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中国やアメリカと向き合うためには「日本+韓国 2億人経済圏」を検討すべきだ

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中国、アメリカという超大国にこれから日本はどう向き合えばいいのか。ジャーナリストの青木理さんは「日韓の人口を合わせれば2億人近い。中国や米国と向き合うには連携したほうがいいに決まっている。そんな政治的リアリズムが失われている」という。ノンフィクションライターの安田浩一さんとの対談をお届けする――。(第3回/全3回)

※本稿は、青木理・安田浩一『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。

ジャーナリストの青木理さんとノンフィクションライターの安田浩一さん
ジャーナリストの青木理さん(左)とノンフィクションライターの安田浩一さん(右) - 撮影=西﨑進也

無責任とメンツによるその場しのぎ

【青木理(ジャーナリスト)】先日、東京新聞で長く防衛問題を取材してきた半田滋さんと対談する機会があって、いろいろと興味深い話を聞かせてもらいました(この対談も前掲『時代の異端者たち』所収)。僕は防衛問題にあまりくわしくないのですが、半田さんによると、海兵隊の基地である普天間飛行場なんてさっさと返還させて、空軍の嘉手納基地と統合するのが一番合理的だというんですね。嘉手納は米軍にとって東アジア最大級の空軍基地で、三五〇〇メートル以上の滑走路を二本も擁している。

ところが、海軍から分派した海兵隊と空軍はマインドがまったく違うものだから、空軍が日本の外務省とタッグを組んで統合案を潰してしまったというんです。一方の海兵隊も空軍に頭を下げるなんてごめんだから、自前の基地である普天間飛行場は手放したくない。ただ、その代わりに日本政府が新たな基地をつくってくれるというなら願ってもない話。辺野古の新基地建設はそういうことにすぎないんじゃないかと半田さんは言うんです。

【安田浩一(ノンフィクションライター)】米軍の居心地のよさを追求して基地がつくられているという倒錯ですね。

【青木】ええ。そうして日本政府は辺野古の海への土砂投入を強行しています。でも、果たして辺野古の新基地など本当に作れるのか。安田さんもよくご存知のとおり、日本政府の見積もりでも完成は二〇三〇年以降にずれ込み、総工費はすでに当初計画の三倍近い約一兆円に膨れあがっている。これが沖縄県の試算では、じつに二兆五〇〇〇億円に達するのではないかとみられています。

歴史から学ばないリアリズムなき政治

【青木】実際、埋め立て予定地の海底には広範囲な軟弱地盤の存在も明らかになっていますから、おそらく沖縄県の試算のほうが現実に近いでしょう。いや、沖縄県の試算だって甘いぐらいかもしれない。マヨネーズ状と評される軟弱地盤は最深九〇メートルにも及ぶことが判明していて、過去にそんな埋め立て工事をした経験もなく、機材すらない。そして何よりも沖縄の民意は圧倒的反対なわけですから、こんな基地は完成しない、できないだろうと断言してもいいのではないかと僕は思っています。

【青木】つまり、完成の目算などないまま強引に埋め立て工事だけを続けているのが現状に近い。そこから透けて見えるのは米国の顔色をひたすらうかがい、とりあえず現在をやりすごせばいいという政権と官僚の刹那的な無責任体質と、一度決めたことは後戻りできないという政治のメンツと官僚的硬直性。負けがわかっていて無茶な戦争に突き進み、負けが確定した後もずるずるとやめられず甚大な被害を出した先の大戦とも相似形です。歴史に学ぶ姿勢が根本から欠如した無謀な政治が、口先では勇ましいことを吠えながら真のリアリズムも喪失させて破滅へと突き進む構図です。

僕は韓国に長く暮らしたので、ついつい沖縄と朝鮮半島を対照しながら物事を考えてしまうんだけど、歴史に真摯な思考を馳せる態度を失い、リアリズムまで欠落させているという意味では、日本政府の姿勢は沖縄に対する際とよく似ています。

