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《ついに関東上陸へ》誕生から半世紀…“九州のソウルフード”「ブラックモンブラン」って何? 4万8000個以上食べてきたアイスクリームマニアに聞いてみた - 荒井 健治

 九州のご当地アイス「ブラックモンブラン」を製造・発売する竹下製菓が、埼玉県・幸手のアイス製造会社を買収したというニュースが流れた昨年10月。「いよいよ関東進出!」と、熱狂的なファンからSNS上をはじめとして大きな反響が巻き起こった。

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 それから初めての夏を迎えようとする今……。この「ブラックモンブラン」とは何なのか。そして、どうしてここまで愛されるのか。これまで4万8000個以上のアイスクリームを食べてきたアイスクリームマニアのシズリーナ荒井(本名:荒井健治)氏に聞いた。

◆◆◆

 人口およそ4万5000人。羊羹の購入量が日本一を誇る「お菓子どころ」の佐賀県小城市には、今年で販売されて52年の「ご当地アイス」を作り続けている竹下製菓がある。その名も「ブラックモンブラン」。バニラアイス・チョコ・クランチの絶妙なバランスが人気を呼び、九州を中心に販売累計数はおよそ10億本。夏場で1日20万本以上、冬は9万本~10万本が製造されている。

 

 このブラックモンブラン、実は「食べたことがある人」は全国的には決して多くない。2021年5月に自身のSNSを活用して実施した「“ブラックモンブラン”を食べたことがありますか?」という、アイスクリームを毎日1個は必ず食べている3000人(20歳~40歳、男女比4対6)を対象にしたアンケート調査でも、

「ブラックモンブラン」を知っているが食べたことがない人 92.6%

「ブラックモンブラン」を知っていて食べたこともある人 7.4%

 という結果が出た。毎日アイスを食べている人たちでもこの結果である。

 しかし、同時に食べたことがある方へインタビューしてみると、「急に食べたくなるアイス」「食感がいい」「子供の頃から食べていた味」「家の中や車の中で食べたら怒られる」などなど、各々の思い出を交えながら、誰もが笑顔で応えていた。まさに、一度食べたらその良さが分かる、子供から大人まで長年親しまれるアイスクリーム。それが「ブラックモンブラン」だ。

ザクザク食感へのこだわり

「ブラックモンブラン」の特徴をひと言で表せば、こだわりのバニラアイスをチョコレートとザクザク食感のクランチでコーティングしていることだ。とりわけ、ポイントはそのコーティング。2018年にはザクザク食感のナッツの塩気が特徴のクランチをリニューアルし、製造過程でより多くかかるように工夫された。

 また、保存状況にもこだわりがある。工場で製造されたブラックモンブランはマイナス30度以下の倉庫に丸一日入れられ、クランチのザクザク食感が損なわれないように製造から3日以内で店頭に並ぶようにされているのだ。ちなみに、森永製菓のチョコモナカジャンボは製造から5日以内出荷のところ、竹下製菓はわずか3日以内で出荷してしまう……。

「この真っ白い雪山にチョコレートをかけて食べたら…」

「ブラックモンブラン」を製造する竹下製菓は、今年で創立120年目を迎える。明治時代に菓子会社として創業して以来、当たりくじ付きのアイスやミルクセーキアイス「ミルクック」、しましま模様のチョコバナナアイス「トラキチ君」など、ユニークなネーミング商品を続々と世に送り続けている企業だ。

 アイスバーが作られるようになったのは1958年のこと。創業から培ってきたお菓子作りのノウハウをもとに手作りで開発したという。

 その後、三代目社長である竹下小太郎氏が、経済使節団の一員としてヨーロッパのお菓子業界視察の旅に出た際、雪に包まれたモンブランを見て「この真っ白い雪山にチョコレートをかけて食べたらさぞや美味しいだろうなぁ」と思ったことをきっかけに、1969年「ブラックモンブラン」が誕生した。

