記事

「実質的にはただの水洗い」洗たくマグちゃんは無意味だと言える"科学的な理由"

1/2

「洗剤に負けない洗浄力」などの表示には根拠がないとして、消費者庁は、マグネシウムを使った洗濯用品「洗たくマグちゃん」を販売した宮本製作所(茨城県古河市)に再発防止を求める措置命令を出した。東京大学非常勤講師の左巻健男さんは「マグネシウム洗濯では臭いや油汚れは取れず、実質的には水洗いと変わらない。科学的な用語を使ったあやしい商品には注意が必要だ」という――。

洗濯機を操作する女性※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

効果に根拠なしとされた「マグネシウム洗濯」

環境問題に関心を持ち、環境に負荷をかけないようにと、マグネシウム洗濯、洗濯ボールや洗濯リングなど、石けん・洗剤を使わないで洗濯する人たちがいます。

洗濯マグネシウムの「アルカリで洗う」という“科学的”な理屈に納得して使用していた人もいたでしょう。

ところが、マグネシウム洗濯製品には効果の根拠がないとして、消費者庁から景品表示法違反の措置命令が出されました。

洗濯の科学を含む界面化学を学生時代に専攻し、また暮らしのなかのニセ科学について啓発活動をしている立場から、このケースを考えてみることにしましょう。

消費者庁は4月27日、洗濯補助用品「洗たくマグちゃん」「ベビーマグちゃん」「ランドリーマグちゃん」は、洗濯機に入れると、マグネシウムの効果で洗剤を使わずに洗濯できると表示したのは根拠がなく、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、販売した「宮本製作所」(茨城県)に再発防止を求める措置命令を出しました。

景品表示法(「不当景品類及び不当表示防止法」の略称)とは、商品・サービスを実際よりも優良にみせかける優良誤認表示などを禁じている法律です。

これらの製品は、布製の袋に粒状の金属マグネシウムが入っている商品です。

同庁によると、宮本製作所は商品を洗濯機に入れると、「ご家庭の水道水がアルカリイオンの水素水に変身! 洗剤を使わなくても大丈夫なお洗濯」「除菌試験により99%以上の抑制効果」などの効果をうたっていました。

しかし、消費者庁が根拠の提示を求めたところ、同社からの資料は、効果を裏付けるような根拠を示すものとして認められませんでした。

「洗濯ボール」「洗濯リング」にも効果はない

4月27日付の東京新聞(*1)によると「1リットル未満の小さなビーカーでの実験結果しかなく、家庭用の洗濯機での効果は確認できなかった。」「宮本製作所は『多大な迷惑を掛け、心よりおわびする。命令を真摯に受け止め、再発防止に努める』とのコメントを出した。」とあります。

洗浄力や使いやすさなどから洗濯用の合成洗剤の生産量は合成洗剤97%、石けん3%です(*2)。合成洗剤や柔軟剤に添加される香料の強い香りが苦手な人、できるだけ使用量を減らしたい人などを中心に、石けん・洗剤を使わない製品に関心が向きました。

そのひとつに「洗濯ボール」があります。鉱石の粒が入った丸いプラスチック容器を洗濯のときに一緒に入れると、鉱石が出す静電気で水の分子集団を細かくし、水分子の動きが活発になるので洗濯ものに水が浸透して汚れが落ちるという効果をうたっていました。

ですが、その説明は科学的におかしいものです。実際に、洗浄力テストをしてみると、水だけで洗ったときと同様の効果しか得られませんでした。「洗濯リング」と呼ばれている商品も同様です(*3)。

こうして怪しい製品は消えていったり、消費者から支持されなくなったのですが、そのなかでもアルカリ剤(重曹、セスキ炭酸ソーダ、酸素系漂白剤)で洗う方法は一定の支持を得ています。

(*1)効果なし「洗たくマグちゃん」 実験は小さなビーカーのみ、宮本製作所「心よりおわび」
(*2)日本石鹸洗剤工業会 (JSDA) 洗浄剤等の製品販売統計表(2020年1~12月)
(*3)洗剤要らずを謳う「洗濯ボール」はエコという名のぼったくり?

