記事

積極財政で日本経済を回復させよ〜「過熱経済」150兆円プラン〜

1/2

◼️ワクチン接種が進み始めた今こそ積極財政を

東京や大阪などで緊急事態宣言が6月20日まで延長されました。しかし、追加の支援策はほとんど講じられておらず、既存の支援策が微修正された程度です。

菅政権としては、とにかくワクチン接種を進めるしかないとの方針なのでしょう。もちろん、ワクチンはゲームチェンジャーとなる有効な対策だし、米国の先行例を見ていても、経済の再開の大きな後押しになります。

しかし、米国経済はワクチン接種だけで急回復しているわけではありません。ワクチン接種と合わせ、追加現金給付を含む巨額の財政出動を行なっていることが功を奏しているのです。今から3ヶ月前の3月初旬、米国ではワクチン接種率が2割程度になった頃に、バイデン政権の2兆ドル(約200兆円)規模の財政出動が(「レスキュー・プラン」)が決定されました。これが急回復を後押しするエンジンとなっています。

日本でも、ワクチン接種が進み始めた今こそ、積極的な財政出動で、経済回復を確実なものにしなくてはなりません。ただでさえ、日本経済は「一人負け」状態にあるのですから。

しかし、日本ではこれまで、少し経済が回復したらすぐ財政出動を弱めることを繰り返した結果、本格的な経済成長の機会を失ってきたと言えます。安倍政権での消費税増増税がその典型です。今回、同じことを繰り返してはなりません。

■伝統的な経済学への疑問

そもそも、経済はどのように成長するのか?

この問は簡単なようで、実は答えるのが難しい問です。従来の経済学では、長期的な経済成長率の水準(潜在成長率)は、供給サイドである①労働投入量、②資本投入量、③技術革新の水準(全要素生産性)の3つの要素で決まり、需要サイドの要因は、あくまで短期的な変動を説明する際に問題となるに過ぎないとされてきました。私もそうした伝統的な経済学を学んできたし、長くそう信じていました。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

この20年近く強調され続けてきた規制改革をはじめとする供給サイドを強化する政策は、正直、期待された効果を発揮していません。むしろ、消費など需要サイドの不足こそが、長期的な経済成長率に影響を与えているように思えてなりません。

実際、日本経済はこの四半世紀、消費税増税やリーマン・ショック、そしてコロナ禍など、需要サイドとりわけ家計消費に大きな影響を与えるショックを経験してきました。それが、長期的な経済成長率にもマイナスの影響を与えているのではないでしょうか。

これは、個々の企業の投資行動を考えると自然なことです。仮に、何らかの理由で需要が落ち込み売上が減少すると、その企業は、新たな設備投資や研究開発投資を行わなくなるし、新規に人を雇うことをやめてしまいます。需要の減少が、資本や労働投入の減少につながるのは、当たり前と言えば当たり前なのです。

■イエレン氏の主張する「負の履歴効果」

2016年10月のイエレンFRB議長(当時)の講演録。
注釈も多く、まるで論文のよう。

こうした個々の企業で想定される現象が、マクロ経済レベルでも発生しているのではないかというのが私の疑問であり仮説です。実は、この考えは、米国連邦準備制度理事会(FRB、日銀に相当)議長であったジャネット・イエレン氏(現財務長官)が、2016年の講演で提唱した考え方です。彼女は、総需要を減少させるショックが、総供給に恒常的な悪影響を残すと主張し、これを「負の履歴効果(hysteresis)」と呼びました。

いわば、需要の低迷の影響は、短期の影響にとどまらず、労働投入量や資本投入量といった供給力にも影響を与え、中長期的な潜在成長率を低下させるという考えです。初めてイエレン氏の話を聞いたとき、自分の頭の中でもやもやしていたものが晴れたような気がしました。

そして、イエレン氏は、この「負の履歴効果」を払拭するためには、一時的に「過熱経済(※)」、すなわち総供給を上回る十二分な総需要と、タイトな労働市場(人手不足の状態)を作り出すことで、供給サイドへの悪影響を反転させるために必要だと説いています。

※ high-pressure economy 「高圧経済」とも訳される。本稿では「過熱経済」とした。

例えば、供給を上回る需要が創出されれば、売上の増加とともに不確実性が解消され、設備投資の増額を通じて経済の生産能力を高めることになります。また、タイトな労働市場は、労働市場に参加することを諦めていたり、非正規労働に従事していた人々を、より生産性の高い、賃金の高い仕事に就けることになるでしょう。さらには、安定した需要が研究開発投資を促し、技術革新を創出するインセンティブも高めることになり、供給力の向上、すなわち潜在成長率の向上につながることが期待されます。

