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無観客開催が最も感染拡大リスクが少ない?~優良五輪ファンの価値損失リスクは大きいが・・~

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 "リスクの伝道師"SFSSの山崎です。本ブログではリスクコミュニケーション(リスコミ)のあり方について、毎回議論をしておりますが、今回は先月に続いて、東京オリパラの開催方法の違いによるリスクの大小について考察したいと思います。まずは、東京オリパラに伴う感染拡大リスク評価について、政府分科会の尾身茂会長など専門家の有志が提言をまとめて記者会見をされた、というニュースを、以下でご視聴いただきたい:

 ◎尾身会長ら提言 五輪無観客望ましい 入れるなら厳しい基準で
  2021年6月18日 NHK WEB
   https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210618/k10013091161000.html

 "提言では「無観客開催が最も感染拡大リスクが少なく望ましい」としたうえで、観客を入れるのであれば、現行の大規模イベントの開催基準より厳しい基準を採用することなどを政府や大会の主催者に求めています。"

 "大会開催に伴うリスクとして、▽大会は規模や社会的な注目度が他のスポーツイベントとは別格で、▽試合を見るために都道府県を越えた移動が集中して発生して、人の流れや接触・飲食の機会が格段に増加するほか、▽多くの人にとって、一生に一度の記念にもなる非日常的なイベントで、いつも一緒にいない人や久しぶりに会う人との間で飲食の機会が増えると、感染拡大のリスクが高い場面が発生したり、試合を見て高揚感を高めた人たちが路上でのハイタッチなど、感染対策への警戒心が薄れた行動を取ったりするリスクもあるとしています。"

 このニュースや記者会見の尾身さんのご発言を伺ったときに一番残念に思ったことは、オリンピックの出場選手たちにとっての4年に1度の世界一を争うスポーツ大会の価値や名誉、ホスト国としての日本の使命などが重要ということは言及されたものの、一生に一度の地元開催においてライブでオリンピックを観戦する五輪ファンの価値を奪うことに関しては、とくにリスクと思われていないことだった。

 すなわち、今回見解を発表された専門家の先生方は、東京オリパラを生で観戦する市民の行動が「不要不急の外出」と解釈されたのではないかということだ。われわれ市民や日本国民にとって、リスクというのは感染症や自分たちの健康リスクだけではなく、人生の中での経済損失や価値/名誉の損失も大きなリスクであり、東京オリパラを無観客にすることで失うこれらの価値損失リスクとのトレードオフを検討されたようには見えなかった。

 わざわざ競技場まで行かなくとも、自宅でTV観戦すればよいではないかというのは、ライブでスポーツ観戦することの価値を理解されていない専門家の勝手な解釈であり、一生に一度しか生で観戦できない地元開催の五輪の価値は想像以上に大きい。だからこそ高価で入手困難なチケットでも購入する価値があるのだ。「生きがい」というと大げさかもしれないが、ほぼそれに近い観客がいてもまったく驚かないほど、スポーツ文化はわれわれの人生に密着した重要な価値なのだ。

 筆者もプロ野球観戦が趣味で広島カープの大ファンだが、プロ野球やJリーグの熱烈なファンたちにとってライブ観戦は「生きがい」であり、「不要不急の外出」とはとてもいえない。また、プロ野球の観客は地元ファンが大半だからリスクは大きくない・・という専門家のリスク評価をよくきくが、広島カープを応援する観客は決して地元の住民ばかりではない。Jリーグでも、遠方のアウェイゲームを応援にいく熱狂的なファンはかなりいるだろう。

 東京オリパラにおいても、またとない日本開催を楽しみにしていた海外の五輪ファンの生きがいを簡単に奪ってしまったことも残念だ。ワクチンパスポートなどをもって、入国時のしっかりした検査で感染リスク低減策を施せば、海外からの五輪ファンをシャットアウトする必要が本当にあったのか疑問だ。オリパラのホスト国として、国際調和の象徴である五輪の意義を考えると、海外の五輪ファンの価値損失を安易に決定してよかったのかと思うところだ。

 また、これまでの国内での大規模スポーツイベントにおいて、感染クラスターが起こっていないというリスク評価に関して、東京オリパラの規模の違いや現在の感染状況を考えると適用できない・・とリスク評価をされたようだが、本当にそうだろうか?

 いまのところ、日本国内の都市部を中心に各種スポーツイベントが開催されており、箱根駅伝・春の甲子園大会・国際体操・バレーボール国際マッチ・国際陸上大会・ゴルフだけでなく、上述のように地元ファンだけでない多くの観客を収容したプロ野球・Jリーグ・大相撲などでも、大きなクラスターが発生したとは聞かない。なぜこれだけの観客を集めても、感染クラスターとならないのだろうか。

 そのヒントは以下の研究成果をみるとよく理解できる:

 ◎東京オリンピック開会式の感染リスクアセスメントと
  対策の評価を行う初のシミュレーションモデルを開発
  ~観客の新型コロナウイルス感染リスク評価を実施~
  発表者:村上道夫
  (福島県立医科大学医学部健康リスクコミュニケーション学講座),et al.

  https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00082.html

 ◎MARCO:Mass gathering event の解決志向リスク学
  https://staff.aist.go.jp/t.yasutaka/MARCO/index.html

 本ブログで何度も強調していることだが、「リスク」と「安全」を論じる際には、その定義を知ることが重要だ。「リスク」とは「いま危険」という意味ではない。ここ50年間津波が来ていないから「危険はない」と思っていたら、津波に襲われて尊い生命が失われる災害が発生した・・という場合に、ずっと危険はなかったけれども「リスク」は思いのほか大きかったということになる。

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