発端は、2020年8月4日にツイッターに投稿されたある女性のつぶやきだった。
疲れて辛かったため夕食に冷凍餃子を調理して出したところ、子どもは喜んだが、夫が「手抜きだよ。これは冷凍食品っていうの」と言った、という内容だ。このツイートにはさまざまな同情の声が集まった。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32
味の素冷凍食品株式会社(以下、味の素冷凍食品)の公式ツイッターアカウントもすぐに反応し、次のような投稿をした。「冷凍餃子を使うことは、手抜きではなく、“手間抜き”です」「冷凍食品を使うことで生まれた時間を、子どもに向き合うなど有意義なことに使ってほしい」
餃子に限らず、日本ではいまだ冷凍食品にネガティブなパーセプションがある。美味しくいただける調理方法の研究が途上だったとき、あるいは、冷凍技術が今のように発達する前は、「冷凍もの」と言えば「手軽だがあまり美味しくない食品」というイメージだった。
そして件(くだん)のツイートを投稿した女性の夫の言う「手抜き」という言葉は、「家庭料理は妻が愛情込めて手作りするべきだ」という「手作り信仰」の延長線上にある。
冷凍餃子売り上げナンバーワンの味の素冷凍食品としても、冷凍食品の持つこのようなネガティブなパーセプションを変えることは、自社だけでなく業界全体としても課題であると認識していた。
そして公式ツイッターの“中の人”自身、二人の子を持つ母だった。会社や業界が抱える課題半分、自分ゴトとしての本音半分のツイートであったのではと想像する。思いを込めた公式アカウントの投稿には44万いいね!がつき、「冷凍餃子」がツイッターのトレンドに入るほどの反響を呼んだ。
「不寛容な社会」の象徴になった“手間抜き論争”
こんなことは味の素冷凍食品としては初めての経験だ。
これがきっかけとなって、キー局やネットメディアでも大きく報道され、いわゆる「冷凍食品は手抜き? 手間抜き?」論争が巻き起こった。テレビ局などがこのネタに飛びついたのには、実は前振りがある。
このツイートが話題になる前、やはりツイッターで「母親ならポテトサラダくらい作れ」とスーパーの惣菜コーナーで高齢男性が女性に絡んだ出来事が話題となり、テレビのワイドショーなどで取り上げられたからだ。
テレビ局的にも、新たな「不寛容な社会」ネタだったという訳だ。味の素冷凍食品は、突然の取材集中に戸惑いながらも、これを冷凍食品のパーセプションチェンジを狙う施策のフェーズ1と捉え、まずはひとつひとつの取材に真摯に対応して投稿の意図を紹介していった。
これにより「冷凍食品は手抜き? 手間抜き?」論争の話題化を加速させていく。「冷凍餃子は“手間抜き”です」ツイートのあと若干ネガティブな反応も出たが、おおむね好意的に受け止められ、取材対応を続けることで好意と賛同の声を増幅させていった。
このような活動を地道に続けた結果、8月4日の発端のツイートから約1カ月で「手間抜きナラティブ」が広がっていき、その中の登場人物の一人としての「味の素冷凍食品の餃子」という状況を作り出すことができた。
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