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米韓同盟強化優先で北朝鮮非核化後退

米韓首脳会談(2021年5月21日) 出典:Anna Moneymaker/Getty Images

朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・5月21日、バイデン米大統領と韓国の文在寅大統領は初会談。

・共同宣言で「北朝鮮の完全な非核化」との用語、使用されず。

・バイデン政権による北朝鮮非核化実現は、成功の可能性低い。

5月21日、バイデン米大統領と韓国の文在寅大統領は、ワシントンで初の会談を行った。この会談での主要議題は、米韓同盟の強化、北朝鮮非核化、中国への牽制、米韓技術協力と地球温暖化や新型コロナウイルス対策、米日韓協調問題などだ。その他韓国からは、400億ドルの対米投資が示され、米国からはミサイル射程距離制限解除と駐韓米軍保護のための韓国軍へのワクチン55万人分提供が伝えられた。これらの合意内容は、長文の共同声明に収められている。

1、目立つバイデン政権の文政権への配慮

会談では、対中国包囲網強化のための米韓同盟強化問題が優先され、注目されていた北朝鮮非核化問題は、国連制裁の完全な履行が強調されたものの、文在寅大統領への配慮が目立った。

それは、次の5つの内容で示された。

「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」と記述

2018年の板門店宣言とシンガポール米朝共同声明継承を確認

外交と対話が必須と強調し圧力への言及控える

文政権の南北対話と関与、協力政策にバイデン大統領が支持表明

北朝鮮の人権改善要求で、人道的支援の提供がその主要内容であるかの如き文の挿入。

この内容は全て北朝鮮が好む「太陽政策」の中身とも言えるものだが、この中で最も気になるのは「我々の目標は、朝鮮半島の完全な非核化」とした部分である。当初バイデン政権が強調し、日米共同声明でも明確にされていた「北朝鮮の完全な非核化」との用語は使われなかった。

では「朝鮮半島の非核化」との用語使用はなぜ問題なのか?

それは「朝鮮半島の非核化」に、北朝鮮の非核化だけでなくその他の5つの内容、すなわち

▼韓国内の米国核兵器の公開

韓国内の核兵器および基地の撤廃・検証

▼米国のグアムや在日米軍戦略資産の朝鮮半島への展開禁止

▼対北朝鮮核不使用の確約

在韓米軍の撤収

などが込められているからである。

北朝鮮はこの内容を2016年7月に政府報道官声明で明確に示した。

そのことがわかっていたからこそ、バイデン政権は、ブリンケン国務長官の韓国訪問時には、韓国のチョン・ウィヨン(鄭義溶)外務部長官が「朝鮮半島の非核化」と言ったのに対してわざわざ「北朝鮮の非核化」と明確に述べていたのである。しかしなぜか今回の共同声明では韓国側が使う「朝鮮半島の非核化」としている。

▲写真 ブリンケン米国務長官とチョン・ウィヨン(鄭義溶)韓国外務部長官 2021年3月21日 出典:South Korean Foreign Ministry via Getty Images

文在寅政権が、バイデン政権の対中国戦略に絡んだ同盟強化要求の受け入れと引き換えに強く求めたからではないかと思われるが、しかし、この用語の変更についてバイデン政権は一度も説明していない。そればかりか、共同声明ではG7外相会議や日米外相会談で使われていた「完全かつ検証可能で不可逆的な核の廃棄(CVID)」との用語も消え去った。

2、用語変更で大喜びの韓国の従北派

「北朝鮮の非核化」が使われなかったことで、韓国の従北勢力は大喜びだ。5月25日に行われた、米韓首脳会談の成果を説明する関係3部署合同ブリーフィングでは、外交部長官のチョン・ウィヨン(鄭義溶)が、「今回の韓米首脳会談を契機に、不必要な誤解が生じる可能性のある用語を統一した」と語り、「韓(朝鮮)半島非核化用語の内容は、北朝鮮が主張してきた「朝鮮半島の非核化」と違いがない」とまでいい切った。

しかしあまりにも本音をさらけ出したので、28日には「韓国政府が使用する韓半島非核化は、米国が提供する核の傘および在韓米軍の戦略資産の排除は含まれない」と慌てて修正発言を行った。

また、「文大統領の予言師」と言われるセジョン(世宗)研究所理事長のムン・ジョンイン(文正仁)元統一外交安保特別補佐官は5月25日、「今回は北朝鮮が米国の対話要請に応じると信じている」とし、「大統領選挙レースが始まる9~10月前に(文在寅政権が)決断的な行動を取るだろう」と述べた。文大統領が最後の勝負に出るとの暗示だ。この発言は、バイデン政権が文政権の対北朝鮮政策を支持したので、大々的対北朝鮮支援が可能と解釈しての発言だ。

3、用語変更を危惧する米国の議員と識者

米国では今回の米韓首脳会談が、米韓同盟の強化による中国封じ込めで成果を収めたことを認めつつ、共同声明に「朝鮮半島の非核化」という用語が使用されたことや、北朝鮮人権問題が、人道支援問題であるかのごとく薄められたことに対して危惧する声が出ている。

共和党のマイケル・マコール下院外交委員会筆頭理事は、ボイスオブアメリカとのインタビューで、「バイデン政権が、問題のある韓(朝鮮)半島の非核化という用語を使用しており、懸念される」と明らかにした。これは同盟国である韓国に対する米国の防衛公約を不確実にするものと主張した。

また民主党のエドワード・マーキー議員は、ソン・キム北朝鮮担当特使任命を評価しながら、北朝鮮人権特使の任命も急ぐべきだ、と注文をつけた。そしてトランプ政権で駐日大使を務めた共和党上院外交委員会のビル・ハガティー議員は、北朝鮮に対する「最大圧力と関与、軍事的抑止」を並行させたトランプ政権時代の政策は維持すべきだとした。 

北朝鮮に精通する米国企業研究所ニコラス・エバースタット博士は、自由北朝鮮放送とのインタビューで、「両国首脳が首脳会談声明で合意を見たことから、統一した結論に到達したことだけは間違いないようだ」としながら、しかし、それが満足かどうかは別問題だとし、「(共同声明では)本質的に太陽政策を受け入れたように思える」と懐疑的見解を表明した。

そして「人権に関する言及はなされたが、多少意見の相違があったように見える。最初は北朝鮮の人権問題について話し合ったように見えたが、結局は人道的支援についての話となっている。太陽政策擁護者たちは、北朝鮮政権の気分を悪くしないようにするため、常に北朝鮮の人権について話すことを恐れる。彼らは常に人権問題を北朝鮮に食糧や資金などを送る人道支援に置き換える」と鋭い指摘を行った。

▲写真 文在寅韓国大統領と金正恩北朝鮮総書記 北朝鮮三池淵にて。(2018年9月20日) 出典:Pyeongyang Press Corps/Pool/Getty Images

こうした米国側の対応を見て、首脳会談後1週間以上が過ぎた今も、北朝鮮は、強い拒否反応を示していない。むしろ中国の拒否反応の方が目立つ。

今回の米韓共同声明だけを見ると、米国が30年間失敗を重ねてきた対北朝鮮政策のデジャブのようだ。このまま進めば、バイデン政権による北朝鮮非核化実現は、成功の可能性が低いと思われる。

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