■アベノミクスに足りなかった積極財政

今の日本では、まさにイエレン氏の言う「負の履歴効果」が顕在化している状態にあるとも言えます。私たちは、2008年のリーマン・ショックや2014年・2019年の消費税増税を経て、長期にわたり需要、特に消費が低迷する経済を経験してきました。日本のGDPの6割を占める消費が低迷すれば、経済も停滞します。これらの経済ショックによる需要不足が、単に短期的な成長を阻害するだけでなく、まさに「負の履歴効果」を通じて、日本の潜在成長力そのものを低下させてきたとの仮説は、日本にこそ成り立つのではないでしょうか。

安倍政権の経済政策であるアベノミクスには賛否両論がありますが、大胆な金融緩和を通じて人々の期待に働きかけ、こびりついたデフレマインド、言い換えれば「負の履歴効果」を払拭しようとした方向性は間違っていなかったと思います。しかし、金融政策だけで成長率を高めることはできませんでした。約8年にわたる安倍政権の実質GDP成長率は年平均0.9%に過ぎません。潜在成長率も下がり続けています。

私は、アベノミクスに欠けていたのは、積極的な財政政策だったと分析しています。大胆な金融緩和とともに行われた消費税増税を含む緊縮的な財政政策は、ポリシーミックス(政策の効果的な組み合わせ)の観点からも不適切な組み合わせだったと言わざるを得ません。東京財団政策研究所経済データ活用研究会座長の飯塚信夫氏も、財政データからアベノミクスが節約傾向であったと指摘しています。

■コロナショック復活のカギ「過熱経済」

そして今、私たちはコロナ禍という新たなショックを経験しています。先日(5月18日)、GDPの四半期速報値が発表されましたが、日本だけが世界経済の回復から取り残されているような状況です。2020年度のGDP成長率はマイナス4.6%で、経済の落ち込み幅としては戦後最悪です。

長期にわたり経済が低迷し、そして、コロナ禍による大きな経済的ショックに見舞われている今の日本こそ、金融緩和政策とあわせて大胆な積極財政政策で「過熱経済」を実現し、こびりついた「負の履歴効果」を払拭すべきと考えます。これまで4半世紀の間やってきたことと同じことを繰り返すだけでは、労働市場のタイト化や賃金の上昇、設備投資の増加、そして研究開発費の増加による生産性の向上は期待できないでしょう。

他方で、総供給を大幅に上回る総需要を人為的に作り出す「過熱経済」には、インフレや金利上昇というリスクが伴います。イエレン財務長官が主導したとされる総額約6兆ドル(約650兆円)にも及ぶバイデン政権の積極財政政策は、すでに物価上昇と金利の上昇を招いています。しかし、日本ではむしろデフレに逆戻りのような現状なので、インフレという副作用は小さいと考えられ、「過熱経済」に導く積極財政を取り入れやすい環境にあると言えます。

あわせて読みたい

「日本経済」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    70代の死亡者も1年間で1万人に1人。コロナは「国家的危機」ではない。

    青山まさゆき

    06月16日 15:40

  2. 2

    女性天皇と女系天皇をひとくくり 毎日の恣意的な記事に騙されるな

    和田政宗

    06月16日 21:28

  3. 3

    記念撮影にも呼ばれず……G7で相手にされなかった韓国・文在寅大統領

    NEWSポストセブン

    06月16日 11:25

  4. 4

    立憲民主党はPCR万能主義がいまだにコロナ対策の中心 この政党に日本を任せるな

    中村ゆきつぐ

    06月16日 08:08

  5. 5

    なぜ日本のテレワークは効率が悪いのか?

    シェアーズカフェ・オンライン

    06月16日 09:21

  6. 6

    世帯視聴率から個人視聴率重視へ テレビ界の大変革でお笑い番組は増加したか

    松田健次

    06月16日 08:05

  7. 7

    論破王ひろゆき「超リア充のインフルエンサーもSNS投稿しないときはカップ麺をすすってる」

    PRESIDENT Online

    06月16日 11:52

  8. 8

    枝野代表の経済演説で感じた違和感

    小倉将信

    06月16日 19:37

  9. 9

    「スポーツ界の取り組みも理解して」の誤魔化し

    諌山裕

    06月16日 14:24

  10. 10

    盛り上がらない政治家のための政治

    ヒロ

    06月16日 10:47

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。