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「第2第3の失踪事件は起きる」名古屋で消えたウガンダ人選手があらわにした日本の暗部

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「GPSで管理できる」は大噓

東京五輪に向けた事前合宿のため来日していたウガンダ人の重量挙げ選手が、7月16日、大阪府内の宿舎から失踪し大きなニュースになった。選手は20日に三重県内で発見され、翌21日にはウガンダへ帰国した。

早期に見つかって事なきを得たのは何よりだった。ただし、この事件は、単なる外国人スポーツ選手の失踪という以上の問題をあらわにしている。その点について指摘するメディアは少ない。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、事前合宿中の選手たちは練習場所以外の外出が禁じられていた。また、五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長は、選手やメディアを含め大会関係者の行動をGPSで管理すると表明していた。

写真=時事通信フォト
東京五輪・パラリンピックに向けた5者協議で国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(後方モニター)のあいさつを聞く大会組織委員会の橋本聖子会長=2021年3月3日、東京都中央区

しかし、ウガンダ人選手の失踪で、感染防止対策の実効性などまるでないことが証明された格好だ。つまり、第2第3の失踪選手は「いつでも出る」ということだ。

トップレベルの選手でも生活できない現実

このウガンダ人選手は五輪直前に代表を外れ、20日にウガンダへ帰国することになっていた。それを拒み、姿をくらませ、大阪から新幹線で名古屋へ移動した。そこでいったん足取りが途絶えた。

選手は失踪時、宿舎に「ウガンダの生活は厳しいので帰らない。日本で働きたい」とのメモ書きを残していた。つまり、日本での不法就労を目論(もくろ)んでいたのである。

ウガンダは東アフリカに位置し、人口は4400万以上を数える。1人当たりGDP(国民総生産)は年900ドル(約10万円)程度で、アフリカでも最貧国の1つだ。

トップレベルの重量挙げ選手であっても、生活は楽ではなかったのだろう。しかも五輪出場もかなわず、せっかくやってきた日本で働こうとしたようだ。

ニュースに接して、筆者は、東京でも大阪でも、あるいは福岡でも札幌でもなく、「名古屋」へ向かったというのがポイントだ、と感じた。

失踪して向かったのがなぜ「名古屋」だったか

ウガンダ人選手が向かった「名古屋」をはじめとする東海地方では、以前から外国人労働者が数多く受け入れられてきた。筆者も、これまで多くの外国人たちを現地で取材してきた。その中には、不法就労者たちが何人もいた。そんな取材経験から、このウガンダ人選手がなんらかのルートで、あらかじめ不法就労の情報を得ていた可能性がある、と思った。

まず、日本における外国人の不法就労の実態について少し触れてみよう。

昨年、入管当局に不法就労が発覚し、母国へ強制送還となった外国人の数は1万993人に上った。コロナ禍の影響で新規入国する外国人が激減し、前年から2000人近く減少した。ただし、2017年までは1万人以下で推移していたので、依然として高水準だといえる。

国籍別ではベトナム人が4943人で、全体の半数近くを占めた。次に多いのが中国人の2361人で、タイ人、インドネシア人、フィリピン人という上位5カ国を合わせると9割以上に達する。

不法就労していた都道府県は、1512人の茨城県が最も多い。続いて千葉県が1488人、ウガンダ人選手が新幹線を降りた愛知県は1452人で3番目である。また、この選手が見つかった三重県では、11番目に多い160人の不法就労があった。

職種別では、農業が2463人、建設作業が2272人、工場などでの工員が2033人だった。茨城や千葉では農業、愛知の場合は建設作業での就労が最多となっている。

外国人が不法就労を目指すワケ

外国人の不法就労に関し、新聞やテレビでは職場から失踪した技能実習生たちがよく取り上げられる。実習生の手取り賃金は月10万円少々にすぎない。そのため失踪し、不法就労に走る。実習生でいるよりも、不法就労したほうが稼げるからだ。

出稼ぎ目的の留学生が、日本語学校などの学費の支払いを逃れて働こうと、学校から姿をくらまし不法就労することも少なくない。加えて、観光客を装い入国し、不法就労するケースもある。

これまで筆者が取材してきた不法就労者も、実習生か留学生、もしくは観光客として来日した外国人だった。そして彼らが働く場所は、愛知県など東海地方が多かった。

ブローカーを頼って不法入国

そんな不法就労者の1人が、2年前に出会ったインドネシア人のスリスさん(当時35歳)である。

スリスさんは2017年、観光ビザで来日した後、不法就労を続けていた。私と会うまでの2年間で仕事を2回変わり、取材当時の就労先は愛知県内の鉄工所だった。

彼女は、日本での不法就労を斡旋(あっせん)するインドネシアのブローカーに日本円で約60万円の手数料を支払い来日していた。母国に夫と幼い子どもを残してのことである。

日本で出稼ぎをしたいなら、実習生として合法的に入国することもできたはずだ。にもかかわらず、大金を払ってまで不法就労を選んだ理由について、彼女はこう語っていた。

写真=iStock.com/CribbVisuals
※写真はイメージです

「実習生になるためには、私は年を取りすぎています。インドネシアでは、実習生は20代でないと難しいんです」

不法就労せざるを得ない実情

スリスさんには、日本で不法就労を経験した親戚がいる。そのインドネシア人男性は2000年代前半に実習生として日本で3年間働いた後、いったんインドネシアに戻って不法就労するため再来日した。スリスさんと同様、斡旋ブローカーを頼り、観光客を装ってのことだ。

現在は日本の法律が改正され、実習生は最長5年まで働ける。また、「特定技能」という在留資格に移行すれば、さらに5年の就労も可能だ。しかし、当時の実習生は3年の就労を終わると、帰国するしか選択肢がなかった。

その男性と私は、彼が不法就労していた2008年に知り合った。当時、彼は愛知県内にあるパチンコ台の製造工場で働いていた。その後、「リーマンショック」で景気が悪化し、彼は工場の仕事を失った。他に就労先が見つかる当てもない。そのため自ら入管に出頭し、09年にインドネシアへ帰国する。

私は入管への出頭に同行した。そして彼がインドネシアに戻った後も、連絡を取り続けた。その彼が「一度、会ってもらいたい」と依頼してきたのが、妻のいとこであるスリスさんだったのだ。

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