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『ゴッドタン』 『あちこちオードリー』を手がける佐久間プロデューサーのテレ東式仕事術「できないことはやらない。できることを伸ばす」

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佐久間Pのターニングポイントは「女子マネージャーの手作り弁当」

写真AC

この本を読んでみて意外だったのは、佐久間さんが元々はダメ社員だったということ。特に入社後の数年間は失敗の連続だったとか。

最初はドラマ班に配属された佐久間さん。ドラマでエキストラをやった際には立ったまま寝てしまい、7テイク連続NGを出してしまう。撮影の合間にサボってトラックの後ろで煙草を吸っていたらトラックが動き出して他のスタッフにサボっているのがバレる。砂浜での大事なシーンで小道具の宝箱を埋めた場所を忘れて出演者を何時間も待たせてしまう、などなど。

自身でも「絵に描いたようなダメADだった」という最悪の状態で「明日には会社を辞めよう」と思うような日々だったそうです。転機が訪れたのは、“サッカー部の女子マネージャーの手作り弁当を作る”という仕事を任された時のこと。深夜に食材を買いに行き、学生時代にバイトしていた飲食店の厨房を借りて、「高校サッカー部の女子マネージャーが作る弁当がどういうものか?」を必死に想像したそうです。

その結果、おにぎりをサッカーボールに見立てたお弁当を作って現場に持って行ったところ、その弁当を見たドラマの監督や出演者から「いいじゃん!」と褒められたことで仕事への考え方やモチベーションが徐々に変わっていったのだとか。

その後も幾度となく失敗を経験しながら、与えられた環境で自分にできる仕事をこなしていた矢先、『TVチャンピオン』に配属されたそうですが、そこでものちの仕事の糧となる失敗を経験しています。

佐久間さんが考案・演出した「ママチャリ選手権」という企画で、ゴールデンタイムにも関わらず視聴率4%以下という悪い数字を出してしまいます。その際、上司であるプロデューサーに自ら謝罪に行くとプロデューサーからはこんなことを言われます。「お前は気にしなくていい。あの企画を選んだのは俺だから」と。

これは僕の想像ですが、このような失敗に対しての寛容さ、そして大外しする可能性のあるリスキーな企画に積極的にチャレンジする上司のいる環境でテレビマンとして育ったことが、のちの佐久間さんの番組作りへの姿勢に繋がっているのではないかと思いました。

若い時代に失敗が許されにくい環境に育ってしまうと、視聴率で外すかもしれない攻めた企画をやろうという精神は削がれ、無難に置きにいってしまう番組作りをする演出家になりかねません。少なくとも、そういった置きにいくタイプの演出家では『ゴッドタン』のような番組は生み出せなかったことでしょう。

自身でも述べていますが、佐久間さんはテレビマンとして恵まれた環境でトライ&エラーを積み重ねることができたのだと思います。

余談ですが『ゴッドタン』の企画は「●●選手権」というタイトルが多いのですが、それは『TVチャンピオン』育ちだからだと思うと、自身で分析されています。

「できないことはやりません」自分が不得意なことは人に頼め

Pixabay

本の最後の章では「仕事は組織作りが8割」と題して、タイトルの『できないことはやりません』という考えに言及しています。

本来、バラエティの総合演出はクリエイティブの実務を担うディレクターのトップなのですが、佐久間さんは多くの番組で総合演出と、組織管理のトップであるプロデューサーを兼務しています。

本の中でも「テレビの世界に入って最大の転機になったのはプロデューサーをやると決めた時かもしれない」と書いています。

バラエティ番組におけるプロデューサーは予算管理や人材配置など、組織の管理が主な役割。クリエイティブな作業だけに集中したければ総合演出がプロデューサーを兼務することはマイナスに働きそうな気がします。

佐久間さんは「番組作りでどこにお金をかけるべきか?」「この番組はどんな人材を集めるべきか?」といった部分を演出である自分がコントロールした方がよりよい番組が作れると考え、プロデューサーを兼務するようになったそうです。

才能のある人ほど、どんなことでも自分でやってしまいがちなイメージがありますが、佐久間さんは自分が得意でないことはどんどん人に振ると書いています。

「必要なのは自分にできること、できないことをちゃんと見極める。自分の得意・不得意を知り、過大評価もしない。そのうえで自分が辿り着きたい番組を作るために能力で足りない部分を補ってくれる人材を探す」という考えがあるようです。このプロデューサー的な考え方こそ、佐久間さんがテレビマン随一の影響力を獲得するに至った要因ではないかと思いました。

できないことはやらない。そして、できることは伸ばして広げていく。

手掛けるテレビ番組だけでなく、自分自身もプロデュースされているのかもしれません。ラジオのパーソナリティーを務めていることも、安易な見方をすれば「出たがりなテレビマン」と見てしまいますが、本心は影響力を獲得することがテレビマンとして自分の理想に辿り着くための手段と考えているのではないかと思います。

テレビ東京を退社し、フリーになったことで今後はさらに仕事の幅を広げ、影響力を獲得していくのではないでしょうか。

その先にどんなクリエイティブを発揮するのか?佐久間さんはテレビマンの新たな形を見せてくれるパイオニアになる存在だと思います。今後とも目が離せません。

改めまして佐久間宣行さんの『できないことはやりません~テレ東的開き直り仕事術~』という本。ぜひ気になった方は購入をご検討ください。

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
・Twitter @kensakufukata
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