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ホームページをめぐるささやかな著作権紛争が生みだした新たな規範。

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確かに、本件では、被告が「本件ウェブサイトのウェブページから,本件各画面の画像データ及び本件ソースコードをそのままダウンロードして自己のパソコンに取り込んで,これらをアップロードして,被告ウェブサイトを開設し,その後,本件各画面及び本件ソースコードを利用して被告各画面を作成し,被告ウェブサイトに掲載した」という点に争いはないようであり、一種の「デッドコピー」と言える状況であるのは確かなのだが、だからといって、不法行為の成立を認めるような事例ではあるまい・・・ということで、裁判所は、原告がホームページを作成してから、被告がそれを使用するまでの経緯について、丹念に事実認定を行った上で、以下のような判断を示している。

「ア (一部略)著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしていることに照らすならば,同法所定の著作物に該当しないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の独占的な利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決民集65巻9号3275頁参照)。」

「これを本件についてみるに,本件各画面及び本件ソースコードが原告を著作者とする著作物に該当しないことは前記1(1)及び(2)において判示したとおりであるところ,原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益は,著作権法が規律の対象とする独占的な利用の利益をいうものにほかならないから,原告が多大な時間と労力を費やして本件各画面及び本件ソースコードを作成したとしても,被告の上記一連の行為は,原告に対する不法行為を構成するものとみることはできないというべきである。」

「イ また,仮に原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益が法的保護に値する利益であると解し得るとしても,前記(1)の認定事実によれば,本件ウェブサイトは,大道芸研究会の活動等の情報を発信するための大道芸研究会のホームページとして開設され,原告が大道芸研究会の会員の会費等から管理費用を受領して管理していたのであるから,原告は,大道芸研究会の会員のために本件ウェブサイトを開設・管理していたものといえるものであり,原告が自己のパソコンの故障等により本件ウェブサイトのウェブページの更新ができない状況となった場合に,他の会員が本件ウェブサイトのウェブページについてその画面やソースコードを利用して大道芸研究会の活動等の情報を最新のものに更新することが社会的に許容される限度を超えるものとみることはできない。 そして,前記(1)認定の事実関係の下においては,被告が,平成22年1月31日に開催された大道芸研究会の1月の例会において被告が原告に代わって大道芸研究会のホームページの運営管理を担当するに至った経緯及び上記例会における原告の言動等から,同年2月1日に大道芸研究会のホームページを更新するに際し,本件ウェブサイトのウェブページを利用することが原告の意に反するものではないと考えたことは,被告が大道芸研究会の解散に関する議決において原告と異なる立場を採ったことを考慮してもなお,特段不合理であると認めることはできないし(なお,原告が,上記例会において,被告には本件ウェブサイトに係る原告のデータを一切使われたくないと強く思っていたことを表明した事実はうかがわれない。),その後,被告が,同月17日に,原告から直接電話で抗議を受けて,同日のうちに本件各画面中の文字のフォント,アイコン,背景画像や写真の配置等を被告各画面のとおり変更し,さらには,同月20日に被告ウェブサイトの画面構成及び内容を被告各画面のものから大幅に変更するに至った経緯に照らすならば,前記ア認定の被告の一連の行為が社会的に許容される限度を超える違法な行為であると認めることはできない。」 (24-26頁)


ここで興味深いのは、何と言っても、上記判旨の前半部分(ア)において、知的財産法と一般不法行為法の交錯領域に関し、北朝鮮映画著作権侵害事件*3の最高裁判決を参照した(このタイプの事案にとっては)「新しい規範」を用いている、というところだろう*4

それまで、この種の“江戸の仇を長崎で・・・”的な「独自の法的保護に値する利益」に基づく請求については、ギャロップレーサー事件(最二小判平成16年2月13日)の

「物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。」

「上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,・・・物の無体物としての面の利用の一態様である・・・の使用につき,法令等の根拠もなく・・・に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,・・・の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。」


という規範により処理されることも多かったのだが*5、この判旨は、「知的財産権関係法令で規定されていない無体物の利用」については一切保護の余地を認めない、とも読めるもので、場合によっては、妥当な結論を導きにくい上に、いわゆる“額に汗”的な労力に基づく請求の当否を議論するには馴染みにくいものだったことは否めない。

これに対し、北朝鮮映画著作権事件の上記判旨は、「著作物に該当しないものの利用行為」について、「著作物の(独占的な)利用による利益とは異なる法的に保護された利益」*6を侵害するか否か、というメルクマールを一応立てた上で判断しているから*7、多少は柔軟な解決が可能になるし、原告側が主張する様々な「利益」を考慮対象とし得る、という点においても、有意義なものだといえるだろう。