店頭で目立ったそのパッケージ

 ユニークな経緯で生まれたこの看板製品は、この半世紀の間に佐賀県を中心に九州のソウルアイスとなった。時代も、その成長を後押ししたと言っても過言ではない。

 誕生した1969年には日本で最初のコンビニエンス・ストアが誕生。1974年5月にはセブン-イレブン1号店(江東区豊洲)が開店し、日本に本格的なコンビニエンス・ストア時代が到来した。アイスクリームを取り扱うお店の数自体が増え、数多くのアイスが店頭を賑わせるようになった。

 こうして全国各地でそれまで以上にアイスクリームが消費者の身近な製品になったわけだが、当時のアイス業界といえば、雪印、明治、森永がアイスストッカー(アイスショーケース)内を占領していた時代。多くの商品は、青色の単色デザインのカップアイスやバータイプのアイスが多く、会社名を目立たせた商品が中心だった。

 そんなとき、バニラアイスをチョコやクッキークランチで覆った「ブラックモンブラン」は高級感を漂わせ、さらに会社名よりも商品名を前面に押し出しカラフルなパッケージデザインで店頭に並んだ。当時としては珍しかったこの意匠が他社との差別化を実現し、売り場の中でひときわ存在感を放ち続けたのである。

ご当地アイスが果たす大きな役割

 こうして地元で長年にわたって店頭の注目を集め、その味でファンに愛されてきた「ブラックモンブラン」。誕生から50年以上たった今も、九州では抜群の知名度を誇る。

 ご当地アイスの魅力は、地域の歴史・継続性を感じられる点だ。これは地域限定のお菓子やパンなどもそうだが、昔からその地域で変わらずにあるものは、老若男女問わず認識され親しまれている。

 そのため、たとえその土地から離れてしまっても、その地域の人と再会した際、地域限定の食べ物はしばしば盛り上がる話題として活躍する。その意味で、ご当地アイスは地域の繋がりを保つ役割もある。いいかえれば、コミュニケーションを生み出すパワーコンテンツなのだ。

 今後もそのような役割も担うためには、世代を問わず認識され続ける必要がある。そのため、多くの製造元はトレンドに左右されないよう、味やパッケージデザインをなるべく変えずに地元の味を守ろうとしており、利益以上にご当地アイスの持つ地域のつながりを維持する役割にこだわっている。私自身、そこにご当地アイスの魅力や必要性があると思っている。

関東上陸の先に見据えることは…

 一方で、竹下製菓は、今までに「ブラックモンブラン」を超える既存ブランドや新ブランドが未だに育っていない。アイス業界全体に目を向けても、飲むアイスとして誕生したロッテ「クーリッシュ」(2003年)、バニラアイスとチョコが口の中でとろけ合うのが特徴の森永乳業「パルム」(2005年)以降、エポックメイキングなブランドが育っていない。

 また他方で、首都圏での「ブラックモンブラン」の知名度はまだまだだ。

 私が知る限りでは、サミット、ヤオコー、ライフなどのスーパーや専門店などで購入できるが、皮肉にも躍進のきっかけとなったコンビニエンス・ストアでは、九州以上の販路開拓ができていなかった。

 今回の「ブラックモンブラン」の関東本格進出は、そんな状況を変える可能性があると思っている。注目すべきは、昨年10月に買収した埼玉県・幸手のアイス製造会社スカイフーズの存在だ。

 スカイフーズは、コンビニエンス・ストアや大手アイスメーカーのオリジナルアイスの製造を主にしており、小粒の一口アイスの製造設備があるのが強み。日本で小粒のアイスを製造できる設備は、私が知る限り、森永乳業の関連会社と、このスカイフーズしか今のところ存在していない。製造拠点を増やし災害等のリスクを分散させる目的のあるこの買収が、業界内で高い注目をうけているのは、こうした背景があるからだろう。

 商品開発において、大手企業が真似できないことをあえて行って差別化してきた竹下製菓。片方では「ブラックモンブラン」という長年作り続けてきたアイスを持ち、もう片方ではこの強みを生かしながら、買収を足がかりに商品に大きな革新を起こす可能性がある。

 今後、販路を拡大していく中で、新しい刺激を受けた竹下製菓が「ブラックモンブラン」を軸に自社ブランドや業界全体に新しい風穴を開けていく……。そんな日は、案外近いかもしれない。

◆◆◆

写真=筆者撮影

(荒井 健治)

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