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ホームレス女性の死から半年 食料配布の列にいた彼女 報道されない「試食販売」の闇

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亡くなった大林三佐子さんに見覚えが…

 「あの人」はあの時に列に並んでいた女性ではないのか−。

 ニュースで彼女について報道されるたびに食料配布の例に並んでいた彼女の姿が鮮烈に思い出される。

 その人の名は大林三佐子さん。

 昨年11月16日の未明、東京・渋谷区の幹線道路沿いのバス停で頭を殴打された状態で女性が死亡していた。大林三佐子さん、享年64。そのバス停は深夜から未明にかけて彼女が身を休めていた場所でホームレスだったことから「渋谷区路上生活女性 死亡事件」として大きく報道されて警察が捜査。事件前後に防犯カメラ映像に写っていた近くに住む男が逮捕された。男は「邪魔だった」「痛い思いをさせればいなくなると思った」と供述しているという。

 事件から半年が経つ。大林さんの人生をたどった報道も目につくようになった。

 テレビや新聞で数多くの報道があったが、その中で彼女自身の人生にもっとも力を入れて迫ったのがNHKだった。

 4月28日のNHK「おはよう日本」で埼玉県に住む2歳年下の弟のインタビューを放送し、郷里の広島で彼女が劇団員をしていた頃の様子を関係者の証言で伝えた。さらに5月1日に「事件の涙 たどりついたバス停で〜ある女性ホームレスの死〜」というドキュメンタリー番組を放送した。

 NHKの番組では若い頃の大林さんの顔写真が紹介されていた。大きな目。快活な印象の笑顔だ。

 この大きな目はあの時ちらと見た人と同じではないのかー。

 筆者の脳裏に真っ先に浮かんだのは日焼けしたおかっぱ頭の女性だった。

 番組ではもう1枚、亡くなる少し前の彼女の姿を撮った写真が紹介されている。

 下を向いているために顔の表情は見えないものの袖の短いピンク色のTシャツにズボン姿。そして赤い色のスーツケースをそばに置いている。下を向いている立ち姿とTシャツから出ている日焼けした二の腕に筆者は見覚えがあった。

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男性ばかりの行列の中で立っていた女性

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、様々な仕事が停止に追いやられ、なかでも派遣、パート、アルバイト、請負など、正社員ではなく、非正規で働いてきた人たちを直撃している。生活に困窮する人たちも目に見えて増えていて、全国あちこちで様々な支援活動が行われている。

 私はそうした活動の現場をたまに訪れてボランティアとして社会福祉などに関心がある若者たちと一緒に参加して手伝っている。元々こうした食料支援は「炊き出し」と呼ばれて、その場で皿やどんぶり等に盛りつけた食事を提供するスタイルだったものが、新型コロナウイルスの感染防止のために予め袋に小分けした弁当や果物、レトルト食品、飲み物のペットボトルなどを配布するスタイルに移行して最近では定着している。

 昨年の秋頃には、NPOなどの支援団体が土曜日の午後に東京・新宿の東京都庁の下で実施していた「食料配布」の支援を手伝った。

 高齢の男性が圧倒的に多い行列の中に短髪の女性がいる姿が目を引いた。やや猫背で下を向いて立って配布の時間を待っていた。

 おかっぱ頭の髪型と大きな目とTシャツ、日焼けして黒々とした顔と腕は一瞬見ただけでも強く記憶に残っている。

 報道で知った大林三佐子さんは実際には64歳という年齢だったというが、その時に見た女性の感じはもっと若くて40代から50代くらいという印象を持った。

 「今日は女性が来ていますね」とボランティアを一緒にしていた人に感想を漏らしたほどだ。今となってはこの時の記憶以外には頼りになるものがないものの、テレビで大林さんの顔写真が映し出されるたび、あの日、食料支援の列の中で立っていたのは彼女だったのに違いない、という確信が私の中では強くなっている。

