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DV・ストーカーに娘を奪われた母 二審勝訴でも真相解明を望む思いとは

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ある脳外科医との奇跡的な出会い

母親は勝訴に至る道のりを、事件現場で涙ながらに語った。

「一審では、くも膜下出血を起こした衝撃の程度が明らかでないという理由で敗訴になりました。衝撃の程度とか強さをどう調べればよいのか。途方にくれました。手掛かりは、搬送された病院で撮った脳のCT画像しかない。とにかく脳神経外科の先生を探しました」

くも膜下出血に関する情報を求めてネット検索を続けた。そして、鑑定を依頼できそうな法医学者や医師に手紙を書いた。しかし、意見書を書いてくれる人は、そう簡単には見つからなかった。控訴後、50日以内にその理由を裁判所に提出しなくてはならない。医学誌や法学誌を求めて、図書館に籠もったりもした。

「スマホの小さな画面で検索していたので、目は疲れるし肩が凝るしで、体力的にもしんどい思いをしました」

半年前の一審判決の日、母親の左目は眼底出血を起こしていた。「裁判の疲れが出たか」とも考えたが、ちょうど、ある著名人が脳内出血で急死したことをニュースで知った。症状が同じだった。母親は、眼科でなく自宅近くの脳神経外科を受診することにした。

2014年夏に撮影した奈緒子さん(母親提供)

検査の後、診察室で脳のCT画像を見せながら医師は言った。

「ご心配される脳の病気は見当たりませんね」

淀みなく説明する様子に、ピンと来るものがあった。この先生なら、娘のくも膜下出血を解き明かしてくれるかもしれない。

「先生、実は診ていただきたい画像があるんです。娘のものですが」

そう口をついて出た。医師は快諾した。

「いいですよ。診るのが私の仕事ですから」

西宮渡辺心臓脳・血管センターの大森一美医師。脳動脈瘤手術を含む3000回の開頭手術を経験したという、脳神経外科医。頭蓋底領域に詳しく、海外からの出張要請にも応じている。セカンド・オピニオンの依頼も受ける、まさに脳のCT画像を診るスペシャリストだった。

そのときの思いを、母親は振り返る。

「奇跡が起きたと、胸が熱くなりました。死因に関して、一審とは違う方法で証明できるかもしれない。後で知ったのですが、先生の診察日は週1度。その日に私は受診していたんです。コロナ禍で先生の海外出張が中止となり、日本にいらしたのも幸運でした」

逆転判決「死因は外傷性くも膜下出血」

二審判決は、「大森所見」を次のように証拠採用している。

・CT検査結果では、血腫量が動脈性出血を示唆する量となっている
・血腫が脳表だけでなく脳幹から頸椎を超え胸椎レベルに達している
・頸椎亜脱臼の所見が見られることからも、頭蓋内に入ってすぐの動脈が損傷した可能性が高い
・明らかな動脈瘤は指摘できない
・殴打されて頸部が急激に回旋し、頸椎動脈に亀裂が生じて縦向きに解離、外傷性くも膜下出血が生じたのではないか

大森医師の意見書は、鑑定書と矛盾しないこと、また同様の症例報告が、他の医学論文にもあったことが決め手となった。

医師には、娘が引き合わせてくれたのかもしれないと感じる。その意見書を裁判所に提出できたのは3月中旬。控訴から2ヶ月が経っていた。あと1週間遅ければ間に合わないところだった。

奈緒子さんが亡くなった兵庫県立西宮病院

警察はストーカー事件の連鎖を見過ごした

11月の傷害事件、12月の傷害致死事件。2件は連続して起きている。

1件目は兵庫県警生田署管内のダーツバーで起きた。店の通報で駆けつけた警察は男を無罪放免とした。奈緒子さんは全治1ヶ月の大怪我を負ったが、DVの被害届が受理されたのは事件から3週間後だった。

芦屋署管内の路上で傷害致死事件が起きたのは、さらにその1ヶ月後だ。その間に、奈緒子さんは弁護士を通して治療費などを請求したが、支払いを装って男は再接近、ストーカー行為に及んでいたようだ。

1件目の事件で警察が男を逮捕していたら、あるいは、男に適切な指導警告を行なっていたら、2件目の事件は起きなかった可能性がある。1件目の逮捕・送検が2件目より後だったのも、不自然な流れだ。

さらに不可解なのは、迷走とも感じられる検察の動きだ。傷害致死事件後、男が処分保留のまま保釈されたのは2月5日。2件の事件について不起訴処分が下されたのは、4月11日。

審理が長期間に及んだ背景には、いったいどんな事情があるのか。「(被害者に)動脈瘤がなかったとは言い切れない」という理由で不起訴にした医学的な根拠はどこにあるのか。母親は、事件の再捜査を望んでいる。

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