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令和3年著作権法改正と見え始めた潮流。

金曜日の夜、ひょんなことからYou Tubeの生配信に出演することになり、旬のテーマでお話をさせていただくこと、ざっと1時間くらい。

その中のトピックの一つが、今週成立したばかりの「著作権法の一部を改正する法律案」だった。

様々な事情があったのだろう、この法案が衆議院の文部科学委員会に付託されたのは5月11日、その3日後の14日には委員会で可決され、5月18日には衆院本会議で可決。さらに参議院に送られて一週間も経たない5月25日には文教科学委員会で可決、翌26日に参院本会議で可決・・・。

政治的な争点のない法案だとこんなものなのかもしれないが、結果的に2週間であっという間に可決成立してしまったために、メディアでの報道も26日の成立後にちょっと出たくらいで、世の中の関心は決して高くない。

昨年の改正が「ダウンロード違法化」「リーチサイト処罰」といった数年越しの難題を扱ったもので、法案提出前から各所で盛り上がっていたことを考えれば大きな違いではある。

だが、自分は、今回の改正は、後で振り返った時に歴史の大きな転換点の中に位置づけられる可能性があるものといえるのではないかと思っている。

一言でまとめてしまえば、

「許諾権」から「報酬請求権」へ

という流れにさらに掉さしたのが今回の改正ではないか、というのが自分の雑駁な印象で、

1)図書館関係の権利制限規定の見直し
2)放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化

という大きな2つのトピック*1のいずれにもその萌芽が埋め込まれた、というのが注目すべきポイントである。

例えば、1)の「図書館関係の権利制限見直し」においては、これまで限定的ながら無許諾での公衆送信が認められていた「絶版等資料」*2に加えて、通常の「公表された著作物」についても、一定の要件の下でその全部又は一部についての無許諾での公衆送信が認められることとなった(新31条2項)。

新型コロナ禍下で、図書館資料にアクセスすることさえままならない、という特殊事情が後押ししたとはいえ、これまで多くの権利者団体が、権利者が関与しない著作物のデジタル化や公衆送信に大きな抵抗を示していたことを考えると、これは実に画期的な改正、ということができる。

そして、その代償として用意されたのが、「特定図書館等を設置する者」に対する「相当な額の補償金」の支払義務である。

また、2)でも、これまで放送事業者にしか認められていなかった無許諾での商業用レコード、レコード実演の利用や、放送等のための固定やそれを用いた「再放送」での映像実演の利用を「放送同時配信等事業者」にも認め、別途の報酬支払いにより処理することができるようになった。

昨年の審議会での議論過程で図書館資料の関係で書いたエントリーの中でもコメントした通り、この「報酬請求権化」の受け皿として準備されるのが「指定管理団体を通じた報酬配分」という枠組みであることについては、その実効性も含め懐疑的にならざるを得ないところはある。

k-houmu-sensi2005.hatenablog.com

ただ、ここで大きいのは、「逐一許諾を得なくても使えるようになった」ということであり、こと様々なコンテンツの「公共財」としての性格を意識するならば、これまで権利者の所在不明、消息不明等、様々な場面で障害となることも多かった「許諾の壁」が、ほんのわずかな部分でも取り払われたということの意味は非常に大きいと思われる。

もちろん残された課題は「報酬を適切に分配する仕組みをどう作っていくか」ということになるわけで、ここがうまくいかないと、権利者側はもちろん、利用者側にとってもフラストレーションがたまることになりかねないし、某補償金制度のように最終的に瓦解を招くことにもなりかねないのだが、放送に関しては既に一定の枠組みが存在しているし、図書館資料に関しても、一足早く導入されている著作権法35条関係の補償金制度(「授業目的公衆送信補償金制度」)*3が順調に立ち上がりつつあることがポジティブな材料といえるだろうか。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/60/pdf/92807701_10.pdf

いずれは技術の進歩によって、仲介・配分役をかまさなくてもコンテンツの利用状況が即時に記録され、権利者に見える形で集計されて請求ボタンをクリックすればお金が入ってくる、という時代になると信じたいところだが*4、それまでの間、権利者の利益と利用者のニーズのバランスに配慮した公平な制度を築き上げ、守り続けていくことが、さらにその先にあるより大きなニーズへとこの仕組みを広げていけるかどうかのカギになると自分は思っている。

ということで、限られた時間の中でどこまで伝えられたかは分からないけれど、改めて文字として書き残しておく次第。

そして貴重な時間を割いてご視聴いただいた皆様には、改めてこの場にて御礼を申し上げたい。

www.youtube.com

*1:改正法の全体像については文化庁ウェブサイトに掲載されているhttps://www.mext.go.jp/content/20210305-mxt_000013222_1.pdfを参照されたい。

*2:なお、ここで公衆送信が認められる範囲も今回の改正で大幅に拡大されている。

*3:早期施行時のリリースは授業目的公衆送信補償金制度の早期施行について | 文化庁を参照。思えばこれも新型コロナ禍がもたらした数少ない良い効果の一つ、だった。

*4:もちろん、その場合でもシステム運営・管理者としての「著作権管理事業者」は必要になってくるだろうが、役割としてはそれで必要十分だろうと思うところである。

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