 この食料配布の支援活動は、バナナや弁当、トマト、菓子、水、アルファ米、レトルト食品などの「食料」を配布するだけではない。合わせて、医療相談や生活相談、法律相談などの「相談」を実施している。医師や薬剤師、弁護士らが個別の相談に応じてそれぞれの専門分野のプロが事情を聞いて支援する仕組みだ。本人の希望を聞いた上で必要があると判断されれば、生活保護などの行政サービスにもつなげていく。

 だが、私がこの日に見た女性が大林さんだったとしても、その人は食料支援の袋を受け取っただけで、その先の「相談」までは求めないままにその場を去っていたと思われる。少なくとも相談の場にはその女性の姿はなかった。支援者たちは相談活動で困窮した者の命をつなぐため、福祉制度の利用など路上生活から抜け出す様々な方策を教えているが、大林さんが相談に訪れた形跡はない。

 生活保護を申請すると、親族に対して扶養義務照会といって扶養する意思があるかなどの調査が行われるので、大林さんはそれを嫌がったのかもしれない。

アナウンサーや声優志望だった20代

 NHKは埼玉県に住む大林さんの弟に取材して、大林さんの経歴を紹介している。

 大林さんは広島で生まれ育った。広島では市民劇団に所属してミュージカルなどに出演していたことがわかった。若い頃はアナウンサーや声優になる夢を持ち、活発で社交的な性格だったという。番組で放送された当時の彼女が芝居をする声は伸びやかなで張りがあるものだった。

 20代で上京、結婚するが1年で離婚。夫によるDV(ドメスティック・バイオレンス)が原因だったという。

 その後、大林さんは数年おきに転職を繰り返した。

 50代以降はスーパーでの試食販売員をやっていた。1日およそ8000円の給料で不安定な生活を繰り返し、4年前に住んでいたアパートを退去した。

 その後は公園やネットカフェを転々とする路上生活をしながら試食販売員を続けていたと思われる。4年前までは埼玉に住む弟にクリスマスカードや近況を伝えるハガキなどを送っていたことまでは判明しているが、住居を失いホームレスになった頃から便りがぷっつりと途絶えている。

 路上生活が始まってからは日々生きていくためにおそらく必死だったと思われる。

 家を失ってからも試食販売の仕事を時々続けて収入を得ていたが、去年春頃から新型コロナウイルスの感染が拡大して仕事がほとんどなくなったという。NHKが報道した大林さんの人生をまとめると以上のようになる。

マスコミが報じる「派遣」は間違い。「業務委託」の“働き方”

 大林さんは不安定な「登録型」の仕事で収入が不安定になり、新型コロナによってさらに追いつめられていた一人だといえる。

 様々なマスコミが大林さんのことを「派遣」で試食の販売をしていたと報道した。 

 NHKもニュースで「スーパーに派遣される試食販売員 給料1日約8000円」などとナレーションや字幕で伝えている。

 大林さんがまるで「派遣」という働き方だったような表現だが、大林さん自身の働き方は実際には「派遣」ではない。登録していた会社も「派遣会社」ではない。

 このため「派遣」という表現は正確に言えば誤りだ。

 登録会社は労働者派遣法に基づいて厚生労働省・東京労働局から派遣会社としての「許可」を得ていない会社だ。大林さんが登録したいくつかの会社は、会社のホームページで「セールスプロモーション」などと業態内容を説明している。ところがその事実を大半のマスコミが伝えていない。なぜなのか。労働形態が複雑なので記者たちが労働問題についてあまり勉強せず、理解しないままに報道しているためだと思う。

 この仕事が派遣(登録型派遣)の仕事と似ているのは、会社には「登録」だけしておいて、実際に仕事がある時に現場に赴いて働いた分だけ報酬を得るという仕組みだ。仕事がなければ収入はまったく入らない。正規雇用(正社員)では毎月決まった給料が入るのと比べると、「登録」という仕組みは働く人間にとって不安定な非正規雇用の典型的な働き方といえる。

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