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駆け込み退職問題が問う「職への誇り」

昨日は、午後、ニッポン放送の「上柳昌彦のごごばん!」に出演し、アルジェリア人質事件のことや桜宮高校の体罰自殺、あるいは拙著『死の淵を見た男』のことについて、かなり長時間、話をさせてもらった。

これまで何度もゲスト出演させてもらっているが、いつもながらの軽妙な上柳さんのトークに私も気持ちよく話をさせていただいた。

その時のニュースにも出ていたが、自治体職員の退職手当引き下げを盛り込んだ改正条例施行を前にして、全国で地方公務員の「駆け込み退職」が相次いでいることが、今日はさらに波紋を広げた。

教師や警察官などが3月末まで勤務して退職した場合は、1月いっぱいで辞めた場合に比べて、その間の給料を差し引いても、100万円から150万円も受け取る額が「低くなる」のだそうだ。

そのため、多くの地方公務員が「退職を急いでいる」のだが、この珍現象は、改正条例の施行時期を間違えただけで、担当者の見通しの悪さは、責められてしかるべきだろう。

しかし、全国でここまで駆け込み退職が増えていることにある種の感慨が湧くのも事実だ。3月まで一生懸命働いて、それでも100万から150万も受け取り額が減るのなら、それを防ぐために、退職の道を選ぶのは人間の意識として当然だと思う。

これまで働きに働きづめの生活を送ってきた教師や警察官たちが、今月末に退職して、その余裕のできた金額で残りの日々を海外旅行でも楽しむなり、あるいは家のローンの返済にあてるなり、さまざまなことをしていけばいいと思う。

しかし、今日、埼玉県の上田清司知事が嘆いていたように、「個人の自由とはいえ、やはり、せめて学級担任を持っている方々には、(年度末まで)頑張って欲しかった」というのも、多くの納税者の本音だろう。

埼玉県では、3月末で定年退職する公立校の教職員のうち、110人が、1月中の退職を希望しているのだという。その中には、30人のクラス担任も含まれているそうで、生徒たちは学期途中で「先生を失う」ことになる。

6年生の場合は、2か月後に、卒業式を控えている。その時、担任の先生は「いない」。理由は、退職金減への対抗手段である“駆け込み退職”だ。これには、卒業する子供たちに「大人の現実」を教える教育効果もあれば、同時に「金がすべてなのか」という失望を与える弊害もあるだろう。

私は、今の教育の現状を見れば、致し方ないと思う。「仰げば尊し」が似合った先生方は、昭和40年代、あるいは50年代までに、日本の教育現場から去っていったように思う。

あの頃、日本中の教育現場を席捲した日教組の先生たちは、自らを「労働者」と位置づけ、教壇をなくして生徒と同じ“高さ”に立った。「師」であることを放棄した労働者(教員)に親たちは尊敬の念を抱かなくなり、その結果、教師に文句ばかりをぶつける“モンスター・ペアレント”を生んでいった。

そして労働者である教員たちは、さまざまな政治闘争の最前線に立ち、「平等」をなにより大切にして教育水準を“低き”に合わせ、世界トップを誇った日本の教育レベルをあっという間に急落させ、先進国の中でも最低ランクにした。

そして、とうとう“ゆとり教育”なるものまで生み、甘えや癒しばかりを求める若者たちが増えていった。その教員たちが退職を前にした時、退職手当引き下げを盛り込んだ改正条例が目の前に現れたのである。

駆け込み退職に走る教員が全国であとを絶たないというニュースに、私は、これこそ歴史の必然だと感じた。「師」であることを拒否してきた学校の先生方が、教職への「誇り」を選ぶか、それとも「お金」を選ぶか。その答えは、すでに「出ていた」のだと思う。

だが、私は、教育現場にいる素晴らしい先生も少なからず知っている。教職に誇りを持ち、何人もの問題児を立ち直らせた先生だ。そういうプロフェッショナルな先生もまた、教育現場の根底を支えている。

私の子どもが通った小学校にいたそんな立派な先生のことを思い浮かべながら、私は、このニュースをきっかけに「職への誇り」について、あらためて考えさせられている。

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