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「役に立たない」とされる原因

「身内に弁護士がいても何の役にも立たない」。税理士、大学教授、弁護士、公認会計士、司法書士をメンバーとするメーリングリストでの話題を中心に紹介しているブログ「taxMLの紹介~税法と税理士業務の情報」に、こんな書き出しで始まる一文が掲載されています(「身内の専門家」)。

それこそ身近にいたならば、役立つことを当たり前に強調している側からは、見逃せない一文かもしれませんが、以下に記されている次のようなその訳を見ると、これまた当たり前に言われている、市民らはよく耳にする話です。

「隣地が境界を侵害して建物を建てても、借家人が賃料不払いをしても、何もできない。隣地との間で裁判沙汰を起こしたら、その後に、どんな嫌がらせをされるか分からない。賃料不払い程度で訴訟を起こすのは手間も費用も無駄」

これで「何の役にも立たない」という評価になるのかは別にして、あえてここで書かれていることを正面から見れば、「改革」が背負っていた期待が見えてくるよう思えます。つまりは、前段は、社会的な環境・意識の改革、そして後段は弁護士をはじめ司法の「使い勝手」の改革です。

おそらく「改革」推進論者にいわせれば、前段のような状況こそ、「二割司法」といった機能不全が作っている環境で、「嫌がらせ」に怯え、司法的解決が阻害されている状況こそ、彼らのいう「法の支配」を行きわたらせる必要性につながるはずです。

そして、結果としてみてしまうと、前段についても、また本来、制度的担保が必要な後段についても、現実的にはその期待を弁護士激増政策が背負う形になったように見えます。「社会の隅々」に弁護士が行き渡る数の効果が、前段のような環境を変え、数が引き起こす競争が低額化を含めて、弁護士を使い勝手のいいものにしてくれるはず――。

ところが、その「改革」が、前記のような期待感に反して、結果を出しているという実感は、前記発言が飛び出してくることをみても分かるように、多くの市民には実感がない。そして、見解が分かれるのは、ここから先で、「効果」に向かって、まだまだ増すべきとみるのか、それともそもそもこの「改革」の期待の被せ方から見直すべき、とみるのか、という話です。「役に立たない」原因は、数の不足の問題に置き換えられるのかということもできます。

さらに、「改革」は、司法を利用する市民側の意識を変えることも企図していますが、前記現状認識からすれば、それを求められること自体、思いもよらない非現実的な話ととらえても不思議ではありません。

「裁判、裁判と気楽に言えるのは、その後の生活に責任を取らず、コストとも、心理的な負担とも無縁な他人だから言えること」

前記ブログには、結論としてこんなことも書かれています。これもまた、弁護士増員の先になくなっていく話なのか、それとも増えた弁護士たちが、こうした市民側の抱えている現実を無視して、裁判や弁護士の活用を、生き残りをかけて「焚きつける」ものになるのか、ここも判断の分かれ目といえます。

ちなみに前記ブログの「身内の専門家」シリーズでは、歯科医や税理士が登場しますが、いずれも身内にいると「安心」「便利」という肯定的評価がされ、弁護士だけが冒頭のような「役立たず」扱いです。

弁護士激増に期待しても、果たして市民に「安心」と「便利」を現実的にもたらすものなのか、そして増えても「何の役にもたたない」という評価につながらないか、そのことが問われるべきです。

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