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「世界最大の対外純資産国」日本の"30年連続記録"を手放しで喜べないワケ

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日本の「対外純資産」が、30年連続で世界一になった。みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんは「2位のドイツが猛追しており、来年にも首位を奪われる恐れがある。安全資産と呼ばれる日本円の魅力が失われれば、極端な円安を招く恐れがある」という――。

金融危機時における安全資産としてのゴールドと日本円
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk

日本円が「安全資産」と呼ばれる理由

「リスク回避ムードが高まり、安全資産である円が買われた」

このフレーズは市場参加者でなくとも、これまで何度も目にしたことがあるものだろう。筆者においても「なぜ円が安全資産なのか。理解できない」という照会をこれまで数えきれないほど受けた。恐らく、今の仕事をしていて最も多く受けた照会かもしれない。

さまざまな解説が可能だが、円が安全資産と整理される最大の理由は「世界最大の対外純資産国」というステータスに尽きる。端的に言えば、日本は「世界で最も外貨建て資産を多く抱えている国」という話でもある。

もちろん、厳密には実際に売買可能な資産かどうかなど議論を要する部分もあるが、それだけの外貨建て資産を抱えているのは事実である。

世界にはたくさんの通貨が存在する。そうした中でわざわざ「世界で最も外貨建て資産を多く抱えている国」の通貨を売り進める必要はなく、むしろ相対的に安全な資産として取引されること自体、論理的には不自然ではない。

なお、後述するが、「巨大な対外純資産」はそれだけ国内経済における投資機会が乏しかった(魅力がなかった)ことの結果でもあるため、必ずしも喜ばしい話ではない。

とはいえ、政治・経済の弱体化が指摘される現状でも円が安全資産と呼んでもらえる最大の理由もそこにあるという理解は持っておきたい。

30年連続「世界最大の対外純資産国」という裏付け

「世界最大の対外純資産国」というステータスは毎年5月下旬に財務省から公表される『本邦対外資産負債残高の状況』を受けて定期的に話題になる。今年5月25日には2020年末分が公表され、30年連続で「世界最大の対外純資産国」というステータスが確認された。

具体的に数字を見ると、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から負債を引いた対外純資産残高は前年比▲450億円の356兆9700億円と3年ぶりに前年比減少となったものの、「世界最大の対外純資産国」のステータスは不変だった(図表1)。

日本の対外純資産の推移と内訳

この前年比減少も2020年を通じてドル/円相場が5%程度下落したことの結果であり、これを差し引けば、「概ね横ばい」というのが正しい。

というのも、2019年末の対外純資産は357兆円であり、この5%は17兆9000億円である。これは2020年末の対外純資産に本来乗ってくるはずだった2020年の経常黒字(+17兆5000億円)と同額である。

財務省
財務省(写真=つ/Wikimedia Commons)

要するに、為替変動による価格効果で対外純資産の水準が微減(概ね横ばい)になったのであり、国として対外純資産を積み上げる続ける姿が変わったわけではない。

この点は重要である。というのも、暦年で見た経常収支が赤字となり、対外純資産の積み上げができなくなってしまった場合、「円の信認」が毀損(きそん)する象徴的な出来事として注目を集める可能性があるからだ。

もっとも、暦年で見た経常収支が赤字に転落し、それが嫌気され円安になるようなことがあっても、350兆円を超える外貨建て資産が為替評価益を生むので対外純資産は逆に増える可能性もある。

ここまで膨らんだ外貨建て資産は通貨防衛を企図した大型の外貨売り為替介入などに追い込まれない限り、顕著に減ることはないようにも思える(もちろん、提示可能な悲観シナリオはまだあるが、枚挙に暇がないので割愛する)。

「リスクオフの円買い」をそぐ直接投資

ちなみに、残高だけを見れば日本が「世界最大の対外純資産国」である事実は不変だが、その構造は近年変化している。筆者はその構造変化が「安全資産としての円買い」の迫力を近年そいでいるのではないかという仮説を持っている。

例えば昨年3月、米国が1カ月間のうちに150bpsもの利下げを行ったが、円高・ドル安は比較的穏当な動きで収束し、100円を割り込むこともなかった。また、2018年から2019年にかけてFRBが利下げに転換した際も、ドル/円相場は史上最小値幅で静かな相場が続いた。

それ以前にも株価が大崩れして世界同時株安が懸念されるような場面は複数あったが、ドル/円相場は大人しいものだった。リーマンショック後の3~4年。多少のショックでまとまった幅の円高が起きていたことを考えると隔世の感を覚える。

こうなっている理由は1つではないだろうが、対外純資産構造の変化と無関係ではないように思う。過去10年、日本の対外純資産構造を見ると、かつての海外有価証券ではなく、日本企業から海外への直接投資(≒海外企業買収)の存在感が増している。

図表2に示すように、過去10年間で日本の対外純資産における証券投資と直接投資の比率は逆転し、その後拡大してきた。これは「安全資産としての円買い」を考える上では重要な変化である。

日本の対外純資産に占める直接投資および証券投資の割合

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