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マスメディアの無能~狂牛病の脳と化す報道コンテンツ(上)

定型パターンを繰り返す

相変わらずメディアの報道はなかなひどい。これは、今回のアルジェリア事件についての報道も該当する。

事件について同じ情報をひたすら繰り返し、犠牲者の名前を公表し、犠牲者の遺族にインタビューし(もっぱら泣いたり、悲しんでいる顔を収めたいらしい)、犠牲者はいい人だったと語らせ(犠牲者は絶対に素晴らしい人しかいない)、さらに日揮の担当者の記者会見では「ご遺体に、どんなことばをかけてあげたいですか」という質問をする(答えは聞かなくてもだいたいわかる。同じだから)。そして、いわゆる「識者」に適当にコメントしてもらい(これも聞かなくても何を話すのかはあらかた予想がつく)、チャンチャンということに(この場合「識者」とは、そのことに詳しいと言うよりも、肩書きが問題になる。たとえば「大学教授」とかは、その典型。で、しばしばピントが外れている)。こういった一連のマスメディア報道、まとめてしまえば「創造力の欠如」と括ることができる。

もちろん情報収集もマトモにはなされていない(経済、能力二つの面で情報収集は事実上、不可能)。事件についてメディアがやっていることはひたすらクリーシェ=定型句の繰り返し(橋下徹が衆院選時、記者がクリーシェな質問したことに激怒したことがあったけな?)。映像も同じものを何回も何回も流す。報道もワンパターン、しかもどの局も同じという状況。言い換えれば、他の事件であってもほとんど異口同音の報道が繰り返されるのだ。だから、僕らとしては、報道が流すこういったクリーシェをかいくぐって、事の実際は何なのかを再編集、考え直すという作業が必要となる(これは、本来ならばマスメディアが担う仕事なのだけれど)。

さて、メディアが無能だ、バカだといってしまえばことは簡単だ。ところがマスメディアはふざけているというのではなく、これでも意外とマジメにやっているという事実をご存知だろうか?でも、結局、こういったふうなヒドいコンテンツの提供になってしまっている。ということは自覚症状がないわけで、要するに重傷と言うことなのだけれど。

今回は、定型化し創造力を失ってしまうに至っているマスメディアの構造について考えてみたい。

マスメディアの活動を促す原動力は「経済原理」

マスメディアが活動する基本原則は、今や、かつて以上に完全に経済原理だ。つまり新聞・雑誌なら発行部数、テレビなら視聴率ということになる。ただし、これはあからさまには言われない。そして、面白いことにマスメディアに関わっている人間の多くも、そうは思ってはいない。時代劇の「越後屋と悪代官」のように、カネ儲けをめぐって「そちも悪よのう」といったふうな確信犯的な感覚=カネ儲け主義を持ちあわせてはいないのだ。むしろ、事実、真実を報道しようというスタンスで活動を行っている。ところが、これが無意識のうちにねじ曲げられていく。つまり、本人たちも知らないうちに「経済原理の虜囚」に陥っていくのである(言い換えれば「無知の知」を知らない。だから「重傷」なのだけれど)。

経済原理の虜囚に陥るプロセス

経済原理の虜囚に至るのは次のような要因による。日本のマスメディアの原則は「客観報道」「不偏不党」だ。つまりどこにも偏ることなく、常にニュートラルな視点での報道を旨とする。ところが、それは翻って「オピニオンの無さ」に結びつく。オピニオン=報道側のスタンスや主張が存在しないのなら、報道の行き着く先は科学主義ということになるのだろうけれど、これは費用対効果的に見て無理だ。科学的に実証しようとすれば膨大な費用がかかってしまうからだ。そこで用いられるのがオーディエンスの欲望に忠実な展開をすること。

