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【123カ月目の汚染水はいま】福島県民に明かされぬ〝海洋放出容認〟のプロセス 密室会議の議事録をほぼ全面黒塗りで開示

原発事故は民主主義の大原則をも壊す。福島県は7日までに、政府が「汚染水」の海洋放出方針を決めた後に2日間にわたって開いた庁内会議の議事録を開示したが、ほぼ全面黒塗り。発言者名も発言内容も全て伏せられた。海洋放出〝容認〟前の重要な会議だったが、当日はメディアを締め出し非公開。

議事録も黒塗りでは、どのような過程を経て福島県が〝容認〟を最終決定したのか県民は全く分からない。原発事故対応を巡って「国の言いなり」との批判も根強い内堀県政は誰に忖度しているのか。県民からも批判の声があがっている。

【「公にすると不利益」】

 福島県情報公開条例に基づき黒塗りで開示されたのは、4月14日の「第1回原子力関係部局長会議」と翌15日の「第2回原子力関係部局長会議」の議事録。

 当日は冒頭のみメディアの取材を許可し、大半の部分が非公開。どのような意見が出されたのか県民に一切示されていないため、筆者が4月20日付で議事録の開示を請求していた。「該当する公文書の内容が複雑で期間内に開示決定等をすることが困難」としていったん延長。5月31日付でようやく「マスコミ非公開部分」を黒塗りにして開示することが決定された。

 A4判両面印刷で9枚が開示されたが、読み取れるのは日時や場所、議題、出席者と冒頭部分のみ。取材者を退室させた後の発言者や発言内容は全て黒塗りにされた。特に2日目の議事録は6ページのうち5ページが完全に真っ黒。批判をこめて〝のり弁〟と言われる状態だった。

 4月13日に梶山弘志経産大臣が福島県庁を訪れ、政府の海洋放出方針決定を伝達。それを受けて福島県は前述の会議を開いたうえで、4月15日17時に内堀知事が経産省を訪問。梶山大臣に対し①関係者に対する説明と理解 ②浄化処理の確実な実施 ③正確な情報発信 ④万全な風評対策と将来に向けた事業者支援 ⑤処理技術の継続的な検討─の5項目を申し入れた。2日間の会議では、この5項目を中心に県の対応が話し合われたとみられる。

 開示しない理由や根拠について、所管する原子力安全対策課は情報公開条例第7条の「公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に県民等の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定のものに不当に利益を与え、若しくは不利益を及ぼすおそれがある」などを挙げている。

 開示によって具体的にどのような不利益が生じるのかを電話取材で質したが、同課の担当者は「決定通知書に記載された内容以上のことは言えない」と答えるにとどまった。「黒塗りは県としての決定」とし、最終的に誰が判断したのかは答えなかった。


開示されたのは、司会役の鈴木副知事が「それではここでマスコミの皆さんは退室になります」と述べるところまで。それ以降の議論の中身は完全に伏せられた

【「何を隠したいのか?」】

 内堀知事は「福島県自身が容認する、容認しないと言う立場にあるとは考えておりません」と言い放つなど、今なお汚染水海洋放出への賛否を明言していない。汚染水の陸上保管継続を求める声も多い中、内堀知事の発言は海洋放出の是非ではなく「風評払拭」や「正確な情報発信」に軸足が置かれており、海洋放出を事実上容認した格好になっている。

 それだけに、この2日間の会議で何が話し合われたのかが重要になるが、特に2日目の会議は、取材が許されたのは冒頭の1分足らず。内堀知事が席につき、司会役の鈴木正晃副知事が「本日は、昨日説明をしました、多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針について、関係部局の意見を集約し、県の意見を取りまとめることとしたいと思います」などと述べたところで退室を命じられた。扉の前には原子力安全対策課などの職員が〝門番〟のように立つ警戒ぶりだった。

 実は当時、県政記者クラブは広報課を通じて会議を公開するよう申し入れている。それでも県は2回とも非公開を貫いた。会議終了後の囲み取材で、毎日新聞記者が「検討過程をクローズにしているというのは疑念を増幅させるだけの対応のように思えます。どうして公開という選択肢が無かったのでしょうか」と内堀知事に質問したが、知事は次のように答えるばかりだった。

 「県として意見全体として取りまとめるうえで、これまで、様々な原子力関係の意見を整理する際には一定程度クローズで行い、そのうえでその結果をオープンにするという形をとっているところであり、それと同様の対応を行っているところであります」

 会議を密室で行い、議事録もほぼ全面黒塗り。これでは〝海洋放出容認〟が民主的なプロセスで決定されたとはとても言えない。郡山市議の蛇石郁子さんが「なぜ黒塗りにするのか、そこまでして県民や国民に何を隠したいのか。極めて残念な姿勢です」と語るのも当然だ。いわき市の千葉由美さんも「全てを開示できないほどの不都合な会議とは、つまり国にとっては都合の良い中身だったということですよね。内堀知事をはじめとする県のトップたちは、原発事故の被災県であるにもかかわらず県民を守らず何を守ろうとしているのか。本当に情けなくて恥ずかしいです」と話した。


2日目の会議は冒頭1分ほどしか取材が許されなかった。会議で誰がどんな意見を口にしたのか、福島県民は知る術がない

【「判断過程明らかにすべき」】

 日本共産党福島県委員会の町田和史委員長は「南相馬市など複数の議会から新たな意見書が出されるなど、県民の怒りは日に日に増しています。それなのに、海洋放出に一言も反対や撤回を求めないばかりか、県の態度を決める会議の議事録が黒塗りばかりと聞き、『やっぱり国と一体の県政なのだな』というのが率直な感想です」とのコメントを寄せた。

 「県民の願いをいかに汲み上げて、いかに枠組みそのものを県民の願いに沿ったものにするか。だからこそ県民とともに考える姿勢や情報公開が徹底していなかったら県民は納得できないし、分断と禍根を残すことになりかねません。どんな判断であっても、知事がその判断過程を明らかにして直接県民に語り尽くすべきです。黒塗りなんて言語道断ですし、県民に明らかにできない内容、つまり国におもねるようなやり取りだったのではないかと批判されても言い訳できません」

 市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」のメンバーで、原発汚染水の陸上保管継続を訴え続けている水藤周三さん(福島市在住)も「後世に語り継がれる『不信の種』となるだろう。このような黒塗りの文書では、県として何を、どのように、何の責任で判断したかが全く分からない」と県の姿勢を批判した。

 「2020年2月に発表された経産省『多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書』には、『(政府は)透明性のあるプロセスで決定を行うべき』などと書かれています。これは政府に向けられた言葉ですが、福島県知事が率先してこうした提言に反して不透明なプロセスで進めるのであれば、政府・東電からしても、県民・国民からしても、まったくの〝お笑い草〟です」

 水藤さんは「国と東京電力に『風評対策』と『正確な情報発信』を求めながら、一方で、自分は情報隠し。それでは、海洋放出に対する不信が払拭されるどころか、ますます募っていきます」としたうえで、次のように語った。

 「内堀知事が言うところの『風評被害』は、こうした情報隠しがもっとも悪影響を与えます。誰がこのような真っ黒な〝のり弁〟を出してくる県の情報発信を信頼できるでしょうか」

 なお、福島県本部内に「ALPS処理水海洋放出検証委員会」を設置した公明党のある県議にも黒塗り開示を伝えたが、「県当局の意図を確認していないので私からは何とも言えない」と話すにとどまった。

(了)

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