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介護スタッフ×職場での働き方を最適にマッチングすれば介護現場はもっと魅力的になるはず - 「賢人論。」第140回(中編)小島武仁氏

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米国ハーバード大学とスタンフォード大学で3人のノーベル経済学賞受賞者と共に経済学を研究し、昨年12月に母校の東京大学に新設された東京⼤学マーケットデザインセンター(UTMD)のセンター⻑に着任した小島武仁氏。現在は保育園の待機児童の問題の解消や、民間企業における人材・部署のマッチングの効率化に向けて、行政・企業と協働して熱心に取り組んでいる。最先端の学問の社会実装に力を入れている若き天才に、新型コロナワクチン接種の問題から少子高齢化の問題まで率直に語っていただいた。

取材・文/盛田栄一 撮影/丸山剛史

ワクチン接種の効率化を阻む2つの問題点

みんなの介護 わが国は高齢者を優先して、新型コロナのワクチン接種を急ピッチで進めています(2021年5月現在)。しかし、実務作業の多くは各地自体の裁量に委ねられているため、多くの場所で混乱が生じているようです。聞くところによると、自治体から小島さんのところにも助言を求める声が届いているようですね。

小島 はい。新型コロナのワクチン接種についても、「接種を希望する高齢者×自治体」のマッチングと捉えられるので、一部の自治体にアドバイスしています。しかし、私たちが入る前にすでに多くのことが決定されていたので、この段階からできることは限られているのが実情です。

ですが見たところ、根本的な問題点が2点あります。1点目は、それぞれの自治体ごとに単独でワクチン接種のシステムを組んでいること。ワクチン接種の予約をインターネットとコールセンターへの電話で受け付けていたり、対面の窓口を設けたり、インターネット予約のサポート要員を用意したり。ワクチン接種の優先順位にしても、高齢者施設から行う自治体もあれば、希望者順に早い者勝ちで進めているところもあります。各自治体がそれぞれ別々のシステムをゼロから構築しなければならないのは、人的資源の使い方として大いに問題があります。

実際には、いくつかのIT関連企業がベンダーとして自治体のシステムづくりをサポートしているので、完全な“百者百通り”にはなっていませんが、自治体同士の連携は十分ではないようです。本来であれば、国がワクチン接種の実務を自治体に振る前に、 “ひな形”となるシステムを数パターンつくって提供していれば、作業はもっとスムーズに進んでいたはずです。

2点目は、多くの自治体でデジタル化がまったく進んでいないことです。東京大学マーケットデザインセンター(略称:UTMD)で研究しているマーケットデザインは、私たちの開発したアルゴリズムにデータ入力することでコンピュータが自動で計算してくれます。今回のワクチン接種にしても、保育園の入園システムにしても、多くは現場の担当者が手作業で進められています。その結果、多くの職員が著しく疲弊してしまうのです。この現状は自治体職員にとって好ましくないのはもちろん、行政サービスを受ける私たち市民にとっても、決して好ましいことではありません。

12年前に訪れたパンデミック時に議論の機を逃した日本

小島 今、高齢者へのワクチン接種をめぐって各自治体が混乱しているのは、これまで課せられた宿題にきちんと取り組んでこなかった結果とも言えます。

みんなの介護 それはどういうことでしょうか。

小島 今から12年前の2009年、私たちの世界はブタ由来による新型インフルエンザのパンデミックに見舞われ、全世界で約1万5,000人の人が亡くなりました。あのときも、国内でワクチン接種をどう迅速に進めるかが議論されましたが、幸いなことにわが国では感染爆発にまでは至らず、結局ワクチン接種の議論を棚上げにしたままパンデミックは終息しました。あのとき、もう少し突っ込んだ議論を国家レベルや自治体レベルで行っていれば、それが一種のひな形となって、今回のワクチン接種もより迅速かつ的確に行えたかもしれません。

みんなの介護 現在進められているワクチン接種に対して、今からでもできることはありますか。

小島 今回混乱を招いた原因の一つは、コールセンターによる電話予約に人々が集中してしまったこと。この根本的な問題は予約枠が先着順であったことで、誰もが我先にと同じ番号にかけることになり、結果として電話がつながらず、すべての人にとって望ましくない状況が発生したのです。 この問題は、先着順ではなく抽選や年齢などによる優先順位に従って予約を取ることで解決できます。「今日は80歳の人、明日は79歳の人、明後日は78歳の人」などのように、年齢別に電話できる人を分散させるのも有効な方法だと思います。

また、現在ワクチン接種の予約がその場で行き当たりばったりで決まっています。例えば、10日から20日までスケジュールの空いているAさんの電話が先につながり、先にAさんが10日に予約を入れてしまうと、次に10日しかスケジュールの空いていないBさんの電話がつながったとしても、Bさんは結局ワクチン接種が受けられないことになってしまいます。

今後、64歳以下の人の予約を受け付ける際には、システム上可能であればその場で日時を決定してしまうのではなく、とりあえずは各人の希望日時を聴取することをおすすめします。そうやって数多くの希望日時の情報を一時的にプールできれば、それらのデータをまとめて処理することで私たちのような研究者が開発したアルゴリズムの利用が可能になり、予約者全員のワクチン接種日時をバランスよく配分できるようになるはずです。

いずれにしても、新たな感染症のパンデミックは今後も次々にやってくるはずです。各自治体やそれ以上に政府はこの機を逃さず、ワクチン接種システムをしっかり整備しておくべきだと考えます。

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