つまり、マスの意見が客観報道と捉える。だが、それは突き詰めてしまえば「興味本位」ということに落ち着く。そして、これに忠実に従えば、それが結果として視聴率や発行部数に繋がるわけだ。つまり「客観報道」というタテマエが大衆迎合=ポピュリズムを呼び、結果としてカネ儲けを正当化するものに転じてしまう(よく「報道の自由」とか「知る権利」とかマヌケな理屈を振り回すけれど、これなどは「無知の知」を知らないことからくる無責任な発言だろう。自分が経済原理に包摂されていることに気づいていないのだから)。


ただし、こうやってオーディエンスの興味を喚起したとしても、本来なら、それでもそれなりに面白いものが出てくるはずである。ここで創造力を発揮することは十分可能だからだ(そうなれば、これはこれである意味「面白い」のだが)。しかし、そうはならないで、定型化する。というのも、今度は外部的要因がそうはさせないからだ。

人権意識の高まりがコンテンツを形式化する

そのひとつは、現代の人権意識が高まったこと。いたずらに好奇心を惹起するようなコンテンツを掲載すれば、それはプライバシーに抵触し裁判沙汰になる。だから表現は穏当なものに押さえられる。たとえば、被害者を攻撃するようなおそれのあるコンテンツを掲載することは危険きわまりないので、決してやらない(「被害者は」は絶対善であり、どんな人であろうと「神聖にして冒すべからず」なのだ)。また、差別に抵触する可能性のあるものも取り上げない。たとえば、テレビなどで使ってしまった場合にはお詫びすることになることばとして「放送禁止用語」がある。実は、これは正しくは「放送自粛用語」であり、民放連が定めたもので、仮に発してしまったところで法律的な罰則があるわけではない。ただし、事実上「禁止用語」として扱われるのは、こういったリスクを回避しようとする動機に基づくからだ。

われわれのオタク化もコンテンツを形式化する

もう一つは情報化に伴う価値観の相対化だ。今や「オタク」の時代。人々は細分化した趣味、価値観の中にタコツボ的にアタマをツッコミ、その小さなパラダイムの中で生息している。しかも、こういった状態が「一部のオタク」ではなく、社会的性格として国民のほとんどがある程度分有している。つまり「オタクなあなた」ではなく「あなたの中のオタク」という時代。

一方、マスメディアはその名の通りマス=大衆をオーディエンスとして設定している。大衆は価値観を一様とする人々だが、今や大衆であるオタクは「価値観がバラバラな大衆」という矛盾した存在。ということは、マスメディアがこれらオタクたちに一様に情報を提供することは限りなく不可能。細分化された情報全てに対応すればコンテンツの量は膨大なものになるし、仮にそれぞれを満遍なく掲載できたとしても、それは必然的に1つ1つの取り扱いが限りなく小さくなる。つまり、これまでのボリュームで細々と掲載したら情報はスカスカになってしまうのだ。そんなものを誰が見たい、読みたいだろうか。


マスメディア報道のBSE脳化 こんな八方ふさがりの中で表現を展開すれば、結果としてコンテンツは「薄っぺらい、当たり障りのない、定型的なもの」というコンテンツが必然的な帰結ということに行き着く。ただし、こういったことをマスメディアの送り手たちが自覚しているとすればまだ救いようがあるのだが、残念ながらそのようになってはいないようだ。ひたすら客観報道というオーディエンスのニーズ=欲望に応えるとともに、その中からリスクを回避するというスクリーミングを行っているうちに、気がつけば、いや気がつかないうちに定型だけが残ったというわけだ。僕はこれを「報道のBSE化」と呼んでいる。つまりコンテンツは意味が完全に落とされ、セルだけになって、報道内容が定型=形だけの、まるで狂牛病の脳のようなスポンジ状態になってしまっている。

そして、このBSE化は負のスパイラルにも、また陥っている。リスク回避+コンテンツの平板化→オーディエンスのマスメディア離れ→収益の悪化→予算の削減→いっそうのリスク回避+コンテンツの平板化→オーディエンスのいっそうのマスメディア離れ。その「なれの果て」がアルジェリアでのテロ報道ではなかったか?遺族にインタビューしてお涙ちょうだいなんてのは、はっきり言ってどうでもいい話なのだから。

この悪循環、つける薬はあるのか?(続く)

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