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  • 2021年07月13日 13:59 (配信日時 07月13日 11:27)

ワクチン接種を拒否するトランプ支持者を説得できるのは、トランプ前大統領のみ - 海野素央 (明治大学教授 心理学博士)

今回のテーマは、「戸別訪問とワクチン接種率」です。日本では新型コロナウイルスのワクチン接種を巡って自治体、企業及び大学において「格差」が生じています。東京五輪開催まで10日余りになりましたが、一部の自治体、中小企業並びに医学部を持たない大学ではワクチン接種希望者が接種できないという状況が発生しています。

(yalcinsonat1/gettyimages)

一方、米国ではワクチン接種希望者は誰でも予約なしに即座に接種できます。黒人居住区の中には、理髪店や美容院でワクチン接種が可能な地域があります。

ジョー・バイデン大統領は国民に明確なワクチン接種戦略を次々と打ち出しています。そこで本稿では、バイデン大統領がどのようにしてワクチン接種回数を増やそうとしているのかについて説明します。

バイデン政権のワクチン接種戦略

バイデン大統領はワクチン接種に関して、戦略的に動いています。独立記念日の7月4日までに成人の70%が少なくとも1回のワクチン接種を済ませるという数値目標を達成するために6月2日、接種を促進するための具体的な戦略を発表しました。 

まず、接種会場の接種時間を延長しました。ドラッグストアは金曜日のみですが6月の間、24時間営業してワクチン接種を行いました。

次に、「全国ワクチン接種促進ツアー」を企画しました。カマラ・ハリス副大統領が南部と中西部の州を訪問して、ワクチン接種を州民に促しました。加えて、ファーストレディのジル夫人、セカンドジェントルマンのダグ・エムホフ氏及び、閣僚クラスも全国ワクチン接種促進ツアーに参加しました。「オール・バイデン」でワクチン接種者数を増加させる戦略に出たのです。

加えて、従業員500人以下の中小企業を対象に控除を使ってワクチン接種回数を増加させました。ワクチン接種のために有給をとった従業員にかかったコストを控除の対象にする政策を打ち出したのです。従業員が副反応のために有給休暇をとった場合も、同様の措置が講じられました。

以上の戦略を立てましたが、バイデン氏は7月4日までに目標の接種率70%を達成できませんでした。米疾病対策センター(CDC)によれば、少なくとも1回のワクチン接種を受けた18歳以上の成人は67.5%で1億7435万人です(21年7月10日現在)。接種完了者は58.7%で1億5163万人になります。それでも1月20日にトランプ政権からバイデン政権に移行したとき、ワクチン接種完了者は約300万人でしたので、接種率はかなり高まったといえます。

「戸別訪問」によるワクチン接種率向上の運動

バイデン大統領は7月6日、ワクチン接種促進に関する新たな5つの戦略を立てました。

第1に、全国の4万2000店舗のドラッグストアでワクチン接種を行います。第2に、彼らを診察する「かかりつけ医」にワクチンを供給します。ワクチンに懐疑的な人は、政府ではなくかかりつけ医を信頼するからです。第3に、12~18歳の思春期の若者の接種率を高めるために、彼らを診療する「かかりつけ医」にワクチン供給を行います。第4に、職域接種を強化します。第5に、夏祭り、礼拝所及びスポーツイベント会場にワクチン巡回車を送ります。

ワクチン接種率が低い州、特に共和党が大統領選挙で強い州(レッドステート)で4月から実施してきた接種を促す「戸別訪問」は継続します。そもそも戸別訪問は投票率を高める選挙手法です。バイデン氏はそれをワクチン接種率向上のための運動に応用しました。ボランティアによる「草の根運動員」によりワクチン接種率を上げようという狙いがあります。

「戸別訪問」の力

ホワイトハウスのジェン・サキ報道官によれば、その狙いは的中しています。戸別訪問を行っているのは連邦政府職員ではなく、ボランティアの医者、信仰指導者及び、信頼できる地域のリーダーです。

サキ氏はワクチンの安全性に懐疑的な国民及び、接種の必要性を感じていない国民を説得するのは、政府職員ではなく、地域の「信頼のおけるメッセンジャー」だと主張しました。確かに、同一のメッセージを発信しても、受信者にとって発信者が、信頼が高い人物か否かで効果性が全く異なってきます。

サキ報道官は7月8日、記者団に対して南部アラバマ州では6月に14万9000人が初めてワクチン接種を受けたと、ホワイトハウスの記者団に述べました。加えて、フロリダ州並びにジョージア州でも接種率が高まり、戸別訪問の効果が確実に出ていると強調しました。

ワクチン接種率を向上させる鍵は、若者、黒人及び、南部の共和党支持者です。バイデン大統領は黒人へのワクチン接種が困難である理由に、「タスキーギ・エアメン(1940~48年)」と呼ばれた米軍史上初の黒人航空部隊に関する記憶を上げました。米国では人種差別政策の下、アラバマ州の黒人大学であるタスキーギ大学で民間パイロットプログラムが始まり、黒人パイロットを採用するための「適性検査」が行われました。

おそらくバイデン氏は、新型コロナウイルスのワクチン接種に関して、一部の黒人の間に「白人の実験台にされる」という警戒感があると言いたかったのでしょう。にもかかわらずサキ氏によれば、バイデン政権はワクチン接種率をアラバマ州で3.9%、フロリダ州で4.4%、ジョージア州で3.5%高めました。

トランプの説得力に頼るのか?

米ワシントンポスト紙とABCニュースの共同世論調査(21年6月27~30日実施)によれば、「ワクチン接種を受けていない」及び「ワクチン接種を受けるか分からない」と回答した有権者のうち、「おそらくワクチン接種を受けない」「ワクチン接種を絶対受けない」と答えた者は、合計で74%に達しました。4月の同調査では55%でしたので、約20ポイントも上昇しました。ワクチン接種に抵抗する根強い層が存在することが分かります。

バイデン大統領にとって新型コロナウイルスのワクチン接種率70%が今、「壁」になっています。ホワイトハウスのある担当記者は、トランプ前大統領の力を借りない限り、ワクチン接種率が大幅に増加する可能性は低いだろうと指摘しました。

1月6日に発生したトランプ支持者による米連邦議会議事堂乱入事件後、トランプ氏の支持率は30%台まで低下しました。バイデン氏はワクチン接種率を高めるために、残りの約30%を攻略しなければなりません。

ワクチン接種を拒否し続けるトランプ支持者を説得できるのは、トランプ前大統領のみです。そうはいっても、バイデン大統領は「トランプのことはもううんざりだ」と語っています。そのバイデン氏がワクチン接種でトランプ氏に依存すれば、民主党及び無党派層から支持を失うことは明らかです。

従って、バイデン大統領がトランプ前大統領の説得力に頼る公算は低いとみるのが自然でしょう。

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