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  • ロイター
  • 2021年06月14日 10:50 (配信日時 06月14日 10:49)

焦点:気候変動問題とインフレリスク、中銀が抱える新たな難題


[ロンドン 8日 ロイター] - イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のベイリー総裁に言わせれば、気候変動対策があまりに遅く、あまりに手ぬるいとインフレリスクをもたらす。ところが、米資産運用大手・ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は、気候変動対策を急ぎ過ぎるとインフレリスクが高まると主張する。

果たしてどちらが正しいのか──。その答えは、政策担当者や投資家、消費者が複雑な幾つかの「変数」にどう向き合うかで変わってくる。もっともこれらの変数はどう転んでも、遠くない将来、世界経済に混乱を巻き起こすことになる。

今年11月には英グラスゴーで国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催され、「パリ協定」をどうやって円滑に実現するかが話し合われる。パリ協定は、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロに減らし、地球の平均気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度以下に抑えることを目指す国際的な取り決めだ。

ベイリー氏の見立てでは、新たな現実に対する政策調整を先送りするほど、調整に要する経済的なコストが大きくなる。同氏は先週のロイターのイベントで「混乱を伴う(グリーン化社会への)移行は後になってより重大な政策が導入される形になり、エネルギーと素材の価格上昇を通じて成長下押しと物価高騰をもたらしかねない」と訴えた。

逆にフィンク氏が重視したのは性急過ぎるグリーン化社会への移行にかかわるコストで、例えば、航空燃料価格や航空機利用料金を押し上げると警告した、と英紙フィナンシャル・タイムズが伝えている。

フィンク氏が提起したのは、各国の規制当局と政府が「グリーン化のためにインフレが進むのを受け入れる」かどうかという問題だ。新型コロナウイルスのパンデミック対応による未曽有の規模の財政支出が、世界経済を過熱化させないだろうかという心配を既に抱いている人々にとって、こうした二律背反する課題は心地悪いかもしれない。

<中銀の苦労>

多くのエコノミストは、気候変動対策が物価を押し上げる可能性があるという点に異論はないだろう。なぜなら現在の二酸化炭素の価格には、本当の環境コストが反映されていないからだ。だから、そうしたコストを織り込むことを求める政策が打ち出されれば、物価が上昇する流れが生まれる。

これは劇的な動きになる可能性がある。7日に主要中銀が公表したシナリオでは、50年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにするためには、29年末までに二酸化炭素の取引価格をトン当たり160ドルと、足元の欧州の指標価格の3倍強に持って行く必要が出てくる。

フェデレーテッド・ハーミーズのシニアエコノミスト、シルビア・ダランジェロ氏は「排出量実質ゼロ化、そしてもっと一般的なより持続可能な世界への移行は、インフレ的な影響を及ぼす公算が大きい」と述べた。

一方、これとせめぎ合う要素として、気候変動対策が特定の財とサービスの価格を実質的に引き下げる可能性と、何も手を打たずに気候変動が急速に進行する事態に伴う別のインフレ圧力が挙げられる。

そこで浮かび上がってくるのが、物価安定を主な使命とする各中銀が、気候変動の影響を素早くしっかりと定量化するのに苦労している姿だ。

欧州中央銀行(ECB)は昨年公表した論文で、気候変動とそれに対応する政策が物価情勢に予測不能の影響を与える恐れがあり、場合によって物価安定に向けた金融政策面の取り組みを台無しにしてしまうほどの影響度になるとの見方を示した。

ECBは異常気象が大嵐や洪水、農作物の収穫不能などにつながり、いずれも食品価格上昇をもたらす可能性があるだけなく、砂漠化や海面上昇による土地面積減少でコモディティー価格が上昇するかもしれないと指摘。省エネを通じて家計の暖房費や車の燃料代が節約できたとしても、そうしたメリットは化石燃料に対してより厳しい課税が行われるとすれば、希薄化するとみている。

<先進国でも問題化>

ECBのラガルド総裁は先週の会合で、一番厄介なのはこれらの長期的な要素を、中銀が予測可能な2─3年の範囲の影響として正確に落とし込む作業だと説明。「モデル分析の世界における重要人物の多くは、この点に目を向けつつある」と語った。

同じ会合で米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、気候変動問題が物価に限らず、雇用、生産性、金利にも複雑な影響を与えると強調した。

新興国はもう何年も前から、気候変動が自国の農業など幾つかのセクターに影を落としていることを痛感していた。そして今、先進国がようやく異常気象や気候変動対策に絡む物価面の課題を認識し始めている、とPGIMフィクスト・インカムのチーフ欧州エコノミスト、キャサリン・ネイス氏は話す。

ネイス氏が先進国における最近の問題として例示したのは、18年にライン川の水量が減って重要な物資供給ルートが滞ったことや、欧州の各都市が中心部へのディーゼル車進入を禁止した結果、中古ディーゼル車価格が急落し、電気自動車(EV)需要が高まったといった出来事だ。

同氏は「無秩序な排出量ゼロ化は、物価上昇率がより不安定で平均的に高くなる状況を招き、それが家計と企業の予定の立て方に影響し、最適な貯蓄と投資の判断ができなくなる」とくぎを刺している。

<世界経済激変も>

最終的には、気候変動問題が世界経済を上下どちらの方向にせよ大々的に動かしてしまい、インフレ高進などは最も小さな懸念材料になるかもしれない。

ブラックロック・インベストメント・インスティテュートのグローバル・チーフ投資ストラテジスト、ウェイ・リー氏は、気候変動に何の対策も講じないと、今後20年で世界の総生産が25%近く目減りすると試算した。

逆に持続可能世界への急激な移行が経済に及ぼす影響は、1973年の石油ショックに匹敵する、とみるのは気候変動シナリオのモデル分析を手掛けるフランスの経済学者、ジャン・ピサニフェリー氏だ。石油ショックは、その後の長期にわたる物価上昇スパイラルの引き金になった。

ピサニフェリー氏によると、そうしたショックを払しょくするのは当時より今の方が難しい。それは持続可能世界への移行だけでなく、化石燃料資源の価値が急落することに伴う既存の資本ストック損失を埋め合わせるための投資が必要になるからだ。

ただ、気候変動は新たな経済発展のチャンスだとの声も聞かれる。06年に英政府向けに発表された気候変動と経済に関する有名な「スターン報告」をまとめたニコラス・スターン氏の論法に従えば、将来のグリーン経済が新しい生産方式を築くために必要とする投資は、世界全体の貯蓄にとって魅力的な場所になり得る。「万事うまく運べば、21世紀の成長ストーリーになる」という。

(Mark John 記者、Simon Jessop記者)

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