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  • Dain
  • 2021年05月30日 16:19

レイ・ブラッドベリ『華氏451度』を物語を創る側から分析する―――第3回物語の探求読書会レポート

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小説、漫画、映画、舞台、ゲームなどジャンルの垣根を越えて、「物語」について考えるオンライン読書会。

今回は、SFの古典レイ・ブラッドベリの傑作を俎上に、脚本家タケハルさん、文学系Youtuberスケザネさん、そして私ことDainでとことん語り合った。

書物を焼く意味とは? 本を殺す洗練されたやり方や、焚書に抗う究極の対策を始め、ブラッドベリの創作技法など、盛りだくさんでお届けする。



以下、ブラッドベリ『華氏451度』の内容に触れており、ネタバレをしています。

<目次>

  1. 本を焼く者は、やがて人を焼くようになる
  2. 華氏451の根源「多様性を殺していく」
  3. 時代を超える本の条件:a passionate few
  4. 本の殺し方
  5. 本はカジュアルに焼かれてきた
  6. イマジネーションを喚起させるSF作家
  7. 焚書への究極の対抗策:暗記
  8. 他の芸術と比較した文学の強みとは
  9. 思想小説とサスペンス性
  10. この世ならざる世界にいかにして引き込むか
  11. 現実世界との架け橋をつなぐか
  12. 批評をするな、物語らせよ
  13. ブラッドベリの創作技法
  14. 終わりに&次回の課題図書

<動画>

https://youtu.be/zXwVgaKuaXM

<本文>

スケザネ:今回はブラッドベリ『華氏451度』についてお話しましょう。2月くらいに課題図書に決めたのですが、これ、Eテレの100分de名著『華氏451度』の2021年6月で紹介されるんですよね。びっくりしました。『華氏451度』はタケハルさんの提案だったのですが、どうしてこれを?



タケハル:ぶっちゃけ偶然です。課題図書を決めるとき、なんか小説にしようと思って本棚を見たら最初に目に入ったのがこれだから。ディストピアもので、予言的なものもあるかな、と思って。

スケザネ:久々に読み直してこれ、1950年代に書かれたのかよ、やべーなと何度も呟きました。

Dain:読んだ&映画観たのがすっごい昔で、ほぼ忘れてたので私も読み直しました。最初に読んだときの印象と、おっさんになって読むときの感じ方がかなり違ったので、その辺を話せたらと思います。

1. 本を焼く者は、やがて人を焼くようになる

Dain:最初に届いたメッセージはこれ、「本を焼く者は、やがて人を焼くようになる」ですね。ドイツの詩人でしたっけ、ナチスの焚書について言っていたと記憶しています。で、ナチスの焚書だと、本のリストの本(A Book Of Book Lists)というのがあって、そこで紹介されてます。

 <ナチスが焼いた本のリスト>

  • 武器よさらば(アーネスト・ヘミングウェイ)
  • いかにして私は社会主義者となったか(ヘレン・ケラー)
  • 野性の呼び声(ジャック・ロンドン)
  • 鉄の踵(ジャック・ロンドン)
  • 世界史概観(H.G.ウェルズ)
  • 理性に訴える(トーマス・マン)
  • ジークムント・フロイトの全著作


ナチスが焼いた本のリストを眺めていると、ナチスが何を嫌がってて消したがっているのかが透けて見える。

そしてこれ、インターネットの法則と合致しているのが面白いです。あれです、「消すと広がる」という法則。twitterとかでつい口が滑ってヤバいこと言ってしまい、謝らずに消すと、誰かが魚拓を取ったりしてて逆に広がってしまうやつ。

たとえばウェルズなんて宇宙戦争が有名なんですが、ナチスが焼いた本ということで、『世界史概観』が歴史に残り続けるんだろうなぁと。

スケザネ:確か岩波で出てますね、ウェルズの『世界史概観』。消すと広がる、皮肉なものですね。

Dain:はい。そして焼かれた本のリストつながりで、『華氏451度』で焼かれた本のリストを作ってきました。これです。

<『華氏451度』で焼かれた本のリスト>

  • バートランド・ラッセルのエッセイ
  • ミレー(画家の?)
  • ホイットマン
  • フォークナー
  • ダンテ
  • スウィフト
  • マルクス・アウレリウス

