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医学部の学びは「習い事」なのか

「あくび指南」など、習い事をテーマにした落語は多い。

「習い事」は暇つぶしに学ぶもので、真剣にプロフェッショナルに学ぶものではない。師匠もプロを養成しようとははなから思っておらず、あまり厳しく教えたりすると教え子からクビになったり破門されたりするので(笑)、そこはおべっかを使いながら、ユルユルと教えるのである。

さて、ここ5年くらいのことだが、医学生の学びが「習い事」化している場面を散見する。

特に顕著なのが、私立大学や大都市圏の大学だ。

ぼくは全国の医学部を網羅的に知悉しているわけではないので、自分のささやかな経験と、他の先生方から教えていただいた内容から得た限定的な印象でしかないが、教員が学生におべっかを使い、手取り足取り、箸の上げ下げまで丁寧に教え、項目の勘所をパワポのハンドアウトで要約し、テストに出そうなところは授業で教え、「試験にでる」スライドをスマホでパシャパシャ撮影させ、という感じで教えないと教員は学生に酷評される。

高い授業料や寄付金を払っている「お客様」なわけで、カスタマーサービスがしっかりしていないとけしからん、のだろう。最近は国公立大学も学費は高騰しているから、この傾向は私立大学に限った話ではない。

学生を「お客様」と認識する態度が必ずしも悪いわけではない。ぼくが学生の時分には、やる気のない授業をブツブツ呟くだけ、何年も更新のないノートを読むだけ、自分の研究テーマを延々と語って自慢するだけ、というひどい授業をやる教員は珍しくなかった。

学生のフィードバックは重要だし、お金を払っていただいているわけだから、お代に見合った教育を提供するのは当然だと思う。

大学環境を改善して過ごしやすい場所にするのも重要だ。特に現在はコロナ問題が大変だが、学生の要望を丁寧に聞いて、感染対策と学生の要求を上手にすり合わせるのも大切なタスクだ。学生を蔑ろにして良い、などということはまったくない。

しかしながら、医学部は医師を養成する専門学校という側面があり、大学における医学は単なる「習い事」ではない。

調理師の専門学校が、美味しい料理や適切なカスタマーサービス、栄養や食の安全などに精通したプロの調理師を養成する責任を有しているように、医学部の責任も学生がプロの医師として立派に巣立っていくところにこそ、ある。それは医師国家試験の合格率といった「安い」話ではなく、もっと深刻なアウトカムの話だ。

プロの医師に必要な要素は多々ある。その中でも特に重要なものに「自律的に学ぶ」能力の涵養がある。

医学の進歩は非常に速く、医学部卒業レベルの知識では到底、質の高い医療は提供できない。昔だったら「医局のやり方」で内的なサークルの伝統芸をひたすら遵守していればよかったのだが、外的なアカウンタビリティが必要になり、多職種と連携して仕事をせねばならない現代においてはこうした蛸壺型のやり方は禁じ手とすら言ってもよい。

学会のスタンプラリーや製薬メーカーの説明会も「自律的な学び」や成長を担保しない。自ら学び、自ら批判吟味し、誰におもねるでもなく、スプーンフィーディングされるでもなく、ただの指示待ちになるでもなく、そして自らを誤魔化すのでもなく、自分に、そして患者に誠実にあり続け、学び続け、成長し続けなければならない。

医学部で「金払ってんだから、手取り足取り、全部教えてよ」のノリで6年間ズブズブの生活をしていて、医師になってから急に自律的に成長することなど可能であろうか。もちろん、そんなことは不可能だ。高校時代に勉強しすぎて、疲労のためにむしろ怠惰になった医学生が、全部パッシブに餌を口に入れるのを待ち望んでいれば、体と心に贅肉がつきまくるのは必然だ。

アクティブラーニングだの、スモールグループなんとかだのやっても、結局は傾向と対策で「やってる感」を醸し出してるだけなら、それはひとかけらもアクティブラーニングではない。そういうアクティブラーニングごっこが目立つようになったのもこの5年くらいのことだ。

コロナの時代は困難な時代だが、困難な北風こそが強靭なバイキングを生むという言葉もある。ある意味、こういうときこそ自律的な学習習慣や能力を身につけるチャンスであるとも言える。振り返ってみると、スモールグループはアクティブな学習には実は向いていないのではないか、という気すらする。独りで学ぶほうがより自律的、かつ大人的なのではなかろうか。

コロナの問い合わせが多いが、「判断停止」に陥っている医師が多い。熱があります。PCRやりました。次はなんですか。自分で考えて、わからなくて、アドバイスが欲しいと言うより、面倒くさいから判断全て丸投げ、のケースだ。

教科書や基本的な論文を読まずに適当に判断しているケースも多い。信じがたいことだがワイドショーやYouTubeの戯言を信じ込んでいる医師すらいる。クリティカル・シンキングを知らないからだ。パッシブに情報を与えてもらう教育にどっぷり浸かってきた医師の末路である。記憶容量や覚えるスピードだけは優秀なだけに、始末が悪い。デマやフェイクを正確に丸暗記している医師のなんと多いことか。

逆に、そのような画一的な学びに疑問を持ち、自律的に学ぼうとする看護師や薬剤師たちが増えているようにも思っている。スマホ時代、AIの時代に記憶容量や覚えるスピードの価値は低い、、あるいは皆無である。

10年、20年先に自分の存在価値がなくなっていたら、、、という想像ができる医師や医学生はほとんどいないだろうが、実際にはそういう未来は存在するのかもしれないですよ。

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