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  • 2021年07月20日 09:28 (配信日時 07月20日 06:00)

五輪批判は開幕後にトーンが変わるのか? 繰り返される過去の報道パターンとは - 佐々木正明 (ジャーナリスト、大和大学社会学部教授)

新型コロナウイルス禍で1年間、開催が遅れた東京五輪・パラリンピックの競技がいよいよ7月21日のソフトボール女子開幕戦でスタートする。開会式は23日夜。コロナ禍の感染拡大で、開催是非論が沸き上がり、直前になっても大会関係者の舌禍や過去のスキャンダルをめぐって対象者を辞任まで追い込もうとするキャンセルカルチャーが続いている。

しかし、過去大会の開催国の状況を見てみても、大会への猛烈な非難が浴びせられるのは開会式まで。近年の成功例とされるロンドン大会でも、運営を担った大会関係者トップが「(ネガティブ批判報道は)いずれ消えてゆく。ポジティブなものに変化する」と断言する。東京の感染拡大で、米紙ワシントンポストは「(ここまでは)完全な失敗に見える」と評したが、メディアの報道ぶりは幕を開けた後、どうなるか?

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筆者は新聞社の特派員として2014年ソチ冬季五輪、2016年リオデジャネイロ夏季五輪を現地に滞在し、取材した経験を持つ。一言で感想を言うのなら、ソチもリオも様々な問題が噴出し、安全上のリスクが山積。正直、開催どころではなかったのが実情だ。

ソチでは開催7カ月前に独立派武装勢力の指導者が「どんな手段を使ってでも五輪を阻止する」と宣言。ソチの近隣地域で自爆テロが相次ぐようになり、開催40日前には厳重な警備網をかいくぐって、露南部の要衝都市で50人以上が死傷する連続爆破事件が発生した。

大会期間中も、テロ容疑者がソチに侵入したとの情報が入り、外見で腹が膨れた人は爆弾を巻き付けている恐れがあるとして、街で警察当局の執拗なボディチェックを受けた。

リオでは開催数年前から経済状況が落ち込み、国家統制は麻痺状態に陥った。大統領は大規模汚職事件で検察当局の捜査を受け、多くの国民が五輪を招致した政権にかみつき、抗議デモは日常茶飯事。そのうえ、ジカ熱の蔓延で、日々、テレビや新聞は五輪以外のニュースで連日埋め尽くされた。

さらに、税収の落ち込みが響いて、自治体は財政が逼迫。学校や病院の公的機関では教員や看護師らが給与未払いを理由に勤務をボイコットし、休校・休院を余儀なくされた。

当然、治安を守る多くの警察官も給料未払いに。それでも、ギャングとの抗争で2日に1人、殉職する過酷な状況で、開催1か月前のリオ国際空港で、給料を数か月間受け取っていない現役の警官、消防隊員らが「地獄へようこそ」と横断幕を掲げて、「いくら犯罪にあってもあなた方(外国人五輪関係者)を守れない」と訴えた。

それでも、ロシアもブラジルも国家の威信をかけて、大過なく大会の運営を最後まで貫いた。1972年ミュンヘン五輪では選手村が襲撃され、選手・コーチ、警官らが死亡。1996年のアトランタ五輪では、開催中に会場近くの公園が爆破され、多数の死傷者が出るケースを見てみても、ソチ、リオで犠牲者が出なかったことはもっと評価されてもいい。

開催への懸命な努力も「有観客」には批判の声

こうした過酷な大会前の状況を経験してきた、トーマス・バッハ会長をはじめ、国際オリンピック委員会(IOC)関係者は現在の日本の状況をどう思うのだろうか。大会運営に欠かせない治安維持や準備状況に、注文はついていない。コロナ禍で何度もゼロベースからの計画見直しを余儀なくされた大会組織委員会やその関係者は、聖火の灯を消すまいとここまで懸命な努力を続けてきている。

確かに新型コロナ感染者はデルタ株のまん延で再び拡大傾向にあるが、ワクチン接種の効果もあって、重傷者や死者数は次第に減少傾向にある。欧州や南北米州の各国では再び再流行に入っているが、幸い、日本の感染状況はそれに比べるとまだ緩やかな方だ。

休日ともなれば、繁華街は多くの人でにぎわい、人流は夜間も絶えない。国内のスポーツ大会を見ても、大相撲やプロ野球は会場への有観客で開催されているが、クラスター発生の報告はされていない。日本国内はMLBで大活躍する大谷翔平選手のプレーに大喜びしているが、米国では今、1日平均1万人以上の感染者。死者数も130人以上出ている。

日本よりも状況が悪化しているのに、試合が他国開催であれば、マスクなし観戦も批判しないのか?

バッハ会長は菅義偉首相と会談した際に「コロナの感染状況が改善した際に観客を入れてほしい」と要望したが、このニュースを伝えたyahooの掲示板には専門家を含め批判一色のコメントに染まっている。かつての大会で開催国の事前状況がどうだったのかや、関連してコロナの世界的状況を一緒に報じているメディアも少なく、バッハ会長が「有観客」を訴えたのも、上記に挙げたような背景を知れば、その理由がわかるだろう。

「五輪が始まるとポジティブなものに変化」

近年の五輪は、開催国国内で大会前まで痛烈な批判が浴びせられる特徴がある。成功例とされるロンドン大会でも、開催費用が膨れ上がり、メディアは批判キャンペーンを展開した。

筆者は東京大会の延期決定前に、英国オリンピック委員会(BOA)トップのビル・スウィーニーCEO(最高経営責任者)にインタビューしたことがある。

スウィーニー氏はロンドン大会の経験を踏まえ、日本の大会関係者に向けて「ジャーナリズムのネガティブな声に耳を貸すなと言いたい」とアドバイスした。

リオ大会ではジカ熱の蔓延や治安の悪化で、大会前には警告報道が散々繰り返された。しかし大会が始まってからは一変。選手たちの奮闘で連日盛り上がって、成功裡に事が進んだ。

東京大会についても、海外のメディアは過酷な天候、東京の街の複雑さ、ロジスティックスの難しさについて「センセーショナルでネガティブな報道」をするはずだが、スウィーニー氏はそうした大会前の報道ぶりは「概してそういうもの。事前にはものすごく心配するけど、実際に五輪が始まるとネガティブな雰囲気は去って、ポジティブなものに変化する」と経験則を踏まえて語った。

現代社会は多種多様な価値観がぶつかりあって、そうした軋轢や摩擦が飛び交う「情報の海」の中にわれわれは生きている。たらればだが、コロナ禍がなかったとしても、きっと東京大会も開催前は様々な問題が噴出し、批判報道が展開されたに違いない。

100年の1度のパンデミックの最中に行われる東京大会。報道ぶりのビフォーアフターを検証することも、今後の五輪パラの開催を考える上で一つのレガシーとなるだろう。

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