「徴用工問題」日本側の主張も一理あるが……

【青木】これを幸いというべきか、先の大統領選で敗北したトランプ政権は退場しましたが、いずれにせよ米中が覇を競う時代は今後しばらく続くでしょう。もちろん軍事的にも肥大化する中国は大きな懸念材料ですが、地政学的にも経済的にも密接に結びついた中国といったいどう向き合うか、日本にとって本当に悩ましい問題です。あるいは北朝鮮とどう対峙するかを考えたって、東アジアで数少ない民主主義国家である韓国との関係改善や連携は必須不可欠です。

ジャーナリストの青木理さん
ジャーナリストの青木理さん(撮影=西﨑進也)

なのにいまだ歴史認識問題をめぐって角を突き合わせ、さらにそれを悪化させるような振る舞いばかりを繰り返している。つくづく愚かというしかありません。日韓国交正常化当時の保守政治にかろうじてあったリアリズムさえ失われている。

一九六五年の日韓国交正常化をどう考えるべきかについては『この国を覆う憎悪と嘲笑の濁流の正体』の第一章でも簡単に触れました。たしかに一九六五年の正常化交渉では日本が韓国に無償三億ドル、有償二億ドルの「経済支援」を行うかわりに互いの請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」とうたっています。

ですから、当時は問題として顕在化していなかった元慰安婦問題などはともかく、元徴用工への賠償を日本企業に命じた韓国司法の判断は納得しがたいと日本側が主張するのは一理あるのかもしれない。

軍事独裁政権との政治的妥協

【青木】ただ、繰り返しになりますが、一九六五年の国交正常化は韓国の軍事独裁政権と日本の保守政権による政治的妥協の産物でした。日本の保守政界は韓国の軍事独裁と密接に結びつきながらそれを強固に支え、激しさを増す冷戦体制の下、日米韓の結束の必要に迫られた米国に促されて日韓が国交正常化を成し遂げた。

日本
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/beyhanyazar

もちろん、日本の資金をもとに韓国の軍事独裁政権は「漢江(ハンガン)の奇跡」と称される経済成長を実現し、日本もその成長を支えて貿易面などでも大いに潤いました。「反共」という大義名分に加え、そこを見ればかつての保守政治のリアリズムも間違いなく感じられる。

【青木】一方、そうした軍事独裁政権との政治的妥協だったため、韓国の民衆の意向などは完全に置き去りにされ、補償や権利などは完全に踏みつけにされました。

そんなものは韓国の都合じゃないかと言ったって、おおもとをたどれば戦前・戦中に日本が朝鮮半島を併合して統治して人びとに塗炭の苦しみを与えてしまったのがすべての問題の原点ですからね。

リアリティなき「反日」というレッテル

【青木】そう考えれば、一九六五年の諸協定ですべて解決ずみだと言い放ってふんぞりかえり、「韓国は約束を守らずにゴールポストを動かす」とか「いつまで歴史を持ち出して文句を言うのか」などと言い立てるのは、不当であると同時に不道徳だと僕は思っています。

また、そんな理由で韓国といつまでもいがみあい、日韓が緊密に連携を取れないのは政治的リアリズムの喪失です。日韓の人口を合わせれば二億人近く、両国の経済規模を合わせれば相当な経済圏となって強力な交渉力も持つことになりますから、米国や中国と向き合う際はもちろん、北朝鮮を交渉の場に引きずり出すためにも連携したほうがいいに決まっている。そんなリアリズムすら最近はない。

一方で安田さんの話にあったように、歴史的な経緯にまで視野を伸ばすこともないまま「沖縄好きな人が多いから差別なんかしていない」とか「これほど韓国エンタメが流行ってるんだからみんな韓国が大好きなんだ」といった物言いも、いかにも物事を矮小化していて本質を見誤らせますよね。

もちろん沖縄を好きな人が多いとか、韓国文化を好きな人が多いというのは悪いことではないし、先ほど話したように、そこから新しい交流の回路が生まれてくることに僕は期待していますが、その前提として歴史的経緯への知識や人びとが現に置かれている状況への想像力を持たねばならない。でないと、おためごかしのきれいごとで現実から目を逸らし、差別などを黙認する風潮の背を押してしまうに等しい面がある。

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