そして、それゆえに、明らかに「無体物の利用」の側面とは直接的な関係がないところに問題の本質がある、本件のような事例においても、判決に引用されることになったのだと思われる*8

もちろん、厳密に言えば、件の北朝鮮映画著作権事件における「映画」が、「著作権法6条3号の著作物」に当たらない、として、カテゴリカルに著作権法の枠組みからはじき出されたものだったのに対し、本件で問題となっているウェブサイトの画面等は、「創作性がない」がゆえに著作物性を否定されているだけで、「著作物に該当しない」といっても、その内実は大きく異なる。

そして、著作権侵害事件における従来の裁判所のアプローチが、どちらかと言えば“係争物の著作物性を微かに認めた上で、類似性判断等で侵害を否定する”というものだったことを考えると、「著作物に該当しないものの利用行為」という最高裁判決の言い回しをそのまま使える場面というのも、どうしても限定されてしまうのかもしれない(本件のように、明らかに著作物性を否定できるようなものであれば、良いのだけれど・・・)。

ただ、これまで何となく歯切れが悪かったこの種の事例の判断基準として、「著作物の(独占的な)利用による利益とは異なる法的に保護された利益」かどうか、という判断要素が今後用いられていくことで、今後新たな議論の地平も開かれるのかなぁ・・・という期待も生まれるところである。


なお、東京地裁は、本件において、「ア」のところでいったん結論を出しつつ、さらに、「イ」、「ウ」で原告・被告(及び研究会)との間のこれまでの経緯を踏まえた“ダメ押し”的判断をして、請求棄却という結論を導いている。

これが、“当事者の納得感”に配慮してのことなのか、それとも、北朝鮮映画事件の規範を本件に用いることに一抹の不安を感じて、のことなのかは分からないが、認定された事実を基礎とする限りにおいては、妥当な判断だろうと思われるところ。


生々しい人間関係に端を発する(と思われる)本件のような事例において、「ア」のような理論的な説示をあえて行う必要があったのかどうか、は評価が分かれるところで、「イ」、「ウ」の説示だけでも、本件に対する判断としては十分だったのではないか?という意見もあるかもしれないが、個人的には、新しいチャレンジをした今回の地裁判決に、率直に賛意を表しておきたい。

*1:第46部・大鷹一郎裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130107090126.pdf

*2:この点については、田村善之教授が、「コンピュータ自動生成物の著作者」というテーマで詳細に論じているが(『著作権法概説第2版』397頁以下(有斐閣、2001年)、その中では、翻訳や「ソース・コードのオブジェクト・コードへの翻訳」を例に挙げて「翻訳作業の対象となった原文やソース・コードなどが著作物である以上、生成されたものに関して誰も著作者としての権利を行使しえないということになるのではなく、元となった著作物の著作者が著作権なり著作者人格権を行使することができる」(399頁)と、「二次的著作物」として把握するアプローチを示されている。本件においても、ソースコード生成の元になった「画面作成」作業を原告が行ったのであれば、原告の二次的著作物、としてソースコード著作権侵害の成否を検討する余地があったように思われる。

*3:事例については、http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111208/1323712744参照。

*4:これに先立ち、大阪地裁では、既に浮世絵本に関する大阪地判平成24年7月5日において、平成23年最判から着想を得たと思われる規範を用いて請求を棄却した事例があるが、本件判決ほど明確な規範化はされていない。

*5大阪地判平成16年9月28日(浅井コレクション)、大阪地判平成17年7月12日(初動負荷理論)などにおいて、上記判旨を引用して原告側の請求が棄却されている。もちろん、ピンク・レディーパブリシティ権に係る最高裁判決(最一小判平成24年2月2日)における金築補足意見のように、パブリシティ権に関する各種裁判例においても、良く引用される判旨ではあるのだが、上記最判自体が請求棄却判決だった、ということもあり、既に権利性が認められている「(人の)パブリシティ権」の文脈ではなく、「(新たな)法的保護に値する利益」を退ける文脈において、上記判旨が多く活用されていたといえるだろう。

*6:ちなみに、最一小判平成23年12月8日の判旨は「著作物の利用による利益とは異なる・・・」となっており、「独占的な」というフレーズは、本判決がオリジナルで付加したものと思われる。

*7:もちろん「特段の事情」という表現からわかるように、あくまで極めて限られた例外として、しか認められないとは思われるが。

*8:当てはめ部分の結論が、「利用」の側面にのみ着目したあっさりとしたものになってしまっているのは、ちょっと残念な気もするのだが・・・。

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