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  • 江口健
  • 2021年06月03日 19:46

大坂なおみ選手の騒動を記者席から見て思うこと

Getty Images

大坂なおみ選手が5月27日に、全仏オープンテニス大会中のプレスカンファレンスに参加しない意向をツイッターで表明して物議を醸した。反響を受けて31日には大会の棄権を発表し、その直後、四大大会が連名で、「大坂なおみ選手がコートを離れている間、可能な限りのサポートと支援を提供したいと思う」と、彼女の復帰を心待ちにしているとの声明を発表した。しかし炎上は沈静化の気配を見せず、大坂選手が悪い、メディアが悪い、というような論調で燃え広がっているように見える。

私は、テニスが趣味で、自分でプレイするよりも、観戦する方が好きで、グランドスラム大会を自腹で観に行くことも多く、いつの間にか、メディアに知り合いが多くできてしまい、記者として、メディアバッジをもらって、プレスカンファレンスに参加させてもらうようになってしまったような人間です。

そんな私が、メディア席から見ている景色について、今回の騒動の裏側について、ぶっちゃけ話をしたいと思う。

個人的な考えとしては、今後は、メディアのフィルターを通した二次情報ではなく、選手がダイレクトにフォロワーに一次情報を届ける時代が来ると思っているので、その意味で、大坂選手は先駆者として、既得権益を守ろうとするオールドメディアから叩かれてしまうのかな、と心配している。私は客観的な視点を伝えるメディアも必要だと思っているが、以下、メディア側の問題を赤裸々に語ろうと思う。

私が、初めて、グランドスラムの記者として、取材させてもらったのは、2012年の全仏だったと思う。錦織選手ら日本人選手を中心に、フェデラー、ナダルのライバル関係を取材させてもらった。

が、ぶっちゃけ、記者達の質問のレベルの低さにビックリした! 記者たちは、試合後のインタビューに臨むにあたって、直前の試合すら観ていないのだ。試合を観もしないで、質問するので、的外れな質問が場の空気をいたたまれないものにする。それ以前にテニスというスポーツについてあまり詳しくない、かけもち記者が多くて驚いた。これは、他のスポーツのインタビューとは、全く違う空気である。

私は、マドリードに住んでいたこともあるので、レアルマドリードやアトレティコのサッカーの試合後のインタビューをさせてもらうこともあったのだが、サッカーの場合は、インタビューに臨む記者がそのスポーツに詳しくないとか、直前の試合を観ていないことなどありえない。なぜなら、取材で観るのは、その一試合だけだから。

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しかし、テニスのグランドスラムの場合は、直前に10試合以上が別コートで行われており、記者が全ての試合を観ることはできない。理論的には、大坂選手、錦織選手とジョコビッチ選手、ナダル選手、フェデラー選手が同じ時間で違うコートで試合をすることもあるわけだ。錦織選手の試合を観戦している途中で、「大坂なおみ選手の試合が終わったので、これから、プレスカンファレンスが始まります」、という知らせが来ることもある。

そうなると、大坂なおみ選手が勝ったのか負けたのかすら知らない状態で、プレスカンファレンスルームに駆け込むことになる。そこで、まずは、他の記者の質問を聞いて、どのような試合だったのか、想像しながら質問を考えることになる。

そして、ほとんどの場合、90%の記者が同じ状態であることに気がつく。つまり、全員、何を聞いたらいいのか、途方に暮れているのである。当然、試合直後の疲れている選手は、早くインタビューを終えたいので、ピリピリしている。それを察したマネージャーやコーチも、メディアに対して、「質問は? 質問ないんですか? だったら早めに打ち切りますよ!」と、怒鳴り散らす。そこで、記者たちは、テニスに関係のない質問をせざるを得なくなる。だって、試合観てないんだもん。

「えーと、今回のマスクはどのような意図を持って選んでいるんですか? BLMとかは、まだ意識してますか?」「去年と比べると、今年は、ぐっと精神的に安定してように見えますが、彼氏の影響はあると思いますか?」

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大坂選手からしたら、「は? それ、本気で言ってるの?」みたいな質問しか来ない。もちろん、10%くらいの記者は、試合も観ていて、芯をくった質問をすることもあるが、90%の多数派にかき消されてしまう。

こんな無意味な質問に時間を費やして、不機嫌な顔を報道されることが、テニスファンの裾野を広げたり、ましてや、自分の活躍を祈ってくれてるファンのためになるとはとても思えない。Instagramで自分の考えを直接配信した方が100倍ましだわ。と、大坂なおみ選手が感じたとしても、私は共感せざるを得ない。

だが、Instagram等のSNSでのセルフプロデュースには大きな欠点があって、それは、自分で自分をほめるのが難しい、というものだ。やはり、客観的な視点が無いと、賞賛の声は届きにくい。それこそが、これからのメディアの使命だと思う。今回の騒動で、メディアが大坂選手を敵視することがないように祈るばかりである。

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