文学が目立ちますが、このリストを見ていると、今度はブラッドベリが何を重要な本としているのかが透けて見えて面白いですね。

でもここに、マンガが無いんですよ。マンガは? と思っていると、こうある。

引き金を引いたのはテクノロジーと大衆搾取と少数派からのプレッシャーだ。おかげでいまはみんな夜も昼もしあわせに暮らし、政府お目こぼしのコミックと古き良き告白ものと業界紙を読んでいる。

p.98 より

ブラッドベリに言わせると、コミックは低俗なもので、人にものを考えさせないように、人をバカにさせるイメージがあるんでしょうか。

タケハル:1950年代っていったら、スパイダーマンすらいないですからね。スーパーマンがいたくらいかな。手塚? ディズニーはいましたね。

スケザネ:日本だったら水木しげるですかね。まぁ確かに1950年代のアメリカのコミックといったら俗悪という印象があるかも……

2. 華氏451の根源「多様性を殺していく」

Dain:『華氏451度』が突き抜けているのは、無差別なんですよね。昔の焚書は選んで焼いてた。ナチスは焚書のリストを作ったし、始皇帝は医学や占いや農学以外を焼くなど、選んでた。でも『華氏451度』では、本を読むと人は考え始めるから無差別に焼け、なんです。

人に考えさせないために、本は短くなるというのが面白いんです。本の内容は圧縮され、ダイジェストやタブロイドになり、最後は10行ぐらいの要約だけが辞書に残る。

『ハムレット』について世間で知られていることといえば、「古典を完全読破して時代に追いつこう」と謳った本にある1ページのダイジェストがせいぜいだ。保育園から大学へ、そしてまた保育園へ逆戻り。

p.92より

これで思い出したのが、『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』みたいなやつ。古典や名著のダイジェスト版です。よく間違われるのは「あらすじを知っている=教養がある」こと。そうではなく、「あらすじを知っている=教養のあるフリができる」んですよね……こういう本がガンガン売れるということは、華氏451度の世界に近づいているんだなぁと。

スケザネ:ホント、これ恐ろしくて、同じ92ページに、「そして大衆の心をつかめばつかむほど中身は単純化された」とあって、この作品全体の根源にある考え方として、多様性を殺していくところにあるんですよね

そして、そのあらすじですら多様性があるはずなんです。同じ作品を100人読んだら100通りのあらすじができるはずなんですよ。それすら1つに固定していく……そこすらも多様性を許さず、画一的なものにしていく。その先には、価値観を固定化していく世界まで、あと数歩のところの危ない状況なんですよね。

タケハル:いろんな予言的なシーンがあるんだけど、ここはピンポイントで当たっちゃったなぁ。

Dain:これ、予言的というより変わっていないといえるのかも。「これさえ読めば教養が身に付く」という宣伝文句で、世界文学全集が世に出たのが1950年代……じゃなくて1905年だった。これ、古典の抄録なんですよ。「1日15分読むだけでモテる」という売り文句で、50万セット売ったという。昔も今も一緒ですね。

スケザネ&タケハル:www 変わってない www

Dain:華氏451が予言的だな、と思う反面、1950年代と今と、なんら変わってないのかもしれませんね。

スケザネ:もっと暗澹たる話ですね。

3. 時代を超える本の条件:a passionate few

タケハル:確かに! 華氏451を下敷きに、これから頑張っていこうとかいう話じゃなくて、同じことがまた繰り返されるというオチwww これ、裏を返せば、最後のほうの、図書館のアーノルド・ベネットの話につながりますね。時代を超えて読み継がれる条件となる、a passionate few というやつ。

たとえばシェイクスピア。どうしてシェイクスピアが今でも残ってるのかというと、シェイクスピアを熱烈に評価する少数(a passionate few)がいたから。当時、シェイクスピアが世に出たとき、劇作家のクリストファー・マーロウは既にいた。だけど、マーロウではなくシェイクスピアが残っているのは、「シェイクスピアが好きだ」と延々と言い続ける人がいたから

だから、華氏451のラストで残るものは a passionate few がいる。プラトンとかはこの世界でも残り続けるんでしょうね。で、熱烈なファンがいない作品は消えていく……

スケザネ:そこでやべーなと思うのがゲーテ。ドイツ文学の大家だから、熱烈なファンがいるんじゃないかと思ってたら、ゲーテ、特にゲーテの小説を研究している人、日本に少ないんですよ。名前だけ大きくて存在感が大きいので、逆にa passionate few がいない。

タケハル:嘘でしょ!?

Dain:研究しつくされちゃったとか?

