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「平成24年著作権法改正」が教えてくれたもの

今年の1月1日から、既に全面施行されている平成24年改正著作権法。

新たに施行されたのが“権利制限規定”という地味な規定、ということもあって、昨年10月の違法ダウンロード刑事罰化実施の時ほど、大きな話題にはなっていないし、規定の性質からして、今回新たに導入された規定が華々しく脚光を浴びるのもだいぶ先のことになるだろう。

だが、昨年10月施行分、本年1月施行分のいずれについても、今回の法改正が与えてくれた示唆が、この業界で新たな規律の生成過程にかかわり、これからもかかわっていくであろう実務家にとって、非常に大きいものだった、というのは間違いないわけで、つい先日公表された明治大学知的財産法政策研究所(IPLPI)のシンポジウム、「平成 24 年著作権法改正の評価と課題」(2012年8月4日実施)の議事録にも、本改正の“インパクト”を象徴するような興味深い議論の数々が残されている。

新たに導入された権利制限規定、特に個々の条文の解釈の可能性に関する議論は、既に昨年末のエントリー*1でもご紹介したところであり、重複するのでここでは割愛するが、法制問題小委員会内のワーキングチームでの議論から今回の権利制限規定の制定に至るまでの一連の経緯に対して福井健策弁護士が投げかけた、

「フェアユースというのは本来現存するニーズをすくうためにある制限規定なのか」


という問題提起(17頁)などは、今後の権利制限規定を巡る議論の中でも、常に問いかけられることになるもののように思われ*2、同じサイトにアップされている講演録と合わせて、今一度、読み返してじっくり思考をめぐらせたい、そんなテーマだといえる。

「議員立法」への評価をめぐって

さて、本エントリーで紹介しておきたいと思っているのは、多くのネットユーザーから批判を浴びた「議員立法で違法ダウンロード刑事罰化が行われた」という点に関する、前記シンポジウムでの議論である。

議事録を見ると、冒頭で、上野達弘・立教大教授が、国会議員という「民主性の高い存在」に敬意を払いつつも、政策形成過程におけるバイアスの問題等を指摘した上で、

「国会議員による議員立法だから無条件に良いとも言えないところがあるのではないか」(4頁)


という指摘を行ったうえで、さらに、

「結論について賛成する人は別にプロセスはどうでもいいと思うかもしれません」

「たとえ結論が良くてもやはり議論を経ていないというのはプロセスとして問題があるのではないかと思います。」(以上5頁)


という問題提起を行っている。

平成24年改正に続き、現在進行中の「出版社の権利(著作隣接権)創設」問題においても、議員立法で強引に新たな規律の導入が図られそうな気配になっていることから、「審議会で出された結論を軽視するな!」というトーンで“議員による立法過程”そのものを批判する実務サイドの声も決して少なくないのだが、理屈でいえば、所詮は民主的基盤を持たない組織である「審議会」の議論よりも、「国会議員の意見」の方が優先されるのは当然のこと。

その意味で、「国会議員が立法したこと「(実質的な)議論を経るプロセスの欠如」に焦点を当てる上野教授の問題提起は、バランスの良いものといえるだろう。

そして、このようなスタンスをおおむね支持するのが、奥邨准教授の以下のようなコメントである。

「私は、国会が修正するということ自体はむしろ当然のことなのだと思うのです」(38頁)

「『議員立法』がどんどん行われるとか、『議員立法』ではないですけれども、政府案を国会で修正していくんだということであれば、より精緻に逐条解説のような形で法案そのもの条文そのものについて、徹底的に議論をしていただかないと、と思うわけです。政府案で、審議会などで議論が積み上げられてきたのと同じレベルの議論の蓄積がないと、後で困るということになるので、ぜひそれをやっていただきたい。」(39頁)


司会の金子敏哉専任講師が指摘するような「戦前の議会」的な逐条審議を今の国会に求めるのはさすがに厳しいように思われ、「(国会で)やっていただきたい」という発言の裏には、“やはり審議会でやらないとダメでは?”という意識も見え隠れするのであるが、現状はともかく、将来的には、「(審議会ではなく)国会でじっくり議論する」という慣行に切り替わっても良いのになぁ・・・というのは、自分もかねがね思っていたところだっただけに、興味深いコメントだった。

また、福井弁護士は、上野教授、奥邨准教授と同様に、「議員立法」というプロセスには理解を示しつつも、

「もっとも今、『議員立法』を先導する人がいる場合、それは審議会で議論しては容易に通らないだろうという予測の下に『議員立法』を推進するケースが典型例のように思えるので、そういう場合は多分オープンな議論を求めていないのでしょうね。ですから「そういう秘密ルートではないのだ」という前例をぜひ政治にはつくってほしいなと思いますね。「議員立法」をやるということは、むしろ「より透明に徹底的な議論が必要とされるということなのだ。それを乗り越えてくるのだね」というような覚悟が必要じゃないかなと。」(40頁)


と、これまた若干異なるアプローチからこの問題に切り込んでいる。

これなどは、まさに今起きている「出版者の権利」の問題そのもの(笑)。

いわゆる「立法過程におけるロビー活動」が、その活動の性質上、どうしても水面下に潜ってしまうことが多いことから、(深く考えた上でのことではなくても)「秘密ルート」というそしりを受けやすいのも確かだが、議論内容の充実に加えて「透明性」も求められる、とする福井弁護士の指摘には、自分も大いに賛同するところである。


「シンポジウム」という性質上、議論を通じて何らかの明確な結論が示されているわけではないのだけれど、今後、権利者側から今回の改正と同じような動きが出てきたときに、どこまでが許容できる動きで、どこからが許容できないことなのか、ということを考える上で、あるいは、“海賊党”的な、ユーザーサイドの利益を立法に取り込むような勢力が、まさかまさかで本当に立法機関の中に登場してきたような場合に「結果良ければすべて良し」的な安易な発想に陥らないようにするために、上記の議論は非常に役立つことだろう。


・・・ということで、本改正については、まだまだネタが尽きないところであるが、とりあえず今日はこの辺で。

*1http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20121229/1356951730

*2:このような“将来的な変化と多様性に柔軟に対応する”権利制限規定を志向する意見に対し、ワーキングチームから今回の改正法の議論に加わっている奥邨弘司・神奈川大准教授は、アメリカのフェアユースについて「それほどリーチが広くない」ことを指摘し、「時々、新しい利用を取り込むということがあるのですが、それも期待しているほど柔軟なものなのかどうか私自身まだ判断がつかないところがあります」とコメントした上で、(現実的なニーズを元に)「『小さく産んで大きく育てる』ということでよかったのではないか」というささやかな反論を行っている(18頁)。

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