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”朝乃山のキャバクラ通い”退職で錦島親方に懲戒処分はできるのか。 - 河野創(社会保険労務士)

先日、コロナ禍で日本相撲協会が定めた外出禁止期間中に何度もキャバクラに通っていたとされる大関朝乃山が、年間6場所の出場停止処分と6カ月間の報酬減額50%の懲戒処分を受けた。一方、同様に外食を繰り返していた師匠の錦島親方(元大関朝潮)は、日本相撲協会に提出した退職届が受理されて65歳で親方を退職した。

朝乃山も退職届を提出したが、受理はされなかった。力士の朝乃山が厳しい処分を受けたのに対し、師匠の錦島親方は自主退職が認められた。自主退職であれば、退職金も通常通り受け取ることができる。

これは不公平ではないか? 退職した錦島親方にも、遡って朝乃山のような懲戒処分を下せないのだろうか。

日々顧問先の従業員の懲戒処分や解雇の事例に接している社会保険労務士であり、大の相撲ファンでもある筆者が解説したい。

■相撲協会にも就業規則がある

懲戒処分や解雇について考える際にまず押さえるべきなのが就業規則だ。就業規則とは、簡単にいえば会社と従業員の間で交わされる雇用契約の一部にあたるものである。契約なので、会社や従業員が契約違反をしたらどんなペナルテイが課せられるかまで詳しく書かれている。

従業員10人以上の会社であれば、就業規則は必ず作成して、従業員はいつでも就業規則を見ることができる。サラリーマンであれば、一度くらいは見たことがあるかもしれない。

日本相撲協会は正式名称を公益財団法人日本相撲協会といい、東京労働局向島労働基準監督署が所轄する社団法人である。

大関朝乃山も師匠の錦島親方も、法人である日本相撲協会の従業員であり、力士、親方、行司、呼び出し等を含めると人数も約1000人いるので、普通の会社と同じように労働基準法で定める就業規則もあるのだ。

大関朝乃山が休場・減給処分を受けたのも、日本相撲協会の就業規則に懲戒の規程があるはずだからだ。

規程があるはずだ、と述べたのは、就業規則がその会社・法人の従業員にのみ適用されるいわば身内のルールブックにあたるため、一般に公開されるものではないからだ。

大関朝乃山と同様、錦島親方がコロナ禍のなかで何回も外食したことは、従業員としての品位をけがす信用失墜行為にあたり、これは懲戒事由に書かれていると考えられる。

■退職前にさかのぼって懲戒処分を下すことはできるか?

では、すでに退職した錦島親方に対し、退職前にさかのぼって懲戒処分を下すことは可能なのだろうか? 錦島親方が退職届を提出し、日本相撲協会が退職届を承認した時点で、錦島親方との雇用契約はなくなったことになる。

就業規則は雇用契約の一部であるから、日本相撲協会が雇用している錦島親方には適用されるが、退職して雇用契約がなくなった錦島親方には適用することはできない。

また、就業規則で懲戒処分を定めることは、雇用関係があることを前提にして、職場の秩序を維持する必要があることから認められている。退職した錦島親方が職場の秩序を乱すことはないので、この点からも就業規則の懲戒処分の規定をさかのぼって適用することはできない。

■退職前にさかのぼって懲戒処分を出しなおせる場合

ただし、退職後も例外的に懲戒処分が認められる場合もある。たとえば昨年、法務省の幹部がコロナ緊急事態宣言期間中に賭け麻雀で懲戒処分として訓告を受け、自主退職に至った例がこれにあたる。

賭け麻雀は賭博罪にあたるので、訓告はあまりにも軽すぎる。退職金なしの懲戒免職が相当だという主張も一部にあった。

結局、掛け金の額が軽微なので、訓告処分が妥当という結論となったが、重大な犯罪行為と認められれば、退職前に遡って懲戒処分を出しなおすことはできる。

しかし、錦島親方が何回も外食したことは犯罪行為にあたらないし、これ以外の不祥事が新たに発覚したわけでもないので、懲戒処分を出しなおす理由にはならない。結果として日本相撲協会は、錦島親方には朝乃山のような減給、無給休職等の懲戒処分を行うことはしなかったし、退職後の今となっては錦島親方の自主退職を覆して、減給や休職を命じることもできない。

■就業規則を読まないと思わぬ損をする

朝乃山の処分と錦島親方の退職の理屈は、会社の従業員にも当てはまる。

経営者であれば、不祥事を起こした従業員が辞表を出してきたところで、就業規則の懲戒解雇の部分に「懲戒解雇の場合は退職金は支払わない」とあれば退職金を払わずに解雇して差支えない。

怒りにまかせて「すぐに辞表を書け」というのでは単なる自己都合退職になってしまい、本来支払う必要のない退職金まで払わなければならないことになってしまう。

一方、不祥事をおこした従業員であれば「これはまずい」と思ったら錦島親方のようにさっさと退職届を提出し、まず円満に退職を認めてもらう。そのあとで「そういえば、自己都合退職の場合の退職金を頂いていないのですが。」とおもむろに退職金を請求することもできる。

会社の就業規則をよく読んで理解しておかないと、経営者も従業員も思わぬところで損をすることがある。就業規則の懲戒事由の部分は理解しやすい部分なので、どんなものか一度読んでみてはどうだろうか。

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河野創 青山人事労務代表/社会保険労務士

【プロフィール】
MBAを持つ社会保険労務士。大手企業で社内起業し自らも14年間海外子会社を経営。中小企業社長の気持ちや悩みがわかるコンサルタント。海外人事労務のほか、採用、教育、人事評価制度構築や資金繰りまで幅広くアドバイスを行う。説明調になりがちな人事労務をわかりやすく解説。趣味は10代からの大相撲観戦で、親しみやすさが魅力の照ノ富士のファン。

※2021/06/22 訂正とお詫び
記事初出時、鍋島親方と記載されている個所は正しくは錦島親方でした。また、同様のキャバクラ通いを行っていた、という個所は、外食を繰り返していた、と訂正しました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。

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