- 2021年07月16日 12:11 (配信日時 07月16日 08:15)
「大企業の社長が立てる目標は軽すぎる」ワークマン土屋哲雄専務がそう言い切る深い理由
1/2社員に競争を煽ったり無理をさせたりしないのに、しっかり業績を伸ばす会社は何が違うのか。連載「社員を追い詰めない“脱力系”企業」第1回は「しない経営」で10期連続最高益を成し遂げ注目を集めるワークマン。なぜワークマンでは脱力しながらも業績を伸ばせたのか、これは他企業でも実践可能なのか、専務の土屋哲雄さんに聞いた――。
決算発表を遅らせたこともある
ワークマンが定量的な目標(数値目標、仕事の期限など)を社員に押し付けない、社員を追い詰めない会社であることは、前編の若いふたりの社員に対する取材で確証を持つことができた。

ワークマン 土屋哲雄専務 - 撮影=プレジデントオンライン編集部
今回、土屋哲雄専務に伺ってみたいのは、なぜワークマンでそのようなことが可能なのか、そしてワークマン方式は他の企業でも可能なのかどうかである。まずは、前者について質問をしてみた。
「数値目標や期限を決めないといっても、いわゆる制度対応、たとえば、消費税率の引き上げとかレジ袋の有料化といったことは、期限内にやらなければなりませんよね。しかし、そんな仕事は全体の10~20%しかありません。残りの80%の仕事は、基本的にいつやってもいいんです。実際、ワークマンでは新店舗のオープンが間に合わなければ遅らせるし、決算発表を遅らせたことさえあります」
経理部社員の負担軽減を優先した
オープンの日や決算が遅れれば、対外的な信用を落とすことに繋がりはしないだろうか。
「たしかに上場会社が5月15日ギリギリに決算を出すと、監査上の問題があったんじゃないかと勘繰られるかもしれない。しかしその一方で、時間をかけてしっかり監査してもらうことのメリットも大きいんです。毎年きちんと監査をしてもらって1億、2億の修正をする方が、5年分まとめて10億も損を出すより企業の傷ははるかに小さい。決算を遅らせたのは、言い換えれば、IR的にいい会社であるという「決算早期化」の指標を捨てて、監査法人に質の高い仕事をしてもらい、経理の社員に残業させないことを選択したわけで、あらゆることはトレードオフの関係にあるんですよ」
納期がないので意地でも催促しない
つまり、ワークマンでは常に定量的な指標は捨てて、定性的な目標だけを追求しているということだろうか。
「対外的な制度対応を除いた80~90%の仕事に関しては、基本的に納期はいつでもいい。そう宣言している以上、私も意地でも催促をしません(笑)。その代わり、ワークマンの目標達成率は100%なんです。だってできるまでやるんですから。2、3年かかっていいからと言えば、たいていの目標は達成できますよ」
40年前から「しない系」の会社
それがワークマン方式であるのはいいとして、ではなぜ、時間や期限といった定量的な目標ではなく、仕事のクオリティーを上げることや社員のストレスを軽減するといった定性的な目標が選択されるのか、いや、選択することが可能なのだろう?

6月にオープンした#ワークマン女子南柏店 - 写真提供=ワークマン
「ワークマンは余計なことは一切しない会社です。もちろん社内行事もしませんが、この場合、社内行事をやることで社内のコミュニケーションが良好になることと、そのしわ寄せで残業が生じることのトレードオフになり、ワークマンでは社員の働きやすさ、つまり残業をさせない方がより価値が高いと判断をするわけです。社員の働きやすさを優先するという考え方は、加盟店のオーナーさんの採用にも反映しています」
どういう意味だろう。
「売り上げを最大化するようなガツガツした人は採用せず、自然体で人柄のいい人を選んでいるのです。いくら売り上げが増えたって、人柄が悪くてガツガツした人だと、社員がSVとして訪店した時にプレッシャーがかかるじゃないですか。お客さまに対しても同様で、売り上げ売り上げ言ってるオーナーが、まごころを持って接してくれるとは思えません。だから、人柄で選ぶんです。
このように、どちらか一方の指標を捨て去るには勇気がいりますが、なぜワークマンの現場がそうした勇気を持てるかといえば、ひとつには、ワークマンがすでに40年前から『しない系』の会社であり、90%はしない系のDNAになっていたということがあります。そこに私が、働き方改革や社員のウエル・ビーイングといった要素を10%だけ付け加えたと、こういうことだと思います」
ワークマンが40年前から続く「しない系」の会社であるのは、当然、ワークマンが個人向け(法人を対象としていない)作業服というニッチなジャンルをほぼ独占してきた企業であることと深く関連しているだろう。
売り上げではなく客数を増やす
作業服は消耗品だから常に一定のニーズがあり、機能優先でデザインに流行り廃りがない。そうした業界特性の中、ワークマンは高機能な商品を最安値で販売するというポリシーを貫くことで、高い支持を集めてきた。
「別な言い方をすれば、ワークマンは売り上げを増やそうとせずに、客数を増やそうとしてきたのです。売り上げを増やすために製品単価を上げれば儲かりますが、儲かるとなると新規参入が増えて競争が激化してしまう。だから、ワークマンの経営指標は売り上げではなくて客数なんです。客数が増えて売り上げが増えたら、その分をお客さまに還元してさらに値段を下げてしまうのです」
そこまで徹底して低価格を追求していれば、競争者は簡単には現れない。その結果、ワークマンと常連客との間には、絶対的な信頼関係が成立することになる。
値札を見ずに買っていく顧客
「店舗を観察していて気づいたことですが、ワークマンのお客様は滞留時間がとても短い。なぜなら、値札を見ないで商品をレジに持って行くからです。良心的な価格であることを信じて下さっているから、値札をチェックする必要がない。みなさん、デパートで値札を見ずに買い物をしますか? 値札をチェックするのは価格に不安があるからですよ」

安くシンプルな価格設定で、値札を見ずに買っていく顧客が多い。 - 写真提供=ワークマン
低価格の実現に貢献しないことは徹底的に「しない」ことで、ワークマンは40年という長きにわたって客の信頼を獲得し、その圧倒的な信頼が安定経営の支えになってきた。だから、客の信頼を裏切るようなことはしない。そして、裏切りの最たるものが、「短期的に売り上げの拡大を図ること」なのだろう。
トレードオフの関係にある選択肢のどちらを選ぶかという判断には、常に「低価格の実現」と「長期的な信頼の構築」に資するか否かというモノサシが当てられる。現場が勇気ある選択を下せるのは、暗黙のうちに、こうしたモノサシが共有されているからではないだろうか。
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