最近は日本の政財界からドル円の(発言者本人が考える)適正相場に関していろいろな意見が出ておりますので,「為替安定の目途」として記録しておきましょう。なお,「為替安定の目途」の厳密な定義は以下のとおりです。
【「為替安定の目途」の厳密な定義】
(注:元ネタの「物価安定の目途」の定義を最大限に尊重して,以下の3つの項目からなっています。)1.概念的定義:「為替の安定」とは,家計や企業等が為替水準の変動に煩わされることなく,経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況である。
2.時間的視野:十分長い先行きの経済・物価の動向を予測しながら,中長期的にみて「為替の安定」を実現するように努めるべきものである。
3.中心的指標:為替安定を計る指標としては,国民の実感に即した,家計が消費する財・サービスに影響がある為替レートが基本となり,中でも,統計の速報性の点などからみて,ドル円のインターバンクレートが重要である。
【政財界の面々が考える「為替安定の目途」のリスト】
(注:評論家レベルの「ファンタジスタ(例:浜**氏・榊原**氏・藤巻**氏等)発言」は割愛しています。)【安住ライン:79円20銭】まで納得介入
※2011年10月31日,安住淳財務相率いる財務省がドル円の単独介入に踏み切り「納得行くまで介入」するとの声明を出しました。ドル円相場は79円20銭近辺まで吹き上がって膠着したことが語呂合わせ(な[7]っとく[9]い[1]く[9])ではないかと市場で噂されました。
【甘利ライン:89円63銭】で過度な円安を懸念
※2013年1月15日,甘利明経済再生相の「過度な円安は輸入物価に跳ね返り国民生活にマイナスの影響もある」との懸念発言をきっかけに円が買い戻されました。市場への影響を薄めるために翌々日にも逆方向の発言などをしたため「甘利言い過ぎるな」というネット上での「甘利祭り」が進行しました。ついには「担当大臣以外は為替への言及は控える」という反省文発表にまで進展しました。
【石破レンジ:85円~90円】に収めたい
※2012年12月21日,BS朝日の番組収録で自民党石破茂幹事長は「(為替について)85~90円にどうやって収めるか考えなければならない」と発言し,市場には「石破レンジ」と呼ばれました。当時は意識されませんでしたが最近の円安進行で再び言及され,このまま行くと過去のレンジとしてすぐに置いていかれそうです。
【菅ライン:90円台半ば(95円?)】まで進めばいい
※2010年1月7日,就任後初めての記者会見で菅直人財務相は円相場について「経済界では1ドル=90円台半ばが適切という見方が多い。もう少し円安の方向に進めばいいと思っている」と発言し話題となりました。最近はそれに近い相場になってきているので,本人からの一言が期待されます。
【浜田レンジ:95円~100円】なら円安は問題ない
※2013年1月18日,浜田宏一内閣官房参与が日本外国特派員協会で「95円または100円への円安進行は懸念する必要ない」と大胆発言し,今後は市場で意識されるレンジとなりそうです。現在の立場が内閣参与でありイェール大学の名誉経済学教授ということですから,こんなことをブチ上げたら日本の「為替操作国」認定も近いでしょう。
【町田ライン:100円】前後が理想的な価格帯
※2013年1月18日,町田勝彦大商副会頭(シャープ相談役)が大阪市内で記者会見し「リーマン・ショック前に比べればなお円高。購買力平価などに照らすと1ドル=100円前後が理想的な価格帯」と発言しました。自身の経営責任を円高のせいにする見苦しい発言だと思いますが,浜田レンジ・浜田ラインに囲まれて市場での注目度は今ひとつです。
【浜田ライン:110円】を超える円安は心配
※2013年1月18日,浜田宏一内閣官房参与が日本外国特派員協会で「95円または100円への円安進行は懸念する必要ない」と合わせて「1ドル=110円を超える円安は心配すべき」とも発言しましたので,こちらは今後は文字通り円安進行阻止の「防衛ライン」として市場で意識されるでしょう。