スケザネ:むしろ逆です。莫大な著作量で、しかも著作の幅も広い。一口にゲーテと言っても、小説だけじゃなく自然科学、戯曲集もあるし、文学家や政治家としての分野ごとの仕事があって、本国ですら全集が―――まだ、本当の完全なる全集が―――編まれていないんですよ。その中でも、ゲーテとかシラーの文学作品って、新しい翻訳がほとんどない。こないだ1冊だけ出たぐらい。(※追記:幻戯れ書房のルリユール叢書にて、シラーの新訳が出版されることが発表された。)

タケハル:そうそう、シラーの戯曲の新しいの、ホントに出てほしい。訳が古いとシナリオというより本を読んでる感じになってしまう。

スケザネ:古いやつだとシラーじゃなくて「シルレル」とか書いてありますもんね……脱線しまくってますねw

Dain:いやいや、今の新訳が出ないという話、華氏451につながります。当局側、つまり本の弾圧側に立つと、もっと徹底的なやり方があるんじゃないかと。「人々にものを考えさせない」ために、考える材料となる海外からの翻訳本を殺す。つまり、翻訳する人への補助金を止めるとかして、活動しにくくするんです。

4. 本の殺し方

Dain:もちろん華氏451は小説だから、「本を集めて焼く」というスペクタクルなシーンを入れる方がお話としては面白い。でも、そんなことすると、レジスタンスが生まれる。だから、そんな派手なことをせず、もっとサイレントに徹底的にやる。

そんなとき参考になるのが、オーウェル『1984年』です。ポイントは、「置き換える」です。ニュースピークと言われているやつ。good と bad じゃなくって、bad を ungood に置き換えたりして、どんどん言葉を減らしていく。そうすることで、本は、本質的な意味で、薄くなっていく。

スケザネ:そもそも、原本から薄くなっていく、ということですね。

Dain:そうそう。そして次に考えたのが、電子書籍への置き換えです。華氏451では、電子ペーパーや電子書籍といったものは無かったはず。でも、今の僕らはスマホやタブレットやPCで電子書籍を読んでる。

10年ぐらい前、電子書籍元年とか言われて、いろんな端末や本の規格がバーッと出ました。紙から電子への置き換えが進む一方で、沢山の種類の端末や版元が消えていったはずです。そのときは気にも留めなかったけれど、今考えると、「本を消す」のに上手いやり方ですね。

電子書籍への移行を優遇して、どんどん紙から電子に置き換えていって、こっそり消すんです。端末のアップデートしないとかして。

スケザネ:考えもしなかった……いま Kindle が無くなると消える本って、確かにありますね。いま、Kindle でしか出してない本ってあるから何割かはこのやり方で消せますね。

Dain:いまので思ったのが、ソシャゲ。ソシャゲのサービスが終了したら、何も残らないですね、当たり前ですけど。URLにアクセスしても、跡形もない。一方、カセットとかディスクとか何十年も前のが残っていて、今でも遊べる。それはモノとしてのメディアがあるから。だから Amazon は、Kindle のメディアを維持していくために、金よこせという話もあるかも。

タケハル:印刷するとか流通するとかのコストが無くなった反面、元を絶たれると一気に無くなるというリスクを追うことになるんですね。

スケザネ:近い時代では映画でこれが起きていますね。古い映画の何割かってもう観られないじゃないですか。これは意図せざるものもあるし、燃やされたというのもある。その波は既に起きているのかも。

タケハル:アリストテレスの著作が残っていないといっても、何百年単位で起きている話ですけど、映画についてはここ100年で起きてます。技術が発展する速度が上っていくにつれて、消える速度も上っていくという矛盾。

Dain:マングウェル『愛書家の楽園』のエピソードにつながります。イングランドの土地台帳で、千年前に作られた本です。これを電子化しようという動きがあって、3億円かけて文字・画像・動画を CD-ROM にしたのが1986年。でも CD-ROM って10年ぐらいでダメになるんですよね。16年後に読み出そうとしたら、データが劣化してて再生できなかったという話。

スケザネ:10年ってめちゃくちゃ耐久力弱いじゃないですか!

Dain:映画だとデジタル・リマスター版というのがあるじゃないですか。あれも、新しいメディアにアップデートしていく必要があるんです。

タケハル:デジタル化したから大丈夫だと油断していると、規格が変わったりとかするんですね。

スケザネ:ハードが進歩すればするほど、維持していくコストがどんどん増えていくんですね。昔はほら、洞窟に描いたらいまだに残っているじゃないですか、数千年前のものが。

タケハル:最強は石ですね!

スケザネ:最強は石、次は紙!

一同:www

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