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【読書感想】生涯現役、火事場の漫画家仕事術


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生涯現役、火事場の漫画家仕事術 (ワニブックスPLUS新書)

「一番好きなことを仕事にできて、ボクは心から幸せだと思っています」

――超人気漫画『キン肉マン』の漫画家、ゆでたまご・中井義則が贈る、家族、スタッフ、相棒、超人、そして愛読者への感謝と友情メッセージ!


・第1章 『キン肉マン』との不思議な縁 ――私にとって、『キン肉マン』という作品はどのような存在か

・第2章 スタジオ・エッグの365日 ――『キン肉マン』は、こういうところで、毎週こうして作られる

・第3章 漫画家という仕事 ――最高に苦しく厳しい仕事の中に、隠れた無限の魅力がある

・第4章 努力こそが最大の武器になる 年齢なんかに負けたくない ――自分の気持ち、願いに素直で居続けられるための心がけ



 2011年11月から、24年ぶりにWEB上の週刊連載として復活した『キン肉マン』。 

 この間、『週刊プレイボーイ』で『キン肉マン2世』が長期連載されていたこともあり、あまり「久々の復活!」という感じはしないのですが、漫画家として「雑誌媒体から離れる」ことに関して、「ゆでたまご」のお二人には、かなり抵抗があったようです。

 当時、ネットでもWEBでの連載を打診された「ゆでたまご」のお二人の困惑と嘆きが、けっこう話題になっていましたし。

 

 しかしながら、蓋をあけてみたら、この「挑戦」は、いまのところ成功しているようです。

 でも当時の状況に一種の閉塞感を覚えていたのもたしかですし、何より私たちはもう50歳を超えています。持病もあるし、描けなくなる前にこれだけはやっておきたい。それで最終的には『キン肉マン』を復活させるという、漫画家生命を賭けた大博打に出ました。

 それから1年。結論を出すにはまだまだ早い時期ですが、今のところは多方面からご好評をいただき、コミックスの売上も大幅に伸び、限りなく大勝利に近い状況を作り出せているのですが、ここまで来てようやく、身に染みてわかったことがあります。


 復活してからの『キン肉マン』は、幸い今のところ1年以上続けられていますが、その最大の理由は、嘘偽りなくドライな言い方をしますと、コミックスが売れてくれているから。現実的な理由としては、ただその一点に尽きるんです。

 どんなに私たちが頑張っていい原稿を仕上げて、中身も面白いねと評価してくれる人がいたとしても、昔のよしみで「頑張れよ」と言ってくださる方がいたとしても、まだ今の集英社内に顔見知りが何人か残っていたとしても、でも実はそんなもの、本当に悲しいくらいに、連載を続けるための何の説得材料にもなりません。本当です。

 だからこそ、コミックスを買ってくださる読者の存在がそれほど大きく有難いことか。そしてそんな読者の方々がいてくれないと、私たちは漫画を描けなくなってしまうということを、ウェブ連載に移ってからますます、身に染みて感じています。


 僕は『キン肉マン』がウェブ連載になる、という話を聞いて、正直「都落ち」的な印象を受けましたし、それは、「ゆでたまご」のお二人にとっても、同じだったのではないでしょうか。

 それでも、集英社のウェブサイトの宣伝の要素もあるんだろうな、と思っていたのですが、この本を読むと、本当に「コミックスが売れなかったら終わり」という契約だったようです。

 結果的には、その厳しい条件が、中井さんたちを奮い立たせた面もあるんですよね。

 試合の展開を早くして、一試合にかかる話数を減らす、などの工夫もあって、『キン肉マン』の連載は1年以上続き、コミックスも売れています。

 しかし、雑誌媒体ではなく、ウェブ連載という形式でも、結局は「コミックスの売上頼み」という漫画界の構造は変わらないのか……とは感じます。

 また、一冊の漫画雑誌に、さまざまな漫画が入っているという形式は、漫画の「多様性」を生みやすい面もあるわけで、無料のウェブ連載で「コミックスの売上だけで勝負」となると、同じような「売れ線漫画」ばかりになってしまうのではないか、という気もするんですけどね。


 「ゆでたまご」のお二人のうち、ストーリー担当の嶋田隆司さんは「『ゆでたまご』のスポークスマン」として、いろんな媒体で話をされているのですが、作画の中井さんは、あまり表に出ることはありませんでした。

 このふたりの性格は、藤子・F・不二雄のお二人に似ているようにも思われます。


 漫画家としての1週間のスケジュールや、『キン肉マン』の作画についても、けっこう詳しく語られていますし、中井さんがプロの漫画家になってからも、「少しでも良い絵が描けるように」と努力を続けておられる姿には感動してしまいます。

 50歳になっても、これまでの貯金で食べていくのではなく、常に自分を高める努力をしている人が、ここにいる。

 それは、ある意味「超人的」でもあります。

 

 また、「分業制」のメリットについても触れていて、「ストーリーを相棒(嶋田さん)が考えることによって、自分には想像もできないような展開になる。絵を描く人間がストーリーを作ると、どうしても『絵に描きにくいような話』は避けてしまいがちになるし」というようなことも仰っておられます。


 この新書のなかで、中井さんは、『キン肉マン』の連載第1話のことを、こんなふうに振り返っておられます。

 日本に宇宙怪獣が攻めてくるという危機に際して、頼れる有名ヒーローは誰も都合がつかず助けに来てくれない。そんな中、唯一、ヒマをもてあましているキン肉マンだけ都合がつきます。珍しく頼りにされたと思ったキン肉マンは、意気揚々と人々を助けにいきますが、人間たちは「わー、お前なんか来るなー!」と言わんばかりの大ブーイング。まったく頼りにされずみんな逃げ出し、挙句の果てには怪獣までもがアホらしくて戦う気が失せたと引き返してしまって、結果的に地球の平和は守られたというオチです。


 いやほんと、当時リアルタイムで読んでいた小学生としては、「超人オリンピック」がはじまるまでは、「このマンガ、いつまで続くのだろう……まだ打ち切られないのかな……」と思っていたんですよね。

 あのマンガが、こうして「日本を代表する人気作品」になるとは、あの頃の僕には想像もつかなかった。


 作者は、漫画家志望者に、こんなアドバイスを贈っています。

 そういう本気の志望者に私からひとつ、最低限のアドバイスを送るなら、それは途中で飽きても絶対に最後まで描き上げてください、ということです。描き上げなければ、作品ではありません。それでは投稿や応募もできません。実際に最後まで完成させて、初めてわかることもたくさんあります。だからまず、自分の作品をちゃんと作ること。あとはそれが面白いかどうか。プロとアマの差は、ただそれだけのことなのです。


 本当に「最低限」ではあるけれど、たしかに、最も大事で、なかなかできないことでもありますね。

 もちろん、漫画に限った話ではなくて。

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