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DV・ストーカーに娘を奪われた母 二審勝訴でも真相解明を望む思いとは

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娘は男の暴力によって命を落とした-----。母親が元交際相手の男を訴えていた民事裁判。その経緯は今年1月、「『因果関係ないなら、なぜ娘は死亡した』 DV・ストーカーで娘を奪われた母親の5年間」と題した一文で紹介した。

傷害罪で送検されたものの刑事事件としては不起訴処分となった男に対する損害賠償を求め、母親は神戸地裁に提訴していたが、一審は殴打と死因との因果関係を認めなかった。これを不服として、大阪高裁に控訴。二審判決が6月下旬に言い渡され、一審判決を覆す逆転勝訴を得た。導いたのは、娘が命と引き換えに残した脳のCT画像だった。

母が執念で引き寄せた控訴審の勝訴

大阪高裁の一室、裁判長は着席すると低い声で判決を読み上げた。

令和3年(ネ)第270号 損害賠償等請求控訴事件
主文、原判決中、主文第2項を次のとおり変更する。

(1)被控訴人は、控訴人※1に対し、1000万円※2及びこれに対する平成28年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(筆者注 ※1原告名省略 ※2請求額の全部)
亡くなった奈緒子さんと母親

主文は、一審で認められなかった被告への損害賠償請求が、二審では認められたことを意味する。娘の奈緒子(仮名、当時27歳、派遣社員)さんは、男(当時32歳、会社員)に殴打されたことによる外傷性くも膜下出血で亡くなった。裁判所はそう判示した。

そのとき、原告席に座る母親が小さく頷いたように見えた。「勝ったんですね」と、誰にともなく呟く。代理人の目元もほころんでいた。原告には奈緒子さんのふたりの兄も名を連ねていたが、その賠償請求もほぼ全額が認められた。

男が不起訴になった当時、神戸地検はその理由を、「嫌疑不十分。脳動脈瘤がなかったとは言い切れない」としたが、娘の脳に動脈瘤などなかった。そう信じる母は、今年1月に控訴してからも医学的な証拠を求めて奔走した。もし敗訴なら、上告するつもりだった。

ドライブレコーダーに残された怒声

傷害致死事件は2015年12月28日0時50分ごろ、JR芦屋駅(芦屋市船戸町)付近で起きた。奈緒子さんは元交際相手の男に、タクシーの車外で顔面を殴打された。男は容疑を認め、現行犯逮捕された。

奈緒子さんは心肺停止の重体に陥り、救急車で病院に搬送されたが、2週間ほど後の翌年1月10日、入院したまま帰らぬ人となった。

傷害致死事件が起きたJR芦屋駅前の現場

その顔に男の手が当たったと思われたとき、崩れるようにして倒れ込んだと、無人の交番から110番通報したタクシー運転手が証言している。それは、ドライブレコーダーに記録された男の怒鳴り声の直後だったと、二審では認められた。

判決の後、母親は安堵の表情で語った。

「ドライブレコーダーの音声と画像は、一審では証拠採用されませんでした。二審ではそれを元に検証してくださり、頭が下がる思いです。車内で口論していた娘と男の姿がレコーダーの画像から消えた後、つまり、タクシーから降りた後、男が怒鳴り声を上げたのが音声に残っています。そのとき娘は殴打されたようです」

「自分こそ被害者だ」と主張した被告

判決の翌日、母親と共に事件現場となったJR芦屋駅周辺を歩いた。毎年、命日に花束を手向ける駅前交番の前から、車道を見る。

「この場所で最期にどんな景色を見たのかと思うと、何年経っても辛いですね。あの夜、別れたはずの男となぜ大阪で会ったのか。なぜ芦屋駅からタクシーに同乗したのか。まだ分からないことが多いです」

ただ、男の主張は証拠のないデタラメばかりだったことが、二審判決で明らかになり、それが勝訴と同じように嬉しいと、母親は言う。自分に非はないと、男は一貫して次のように主張していた。

・自分は(現場で)暴力を振るっていない
・タクシーに乗車中、奈緒子が一方的に暴力を振るった
・死因は酔っていたこと、奈緒子の因習(飲酒、喫煙など)、持病(バセドウ病、貧血)、車外の寒気
・自分は、「迷惑かけるのはやめよう、帰ろう」と、奈緒子の手を引き一緒に帰ろうとした

二審の舞台となった大阪高裁

二審では、殴打した瞬間についても主張した。
・奈緒子がタクシーから勢いよく飛び出して来て、自分の髪を鷲掴みにしたため、その手を剥がそうとして掴んだ
・通報の後、運転手はタクシーの真後ろの車道にいたので、ふたりの様子を見ることはできない。殴ったというのは思い込み

男の反論はことごとく却下されたが、その書面を見るにつけ、また法廷で耳にするにつけ、母親は男への怒りに震えたという。

「被害者は自分だとも主張しました。交際していた7ヶ月の間、娘はDVに苦しんでも泣き寝入りせず、体を張って抵抗していた。裁判になると男はそのことを利用して、娘を加害者だと言い張ったのです」

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