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広告のあるべき姿とは? 広告代理店がストリートペーパー認知度アップキャンペーンに取り組んだ

日本で「広告代理店」というと、予算のある企業や団体が、モノやサービスを買ってもらうために忙しく動いているイメージが強いが、オーストリアの広告代理店「フライング・フィッシュ(Flying Fish)」は、人々の社会へのまなざしを変えることに挑戦している。2020年4月から始まった、ザルツブルグ拠点のストリートペーパー『アプロポ』とその活動の認知度向上を目指す広告キャンペーンについて、チームを率いた2人、ブリギッテ・ニールとイェルク・エベラーに話を聞いた。

― そもそも広告とはどうあるべきだと思いますか?

エベラール:消費を促すことだけを目的にした広告は意味をなさないですね。「買え、買え、買え、買え!」と強調し、消費こそが意味があることかのような広告には怒りさえ感じます。意味がないだけでなく、怠慢だとも感じます。

ニール:広告が、なにかを実際よりも美しく見せるとか、ただ現状維持を意図するものとか、単なる「イチジクの葉*1」であるなら意味がないと思いますね。

*1 聖書の中でアダムとイブが裸を隠すのに使ったことから、見せるべきでないことや都合の悪いことを覆い隠すという意味がある。

― ストリートペーパーに認知度アップの広告が必要な理由は?

ニール:ストリートペーパーは往々にして、事業が不安定です。ストリートペーパーが社会の重要な一部分だと認識している人は、決して多くはありません。だから、その価値を可視化する必要があります。

by Andreas Hauch

― キャンペーンはどのように進めたのですか?

エベラール:最初は、どういう人たちをターゲットにし、何をしたいのかを絞り込むことから始めましたが、これが簡単ではありませんでした。議論を重ね、最終的なターゲットは、まだストリートペーパーを買って読んだことがない人たち、そういった人たちに手に取ってもらうということだと明確になりました。

『アプロポ』のスタッフと協力しながら進めていく中で、文字だけで表現していこうと決まりました。映像や画像が主流のメディア界にあって、文章だけで伝えるというのは主流のやり方ではありませんけどね。私たちは、8つのメッセージを考案しました。目にした人に考えさせる、刺激的なメッセージです。

by Die Fliegenden Fische

ニール:このキャンペーンによって、人々に気づきを促し、「へえ!これはどういう意味だろう?」と思わせる、いわゆる「破壊者」(disruptors)」でありたいのです。一つの仕掛けだけで人々の注意を引くのではなく、もっと長い時間をかけて関心を集めていけたらと思っています。

街頭ポスターや、『アプロポ』の表紙、ソーシャルメディアで新しいビジュアルを展開していきます。ザルツブルグ市内では2021年4月から7月に多くの広告を掲示し、創刊25周年を迎える2022年にも、4ヶ月間の広告キャンペーンを計画しています。



ニール:ストリートペーパーが社会の中で重要な役割を果たしていること、もしストリートペーパーがなくなれば社会の損失であるということを伝えたいです。『アプロポ』は社会にとって欠かすことのできないパーツ。このことを、8つのキーワードで様々な角度から表現しています。見た人の頭と心の両方を刺激するはずです。

― なぜ広告には意義があると?

ニール:広告は新しい世界を開きます。常に「受け手」の立場に立ち、私たちが伝えるメッセージが何かしらよい変化を生み、有意義なものにつながればと思っています。表層的な“見栄え”よりも大事な何かに気づいてもらうこと、多くの人たちがよりよい状態になることが理想です。

エベラール:我々デザイナーは、物事の中身に注目し、さらにその先を見て、従来とは別のアプローチを探ります。街を歩きながら、「人々の物事の見方や考え方に影響を与えられたのかも」と感じられるときは幸せですね。

私は広告デザインの学校で教えているのですが、生徒には最初にこう問いかけます。「周りを見回してみて、何が見えたか教えてください。それらはすべて、いろいろな人たちによってデザインされてきたものです。あなたにはどんな影響を与えてきましたか?」と。デザイナーが負っている責任を、しっかり意識してもらいたいのです。

― そもそもお二人はなぜ協力しようと思われたのですか?

エベラール:『アプロポ』が、すばらしいやり方で人々を援助しているからです。広告代理店の全員が活動を応援しています。そのことは、共同作業を進める過程でも、はっきり分かりました。ポスターの最終コンセプトをビジュアル化するときに、社内全体に声をかけたところ、みんな熱心に案を出してくれたのです。全員が『アプロポ』のみなさんに、たくさんの選択肢を用意したいと思っているのです。



―仕事で一番大切にしているのは?

エベラール:コンセプトやアイデアを組み立て、可視化し、グラフィックデザインをつくることに、大きな喜びを感じます。

ニール:クライアントとピンポンのように意見を交換しながら、建設的なものができ上がり育っていくときというのは、実に素晴らしいです。時代は常に移り変わりますから、既存のアイデアにとらわれず、活力あるものをつくることが重要です。私は自分の仕事を、人々のコミュニケーションや大勢に向けた発信を取り持つ仲介者だと思っています。

エベラール:それに、クライアントと密に協力する中で、少しでも共に成長できていると感じられる瞬間もうれしいですね。そこから、たくさんの友情も生まれました。

― この『アプロポ』キャンペーンを通じて、人々にどんな「アハ体験*」をもたらしたいですか? (*なるほど!とひらめく瞬間)

エベラール:なにかしらの先入観があって、『アプロポ』から目を逸らしていた多くの人の考えを変えたいです。そういった人たちが、たった3ユーロ(約390円)で社会に重要な影響を与えられることを知ってもらえたらと思います。

ニール:私の場合は、認知ですね。「『アプロポ』? ああ、ザルツブルグのストリートペーパーでしょ!」と誰もが知っているようになってくれたらなと思っています。

― 最後に、あなたが希望を感じるのはどういうときですか?

エベラール:身の回りで変化を起こし、人に良い影響を与えられたと感じられるときです。どんな困難な状況でもあきらめず、「勝算があるかではなく、自分がチャンスを生かす」という姿勢でありたいと思います。

ニール:我々みんなが、これからも自由でいられることに希望を感じます。小さな行動を積み重ね、人と対話をする。全体像が見えるのを待つのではなく、動き続けていれば何かが変わると思います。小さな行動によって全体像が影響され、新しい道が見えたなら、その行動は正しいということです。仲間とふざけあってるときなんかにも希望を感じます。みんなが陽気になる、そういう雰囲気をつくるのは本当に大事です。なんでも深刻にばかり考えていても、解決しないですからね!

By Michaela Gründler
Courtesy of Apropos / INSP.ngo

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