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日本の外交・安全保障政策の失敗と破綻を示したアルジェリアの人質事件

 アルジェリアで悲惨な人質事件が勃発しました。天然ガス関連プラントがテロ・グループによって襲われ、日本人10人を含む多くの外国人や現地の方が犠牲になっています。
 このような暴力は許されず、テロ・グループの蛮行を厳しく糾弾したいと思います。同時に、犠牲になられた方々のご冥福をお祈りいたします。

 このようなテロを防ぐためにはどうすべきなのでしょうか。どのようにして安全を確保すべきなのか、再びこのような悲しい犠牲を出さないために、真剣に考えなければなりません。
 そのためには、これまでの日本政府がとってきた外交・安全保障政策が正しかったのかどうかが、深く検討される必要があります。端的いえば、その政策は失敗し、完全に破綻してしまいました。
 これまでにない10人という大きな犠牲を出す結果となったこと、これら日本人の生命を守ることができなかったことからすれば、これまでの日本政府のやり方が正しくなっかったことは明らかです。その方向性は根本的に転換されなければなりません。

 それでは、日本政府の政策の何が間違っていたのでしょうか。その最大の問題点は、力によってテロを封じ込めようとした点にあります。
 今回の事件を初めとしたテロ事件に共通するのは、それを事前に察知し、力によって封じ込めることがいかに困難か、ということです。よしんば、力や暴力によって未然に防止したり、抑え込んだりしても、それは結局、暴力と怨念の悪循環を生み出すだけであり、テロリストと呼ばれている人々を増やすだけです。
 政治テロの背景となっている恨みや怒り、不幸や憤りを生み出す根源をなくさない限り、暴力の連鎖を絶ちきることはできません。それは、アメリカを中心とする欧米諸国が依拠してきた力の政策によっては不可能なのです。

 その不可能な政策を日本政府も採用するようになってきたというのが、イラク戦争以降の外交・安全保障政策の基本的なあり方でした。現在の安倍政権はそれを踏襲するだけでなく、さらにいっそうアメリカとの共同歩調を強めようとしています。
 そのことによって、日本は自ら所有していた政治的資産を食いつぶしてしまったのではないでしょうか。アラブ諸国や人々に対して、欧米とは異なった歴史や国際関係を維持してきたという政治的資産を……。
 アフリカや中東地域において、日本は欧米とは異なる国際的地位を持っていました。過去において、植民地的な政策をとったこともなければ、武力によって介入したり、支配したこともないからです。

 それまでは、「日本は別格である」と主張できるに位置にあったと言えるでしょう。これを大きく変えてしまったのが、イラク戦争への協力とサマーワへの自衛隊の派遣でした。
 これによって日本は、アメリカの側に立つことを世界に宣言してしまいました。日本は、アラブの主敵とされているアメリカや多国籍軍の忠実な協力者であろうとしていることを、はっきりと分かる形で示したのです。
 これは大きな失敗でした。小泉首相は、国内においては新自由主義的構造改革によって貧困と格差を拡大し、国外においてはイラク戦争への荷担によってそれまでの日本の位置を大きく転換させて外交・安全保障に甚大な被害をもたらし、日本人の安全を損なうという大きな罪を犯したのです。その明確かつ悲惨な結果が、今回の日本人10人の犠牲だったのではないでしょうか。

 ただアルジェリアの経済的な発展を願い、技術協力のために苛酷な状況で汗水流して働いていただけの人々が、どうして狙われたのでしょうか。どうして命を落とす結果となったのでしょうか。
 それは、日本人も彼らの敵と見なされたからです。今回のテロ攻撃の背景にはフランス軍によるマリへの軍事介入があったとされていますが、日本も欧米諸国と異ならない、これらの国の仲間だと考えられたからです。
 だから、同じように狙われ、同じように犠牲者が出てしまいました。そして、襲ったテロリストも殺害されたり、捕縛されたりしています。

 殺されたテロリストにも家族はおり、友人や恋人もいるでしょう。これらの人が「テロリスト」として敵視され、殺害されれば、「憎しみの転移」が生じます。
 いつまでもテロがなくならない根本的な原因はここにあります。「テロとの戦い」がテロを生み出すというパラドクスを打ち破らない限り、テロをなくすことは極めて困難なのです。
 そのためには、憎しみや恨みを生み出す原因をなくし、敵視されることを避け、テロの手段としての武器などが出回らないようにしなければなりません。相互の無理解や誤解をなくし、対立や抗争、紛争などが生じても力ではなく話し合いで解決するという「ソフト・パワー」の拡大を図るべきでしょう。

 このような視点からすれば、国際紛争における自衛隊の役割や能動性を高めようとするいかなる試みも避けるべきでした。アメリカの要請に従うことも、イラク戦争への自衛隊の派遣、PKOや海賊対策を口実とした軍事関与も、とんでもない愚行だったということになります。
 もちろん、現在、安倍首相が進めようとしている外交・安全保障政策も完全な逆行です。アメリカ型の国家安全保障会議(NSC)を設立し、防衛計画の大綱や中期防衛力整備計画を変えて防衛力の増強を図り、集団的自衛権の行使を認め、自衛隊を国防軍として海外での武力行使を可能にすることが日本人の安全を高めることになるのでしょうか。
 軍事力によって防衛しようとすればするほど安全を損なってしまうというパラドクスをどのように解くのか。今日の国際政治において、これこそが最大の難問になっています。

 安倍首相には、この難問を解く能力はありません。それどころか、今回の人質事件によってこのような問題が提起されているということすら、全く理解していないようです。
 アルジェリア人質事件からの教訓を正しく学ばなければなりません。それができなければ、安倍政権も外交・安全保障政策の失敗と破綻をさらに拡大した形で後追いするだけに終わることでしょう。

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