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- 2013年01月18日 10:53
東大「秋入学」――事実上の"断念"を考える
事実上の断念では?!
昨日17日東大・浜田純一郎総長は報道各社との記者懇談会の席上、全面秋入学移行は「事実認識として困難」との見解を明らかにした。秋入学を「鋭意、努力中」でなく、「困難」という後ろ向きな言葉を記者の前で使用したことは、事実上「断念」を認めたと言っても過言ではないだろう。
当初案では、まだ実行まで4年もあり、早すぎる"弱気発言"
「困難」な理由は、医師や司法などの国家試験とのスケジュール調整が難しいことや、入学までの半年間(ギャップタームと独自に呼称)に子供が勉強しないのではないかという保護者の不安が払拭できない点を挙げている。しかし、社会(産官学民)を構成する官(政)の代表であった野田佳彦前首相は、昨年5月25日、政府の国家戦略会議(議長・野田前首相)で、「グローバル人材の育成という観点からすると、大変評価できる動き」と歓迎の意向を表明。「これからも官民挙げての議論をしていきたい」と東大案に前向きな姿勢を示し、各省庁に検討も指示していた。また、自民党安倍晋三総裁のもとで行われた衆院選の選挙公約「教育再生」の中でも、 「大学9月入学を促進し、高校卒業後から入学までの半年間などを活用した大学生の体験活動の必修化や、評価・単位化を行う」とある。つまり、当初の東大案である入試を変えないで「秋入学と半年ギャップイヤー」のセットを掲げているのである。秋入学については、「産」は経団連や日本貿易会も賛同している。「学」は東大が11大学に呼びかけ、秋入学協議会設置をして議論もない。 「民」である社会人(親世代)に対し、東大がヒアリングや独自調査した形跡もない。移行のスケジュールも2017年度の予定だから、まだ4年もある。「社会制度が整わない」と今の時期に言うのは何やら唐突で、この時期の浜田総長の戦線縮小の弱気発言は全く解せない。
他の理由が大きい?!
そこで浮上するのが、背景は学内の教員の反発が強すぎることと追随大学が見込めないからという理由だ。では、なぜ反対が多いか。その一因は以下が考えられる。大学の機能と評価は、大きく「研究と教育」に分かれる。秋入学にすると、それは世界の主要な7割の大学のアカデミック・カレンダーが同じとなり、研究者の採用や異動がしやすく、「研究」は「開国」になる。そうなると、英語の授業が自然と増え、会話がキャンパスで飛び交う。これをガラパゴスな日本という温室に育ってきた教員には何かと雑件がさらに増え、不都合ということになる。
日本では一流大学であっても、世界の基準ではベスト100にすら東大と京大の2校しか入っていないのは、学生の質を問う「教育」もそうだが、教員の質とダイバーシティを問う「研究」のグローバル化の遅れも大きな要因だ。だから学生の皆さんや親御さんは秋入学に声高に反対する教授や教員のアカデミック・レコードを調べたほうがいいかもしれない。最近どれだけ英文で論文を書いたり、海外で学会発表しているか、あるいは何らかの海外機関から受賞をしているかだ。