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新築マンションは「狭小」から「広大」トレンドへ 特殊な好況感の先行き懸念も

テレワークの普及でマンションに広さと部屋数を求める人が増えている。

 コロナ禍のテレワーク普及により、新築マンション市場のトレンドが変わりつつある。これまでは価格も手頃な“狭小マンション”が多く販売されてきたが、コロナ後は「広さと部屋数」を増やした“広大マンション”があちこちに建設されている。果たしてどこまで需要があるのだろうか。住宅ジャーナリストの榊淳司氏がレポートする。

【写真】テレワーク用の仕事部屋

 * * *
 新築マンション市場に新たなトレンドが生まれている。コロナ禍によって商品企画の傾向に変化が生じたのだ。「広さと部屋数」を増やすという流れが顕著に表れ始めたのだ。

 コロナ禍によって度々発出された緊急事態宣言は、人々の働き方に微妙な変化をもたらした。「自宅でできる仕事はなるべく自宅で」というテレワークが一気に普及したのだ。これによって、多くの人々にとって自宅は「寝に帰る場所」というより「仕事場」になってしまった。

 場合によっては、一日の内のほとんどを自宅で過ごさなければならない。そうなると、今まで気づかなかったことにも気づかされる。

 例えば、仕事をする場所がない。リビングのダイニングテーブルを一日中使うわけにもいかない。リビングには他の家族がいる場合も多く、リモートでの打ち合わせや会議には向かない。また単身者でもワンルームマンションのような狭い空間に一日中閉じこもっていると、かなりの閉塞感に見舞われる。

 そんな人々にとって、根本的な解決策は引っ越しであった。新しく探す住まいは、今よりも「もう一部屋」、そして「もっと広く」というニーズを満たす条件でなければならない。

20平方メートル台の住戸が増えた背景

 しかしコロナ前の新築マンション市場では、その逆の現象が広がっていた。それは「より狭く」、「よりコンパクトに」という流れである。

 この8年ほど、新築マンションの値上がりはほぼ全国的な傾向であった。大きな理由はコストプッシュだ。人手不足による人件費の高騰が建築費のコストアップとなった。インバウンド向けのホテル需要の増大が土地価格を上昇させたのだ。黒田日銀総裁が行った異次元金融緩和による金利低下とマネー増加も、これらを強力に後押しした。

 しかし、新築マンションの購入者である一般所得者の収入は横ばいか、むしろ実質的に減少している。消費税率のアップや公共料金の値上げもあった。個人所得は下がり気味なのに、マンションの価格が上がったら買えなくなるのは当然だ。

 そこでデベロッパーたちが考えたのが、供給住戸の面積を縮小するという手法。面積が小さくなれば、販売価格も圧縮できるのだ。何とも短絡的なやり方であるが、あの業界では市場が販売不振期に入った時に採用されるお決まりの選択肢である。

 大手財閥系のマンションデベロッパーが供給する都心エリアの新築物件に、当たり前のように20平方メートル台の住戸が混じるようになったのは2010年代の後半あたりからだ。

 20平方メートル台といえばワンルームである。ベッドと小さなテーブルセットを設置すれば、もう他に家具は置けない程度の広さ。大手デべロッパーがそういうワンルーム的な狭小住戸を自社ブランドのマンションに組み込むこと自体、以前にはなかった。最初にそういった住戸を見たときには驚いたものだ。

 そして、コロナ直前の2019年頃はすっかりありふれた光景になっていた。

4LDKの間取りも珍しくない時代

 ところがコロナ禍がこの流れを変えている。

 この春ごろから新築マンション市場には、明らかにコロナ後に商品企画された物件が供給され始めている。首都圏でも関西圏でも、そこにはある程度はっきりとした傾向が読み取れる。それが「広さと部屋数」なのである。

 都心でも郊外でも、コロナ以前はあまり見なかった4LDKの間取りも珍しくなくなっている。そして、20平方メートル台の住戸は、ほぼ見られなくなった。狭くても40平方メートル台が普通になりつつある。

 新築マンション市場というのは、何かトレンドが変わるときには、業界全体が「一斉に」動く傾向がある。例えば、どこかのデべロッパーが新たに導入して成功したデザインや設備は、その1年後にはありふれたものになっている。

 傍から見ればやや滑稽な変化だが、あの業界の横並び意識は相当なものである。今回も、この業界特質がいかんなく発揮されていると言っていい。

高くなり過ぎた価格に需要追いつかず

 しかし、今回の「広さと部屋数」を増やすという潮流変化が市場に受け容れられるかというと、それはまだ分からない。なぜなら、「広さと部屋数」を増やせば当然販売価格も高く設定せざるを得ない。その価格に需要層はついてこられるのかという究極の問題があるのだ。

 これに対する答えは、あと半年も経たずに判明するはずだ。すでにある程度の答えは見え始めている。

 東京の都心でも大阪の中心エリアでも、新築マンションの売れ行きは芳しくない。今年の春先までは、それでもまだ少しだけ動いていた気配を感じた。

 しかし新年度入りして2か月近くが経過した今、動きは鈍っている。やはり、高くなり過ぎた価格に需要層が付いてきていないのだ。

 実はコロナ禍が始まった2020年の間も、首都圏ではマンション事業用地の値上がり基調が続いていた。その結果、今年売り出される新築マンションの価格は昨年よりも値上がりしているケースが多い。

 そうでなくても、コロナ前の2019年には新築マンション市場の需給がかなり厳しい状況だった。ただ、2020年は持続化給付金や融資条件の緩和という「コロナ特需」があったので、東京都心の不動産市場では投資家向けの利回り物件等を中心に活発な取引が行われていた。

新築マンション「冬の時代」到来か

 また一般の需要層も「広さと部屋数」問題を即座に解決できる中古マンションの購入を急いだ。湾岸エリアでは、にわかな中古タワマンの購入ブームもあった。そういった動きが不動産市場全体に表面的な好況感をもたらしていたのだ。

 しかし、どうやらそういう特殊事情による好況感も終わり始めている。

 にもかかわらず、新築マンション市場では価格が高騰するのを構わずに「広さと部屋数」の商品企画物件が、それこそ「一斉に」市場に送り出されている。

 この変化に需要層が付いていけなければ、新築マンション市場には本格的な冬の時代が到来するのではないか。

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