重曹を使って洗濯すると肌触りが悪くなる

これらの商品の効果は水洗いの効果と変わらず、油汚れやタンパク質汚れ、襟や袖の汚れなどには効果はありません。重曹熱分解水(成分は炭酸ナトリウム)を使うと皮脂汚れと汗の臭いには水よりも効果的です。ですが、マイナス面として風合い(肌触り)が悪くなるという側面もあります(*4)。

洗濯機の上に重曹が入った瓶※写真はイメージです - 写真=iStock.com/new look casting

「洗濯マグちゃん」という“洗濯マグネシウム”を使った商品も、アルカリ剤と同様に、石けん・洗剤を使いたくない消費者から支持されてきました。マグネシウムと水が反応して洗濯水がアルカリ性になることによる洗浄効果や、使用時に発生する水素も洗濯に効果があると期待されたのです。

マグネシウムは銀色の金属で、水に入れると水と反応して、水素ガスを発生しながら水酸化マグネシウムに変わります。水酸化マグネシウム水溶液はアルカリ性を示します。ただし、冷水とはあまり反応しません。また、粒状では粉末状と比べてずっと反応が弱いです。

宮本製作所は1リットル未満の水に入れた場合のデータを提出したようですが、実際の洗濯機に入れた場合とは効果が大きく異なります。

以下は、かつて一緒に石けん・洗剤の本を書いたLSアカデミー(生活を科学する会)代表 田嶋晴彦(薬学博士)さんのサイトです。
(*4)uki☆uki☆せっけんライフ アルカリ助剤を使った洗濯は効果あるの?

洗濯マグネシウムの洗浄効果は水洗いと変わらない

1リットルの水の場合、水のpH(酸性・アルカリ性の物差し。7より小さければ小さいほど酸性が強く、より大きければ大きいほどアルカリ性が強い)は、洗濯マグネシウムを入れる前の7.4から9.0に上昇し、水はアルカリ性になっていました。この結果だけ見ると、マグネシウムは効果があるようにも見えます。

ところが、洗濯マグネシウムを実際の洗濯機に入れて、標準モードで10分水洗いを行ってみると、pHはほとんど変わりませんでした。何十リットルもの水がありますから、1リットルの水の場合とは全然違うのです。

溶け出したマグネシウムの量も通常のアルカリ洗濯で使うアルカリ剤の量の1000分の1以下でした(*5)。マグネシウムと水の反応はとてもゆっくりで、洗濯の時間程度ではほとんど反応しないのです。

つまり、“洗濯マグネシウム”だけで洗うことは、水だけで洗うことと同様なのです。水素水になるからという理屈は化学的にはなんの意味もありません。pHが水とほとんど変わらなかったということは、臭い菌への効果は水洗いと同じくほとんどないと考えられます。

(*5)uki☆uki☆せっけんライフ マグネシウムで洗う?

あわせて読みたい

「ニセ科学」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    山尾志桜里議員引退へ。悪い意味での「職業政治家」ばかりの永田町の景色は変わるのか

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月18日 10:10

  2. 2

    ワクチン供与と、国際的な情報戦と韓国外交の茶番劇

    佐藤正久

    06月18日 08:21

  3. 3

    ひろゆきで大流行!YouTube切り抜き動画の台頭と実際にやってみて分かったこと

    放送作家の徹夜は2日まで

    06月18日 08:06

  4. 4

    尾身会長の五輪発言「飲食店」からも意見あり!! 政府復興委員として初会合に出席

    わたなべ美樹

    06月18日 12:55

  5. 5

    盛れば盛るだけ信用低下! 印象操作に走る菅総理の愚

    メディアゴン

    06月18日 09:06

  6. 6

    元プロ野球選手・上原浩治氏の容姿に言及 コラム記事掲載のJ-CASTが本人に謝罪

    BLOGOS しらべる部

    06月17日 13:12

  7. 7

    緊急事態宣言の解除後も続く飲食店への制限 ワクチン拡大を待つしかないのか

    中村ゆきつぐ

    06月18日 08:40

  8. 8

    私が日本の経済財政再建のヒントはルワンダの過去にあると思う理由

    宇佐美典也

    06月18日 12:00

  9. 9

    ほとんどの人が「延長は仕方ない」イギリスでロックダウン解除延期、なぜ感染再拡大?

    ABEMA TIMES

    06月17日 22:31

  10. 10

    なぜクマが大量出没するようになったのか? 「エサ不足」ではない本当の理由

    文春オンライン

    06月18日 14:37

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。