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  • ロイター
  • 2021年05月31日 13:20 (配信日時 05月31日 13:16)

焦点:メキシコで流血の選挙戦、宿病の治安問題が悪化の一途


[メキシコ市 23日 ロイター] - 今月、街頭で選挙運動のチラシを配っていたアベル・ムリエータ候補は、白昼堂々、至近距離から射殺された。メキシコでは近年では指折りの血なまぐさい選挙戦が展開されており、候補者が殺害される例はこれが初めてではない。

死亡したムリエータ候補は、6月6日に行われる中間選挙に向け、メキシコ北部ソノラ州にあるシウダード・オブレゴン市の市長に立候補していた。シウダード・オブレゴンはアルバロ・オブレゴン元大統領にちなんで名付けられた都市だが、オブレゴン氏自身も2期目の大統領職に就く直前の1928年に銃撃により暗殺されている。

セキュリティ関連のコンサルタント会社エテレクトによれば、ソノラ州の元司法長官であるムリエータ氏は「83人目」だ。昨年9月以降にメキシコで殺害された政治関係者の数である。その後、さらに2人が殺害された。

相次ぐ流血事件は、ギャングによる暴力の激化をアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール大統領が封じ込めきれずにいることを示しており、選挙情勢においても、一時は圧倒的だった与党・左派「国家再生運動(MORENA)」の優位が揺らぎ始めている。

ロペスオブラドール大統領は今週、「候補者、指導者が脅迫を受け、時にはカヘメの候補者の件のように不幸にも殺害されている状況を常に注視している」として、ムリエータ氏にも言及した。

今回の選挙では、連邦下院議員、15州の知事、そして何百もの市で市議会議員が選出される。

MORENAと連立与党は、下院での過半数を確保するリードを辛うじて保っているが、ロペスオブラドール大統領が狙う、エネルギーの国家管理を可能にする憲法改正に必要な3分の2の議席を確保する見通しは日に日に薄れつつある。

エテレクトによれば、前回の中間選挙が行われた2015年に比べ、政治関係者の暗殺事件は3割以上も増えている(前回は9カ月間で61人が犠牲になった)。犠牲者には各政党の党員、立候補者、公職経験者が含まれる。

ロペスオブラドール大統領は犠牲者のために公正な裁きが行われることを約束し、過去の政権の汚職の悪影響が国内の暴力を激化させていると主張している。

ロペスオブラドール政権は21日、選挙絡みの暴力事件に関する告発や捜査を現在400件以上確認しており、148人の候補者が警護対象になっていると発表した。だが複数の調査によれば、それでもメキシコではほとんどの暗殺事件が未解決のままに終わっているという。

エテレクトは、混乱の大部分はベラクルス、オアハカ、プエブラ、ゲレーロ、メヒコ、ミチョアカンなど、互いに隣接する諸州に集中しているとしている。

エテレクトによると、ロペスオブラドール大統領が2018年7月の大統領選に勝利したときは、現在のようにパンデミックが選挙情勢に影を落とすこともなかったが、10カ月間の選挙期間中に政治絡みの殺人事件が152件発生し、そのうち26件が終盤2週間に集中していた。

メキシコの年間殺人件数はその年に史上最多を記録し、2018年12月に就任したロペスオブラドール大統領は、暴力事件の抑制を約束した。しかしその後の2年間で、殺人件数はむしろ増えている。

特に大きな影響を受けているのがソノラ州だ。ムリエータ候補は、米国系のメキシコ人モルモン教徒であるアドリアン・レバロン氏の弁護士を務めていた。レバロン氏は2019年、ソノラ州で発生した麻薬カルテルの殺し屋によるものとされる悪名高い大量殺人事件で娘と4人の孫を失っている。

この2カ月間、治安問題はメキシコにとって最大の課題の1つとされている。今月発表されたエル・フィナンシエロ紙の調査によれば、メキシコ国民の3分の2は、治安改善に向けた政府の対応に批判的だ。

ロペスオブラドール大統領の人気は依然として高いが、支持率は低下している。エル・フィナンシエロ紙の世論調査では、3月から4月にかけて大統領の支持率は4%ポイント低下して57%となった。

世論調査会社コンスルタ・ミトフスキーが毎日行っている調査からは、5月3日の鉄道死傷事故以来、大統領の支持率はさらに下落している様子がうかがわれる。

政治的な暴力と政権に対する影響について大統領府にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

<「恐れはしない」>

ムリエータ氏はシウダード・オブレゴン市を含むカヘメ郡での不正一掃を公約に掲げていた。ギャングの脅迫には屈しないと明言し、選挙に向けたスポットCMでも有権者に向けて「恐れはしない」と語っていた。

ムリエータ氏殺害の容疑者はまだ逮捕されていない。暗殺の脅威は一部の候補者にとっては許容できる限度を超えてしまい、エテレクトによると、全国で少なくとも18人の候補者が2021年の選挙戦から撤退しているという。

ムリエータ氏と同様、中道左派政党「市民運動」から立候補しているエリック・ラミレス氏は、武装グループから脅迫を受け、南西部ゲレーロ州における今月の夜間集会を中止するよう迫られた、と語った。

ラミレス氏はその警告を無視したが、集会が始まってほどなくして銃声が響き、観衆は散り散りに逃げた。同氏も危うく難を逃れた。

ラミレス氏は銃撃の様子を撮影した動画データをロイターと共有した。同氏はコクラという町の町長に立候補しているが、選挙運動の規模を縮小したという。地元当局と犯罪組織の癒着を告発したために狙われたとしたが、選挙戦から撤退はしないと語った。

「私の人生は劇的に変わった。家族もとても心配している。それでも私を応援してくれているが」とラミレス氏は述べた。

選挙戦からの撤退を決めた候補者の1人が、南部オアハカ市に隣接する自治体の首長に立候補する予定だった野党政治家のクリスティーナ・デルガド氏だ。

地元メディアが公開した写真によれば、今年1月、正体不明の脅迫者によるデルガト氏殺害予告が、切断されたブタの頭部とともに地元の広場に残されていた。メッセージの一部は「ここは私の縄張りだ。ボスはすでにいる。姿を見せたら殺す」と書かれていた。

デルガド氏は脅迫を受けたことを認めたが、それ以上のコメントは控えている。彼女は結局、候補者登録を行わなかった。

セキュリティ・アナリストは、選挙関連の暴力事件のほとんどは自治体レベルで起きており、麻薬密輸などの犯罪行為をこれまで以上に自由に行うため、ギャングが選挙結果に影響を及ぼそうと圧力をかけているとの見方を示した。

ティファナにあるシンクタンク、コレフのセキュリティ専門家ビセンテ・サンチェス氏は、最大の被害者は民主主義そのものだ、と指摘した。

「国内の一部地域では、多くの人々が犯罪組織の影響下にあり、何一つ保証されない」とサンチェス氏は述べた。

(Lizbeth Diaz記者)

(翻訳:エァクレーレン)

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