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「特定技能外国人5年で34.5万人」はどう算出されているか

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2021/06/09
経済政策部 副主任研究員 加藤 真

1. 制度開始後2年が経過

2019年4月1日から施行された改正入管法に伴い、在留資格「特定技能」が新設された。特定技能は1号と2号に分けられるが、在留期限(通算5年上限)や、家族帯同不可等の規定が適用される特定技能1号については、2019年度から2023年度までの5年間・対象となる全14分野にて、合計34万5,150人が受入れ上限と設定されている。以下の図表では、制度開始から2年が経過した受入れ状況をまとめている。

図表1 特定技能1号 2021年3月末時点 受入れ状況

(出所)出入国在留管理庁「各四半期末の特定技能在留外国人数」(令和3年3月末)、「分野別運用方針」をもとに作成
(注)充足率1%未満に青色着色、10%以上に黄色着色

全体の受入れは22,567人、充足率4.5%となっている。分野別にみると充足率にばらつきがあり、産業機械製造業のように23.8%と4分の1近く達している分野から、ビルクリーニング、航空、宿泊業など、出社制限・移動制限等が影響して、需要が大きく落ち込み、1%に満たない分野もある。このように政府の当初想定ほど受入れが進んでいない状況に対して、「現在まったくうまくいっていない」(指宿2021:88)といった言及もみられる。

たしかに、政府が示している「5年で34.5万人」という上限値と比較すると、現状は不十分なレベルにとどまるが、ここで問いたいのは、こうした議論の大前提となっている「5年で34.5万人」という値は、そもそもどのような考え方で算出された数字で、どれほど実態を反映した数字なのか、という点である。これに関し、「設定された目標数値の根拠が不明確」(上林2020:31)といった指摘もされているように、具体的な検証は十分に行われてきていない。

2.「5年で34.5万人」はどのような考え方で算出されているか

14分野の受入れ上限値は各分野の「分野別運用方針」で定められている。14分野とも基本構造は同一で、特定技能1号の上限値は、以下の図表にまとめた考え方で算出されている。

図表2 特定技能1号の人数設定算出の考え方(①=②+③+④)

(出所)「分野別運用方針」をもとに作成

各分野について、①5年後の人材不足見込み数(全体)を算出した上で、それを補う方法として、②生産性向上の取組、③国内人材(女性や高齢者等)の確保の取組を行い、それでもなお不足する部分を、④特定技能1号として受け入れる(上限値として設定する)という考え方である。
この④特定技能1号の受入れ上限値が設定された際の過程を振り返るべく、2018年10月から12月に開かれた第196回国会提出資料をまとめたものが以下の図表である。

図表3 国会提出資料:人材不足数・特定技能の人数・受入れルート見込み(単位:人)

(出所)第196回国会提出資料をもとに作成(国立国会図書館にて資料収集)
(注)なお、法案可決前の国会提出資料の数字と、法案可決・施行後の数字は一致している。

国会提出資料には、最終的に公表されていない、受入れルート(技能実習からの移行、もしくは、試験合格)別の見込みが示されている。技能実習の歴史が長く、多くの技能実習修了生がいる製造3分野(素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業)では試験合格者の受入れは「若干名」で、技能実習からの移行をほぼ100%と見込んでいる一方、技能実習の歴史が浅いまたは対象職種ではない介護や外食では、試験合格ルートがほぼ100%と想定されている。

さて、④特定技能1号の受入れ上限値の算出根拠を詳しくみるために、①5年後の人材不足見込み数(全体)、②生産性向上の取組による労働力確保見込み、③国内人材の確保の取組による見込み、の数字の根拠を探ってみる。まず、①5年後の人材不足見込み数(全体)の算出根拠としている統計等と参照時点をまとめたものが以下の図表である。

図表4 特定技能の人数設定算出に用いている参照内容と時点

根拠 算出のため依拠している内容 参照時点
1 政府統計を参照していると確認できるもの 2 ビルクリーニング 厚生労働省「一般職業紹介状況」 2017年
3 素形材産業 厚生労働省「一般職業紹介状況」 2017年
7 造船・舶用工業 厚生労働省「一般職業紹介状況」 2017年
8 自動車整備業 厚生労働省「一般職業紹介状況」 2017年
9 航空 厚生労働省「雇用動向調査」 2016年
10 宿泊 厚生労働省「雇用動向調査」 2017年
12 漁業 総務省「労働力調査」 2018年
13 飲食料品製造業 経済産業省「経済センサス」、「工業統計調査」、厚生労働省「雇用動向調査」 2016年
14 外食 総務省「労働力調査」、厚生労働省「雇用動向調査」 2017年
2 各省庁が所管する事業計画・審議会答申・報告書等に依拠しているもの 1 介護 「第7期介護保険事業計画」における人材不足見込み数 2018年5月
7 造船・舶用工業 「交通政策審議会答申」での目標達成のための必要労働者数 2016年4月
11 農業 「新たな外国人材の受入れ制度に関する基本的考え方」
(農業労働力支援協議会)における人材不足見込み数
2018年9月
3 その他・不明
(政府統計に基づき算出していると 思われるが、具体的な記載がないもの)
4 産業機械製造業 (未充足数を用いているため、雇用動向調査を参照していると推察)
5 電気・電子情報関連産業 (未充足数を用いているため、雇用動向調査を参照していると推察)
6 建設
(出所)第196回国会提出資料、「分野別運用方針」をもとに作成

根拠としては、1)政府統計を参照しているもの、2)各省庁が所管する事業計画・審議会答申等の数字を参照しているもの、3)具体的な統計名等の記載がなく参照元が不明のもの、の3つに分類される。
全体に統計等の参照時点が2016年~2018年となっており、この時点の有効求人倍率や欠員率をもとに2023年時点の人材不足数を推計している。この結果、5年後の人材不足見込み数は、新型コロナウイルス感染症に伴う雇用縮小や国内労働者の失業・休業等の影響はもちろん、経済・雇用状況の変化を織り込んだ数値設定となっていない。また同一の統計を参照していても参照時点が異なるなど、分野間で不揃いな状況が確認される(例:航空と宿泊はともに「雇用動向調査」を参照しているが、航空は2016年時点、宿泊は2017年時点を採用)。

次に、②生産性向上の取組、③国内人材確保の取組については、根拠がより不明瞭である。例えば、②生産性向上の取組として、ロボットやICTの活用により「年1%程度の労働効率化」が図られるとする分野が14分野中11分野占めている。産業により生産性向上への取組が異なる中で、労働効率化を横並びに1%で揃えることに疑問が残る。また、③国内人材確保の取組では、各分野ともに女性や高齢者の就業促進、賃金引上げ、職場環境の改善等に取り組むとされているが、こうした施策により得られる効果として、図表3で算出された人数がどう確保できるのか、関係性が判然としていない。

もちろん、将来需要を精緻に算出することは容易ではなく、細かな算出方法を批判することが本稿の趣旨ではない。だが、振り返れば、新たな在留資格の創設を公表した2018年6月時点での想定対象分野は5分野(建設、造船、農業、介護、宿泊)だけだったが、その後わずか数ヶ月で9分野が追加された。業界団体からの要求に応えたとされるが、不足人数の算出は極めて短期間に行われたことが想像され、十分に練られないままに、国会審議・法案可決・施行がなされたと思われる。結果的に、約34.5万人という数字だけが一人歩きしてしまっているのが現状と考えられる。

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