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【東日本大震災】10年を超えて 菅直人議員インタビュー「安定的で能力の高い政権が十分にできる」(当時、総理大臣)

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未曽有の大震災、原発事故発生を受けて政府の緊急災害対策本部長、原子力災害対策本部長として陣頭指揮した菅直人元総理大臣(任期:2010年6月-2011年9月)。なぜ震災発生直後に原発事故現場に向かったのか、どのように最悪のシナリオを回避したのか、なぜ原子力規制委員会を創設したのか、立憲民主党は原発ゼロ社会をどのように実現するのか――などについて聞きました。

何時間待ってもベントを実施したという報告がこない

――3月12日早朝から福島第一原発を視察した背景について 3月11日午後2時46分に地震が発生しました。その後、津波の到来によって東京電力の福島第一原子力発電所が全交流電源喪失に陥りました。この事態を受けて政府は、原子力災害対策特別措置法(原災法)に基づいて「原子力緊急事態宣言」を発令しました。原災法の枠組みでは、全体の責任は総理大臣、原発オペレーションの責任は東電にありました。ただ、避難の責任は、国が設置した原子力災害対策本部が有していました。政府が現地災害対策本部を作り、そこに自治体関係者を集めて対策を講じるというのが法令の仕組みでした。ところが、地震、津波で被災地の自治体関係者が集まることができず、発災直後は現地対策本部が全く機能しませんでした。

 こうした中で11日深夜、東電が「1号機の圧力がどんどん高まっている。このままだと原子炉の格納容器や圧力容器が破裂するかもしれない。ベントを行ないたい」と訴えてきました。ベントとは、格納容器の破壊を防ぐために内部の圧力を抜く作業です。その作業をすれば、大量の放射能が外部に放出されます。そうすると、避難範囲が原発から半径3キロや5キロという従来の規定のままでいいのかという問題が生じます。こうした避難区域の設定もあり、東電はベントの了解を求めてきたのだと認識しました。政府はベントを認めると同時に避難範囲を広げる決定をくだしました。

 ところが、「ベントは2、3時間で行なえる」と聞いたのに、何時間待ってもベントを実施したという報告がこないのです。「なぜベントをあれだけ急いだのに進んでいないのか」と、東電の原発専門家に聞いても「分からない」というのです。その他にもさまざまなことを質問しましたが、ことごとく明確な答えが返ってこず、現場の状況が全く伝わってきませんでした。それで「現場の話を直接聞かなければダメだ」と私自身が判断をして、12日の朝一番で福島第一原発の視察にヘリコプターで向かったわけです。



被災地へ10万人規模の自衛隊員を動員

――故吉田昌郎所長との面談について 現地では東電の対策拠点になっていた免震重要棟に行き、そこで吉田昌郎所長と初めて会いました。ベントができない理由を質問したところ、非常にクリアに説明してくれました。「ベントは弁を開けるだけだから、普段はスイッチ一つで簡単にできる。ところが、全ての電源を喪失しているため、いくらスイッチを押しても弁が開かない。そこで所員が弁を手動で開ける作業をしている。ただ、放射線量が非常に高くなっているから、交代交代で作業をしなければならない。それで作業が非常に難航している。しかし最終的には決死隊を作ってでも弁を開ける」――以上のような解説でした。それを聞いて事情をよく理解できましたので、「ぜひ頑張ってもらいたい」と所員の方々を激励しその場を後にしました。

――宮城県沿岸部の視察について その後、福島県から北上し、津波被害の激しかった宮城県の沿岸部をヘリコプターから見ました。これも凄まじい光景でした。もう海と陸の区別がつかないのです。海岸沿いが全部やられて、海の水が陸地の相当奥まで入っていました。こうした状況を上空から見て、本当に大変な津波だと認識を深めて、昼前に東京に戻ってきたわけです。

――原発、被災地視察の成果について 東電本店が正確に説明できなかったベント作業が遅れている理由を知ることができました。そして何よりも吉田所長と知り合えたことは、その後の事故対応に本当に役に立ちました。あわせて、津波の状況を直接、早い段階で見たことで、自衛隊に最大限出動してもらわなければならないという認識に至りました。視察結果を北澤俊美防衛大臣(当時)と共有したところ、自衛隊定員20万人の半分にあたる10万人を地震津波被災地へ派遣することを決断してくれました。発災から早い段階で被災地に自衛隊を最大限動員できたのは、北澤大臣の判断によるものですが、被災地を視察した内容を伝えられたことも大きな要因の一つだと思います。

安定的な冷却により最悪事態を回避

――なぜ最悪な事態に至らなかったのか 原子力委員会の近藤俊介委員長に「最悪シナリオ」の検討を依頼し、一つの案を出してもらいました。最悪の場合、東京を含む半径250キロ圏内の人々が避難しなければいけなくなるという内容でした。当時、シミュレーションの中で一番心配されたのが、4号機の使用済み燃料プールでした。定期点検中だったため、全燃料が圧力容器から燃料プールに移されていました。その燃料がプールの水を蒸発させて、そこでメルトダウンするのではないかと恐れたわけです。燃料プールは格納容器の外にありますから、そこでメルトダウンが始まると、大気中にものすごい量の放射能が出ることになってしまいます。そうなれば、半径250キロ圏の避難が必要になるというシナリオでした。

 最近の調査報告によれば、アメリカの原子力規制委員会(NRC)もその事態を最も心配したと言います。米海軍などは、在日米国民保護のために半径200マイル、つまり320kmの避難を検討していたと言います。そうなると横須賀の米軍基地なども全部撤退しなければいけない。アメリカにとっても非常に大きな選択を迫られる議論があったことが明らかになっています。こうした事態の中、米軍の要請もあり、自衛隊による原発への水の投下が行なわれました。4号機のプールに水が残っていることを確認できたため、3号機への投下になりました。

 ただ、水の投下は一時的なものであり、プールに水を安定的に入れる段階までは至っていませんでした。さまざまな手段を検討した結果、コンクリート打設機による注水が最も効果的であると判断し、福山哲郎官房副長官らが中心になって調達しました。ゾウの鼻のように伸びた打設機は、燃料プールの上まで届き、水を安定的に入れることができるようになりました。こうして3号機、4号機のプールに水を補充をすることができ、最悪のシナリオを免れたというのが現実的な理由です。

 それから東電内に設置した政府と東電の統合対策本部が機能し始めたことも要因の一つでした。3月15日、東電からのいわゆる「撤退」要請に対して、私が「あり得ない」と清水正孝社長に伝えた後、東電本店に行き、そこに政府と東電との合同対策本部を作りました。私が本部長、海江田万里経済産業大臣と清水東電社長が副本部長を務めると同時に、私の補佐官を常駐させました。そこに関係各省、さらに米国関係者も集まり、いろいろな情報が集約されるようになりました。最近の検証でも、そこでのさまざまなオペレーションが上手く回り始めたことが収束に影響を与えたと分析されています。

米国のアジア戦略上、日本は非常に重要な存在

――アメリカからの支援について 米国政府は当初、日本の政権から原発事故に関する情報がほとんど伝わってこなかったため、「何かを隠しているのではないか」と疑っていたようです。率直に言うと、最初の1週間くらいは、官邸にすら東電から具体的な事象がほとんど報告されませんでした。むしろ原発に無人機を飛ばしてモニタリングをしていた米国の方が、日本国の総理大臣より放射能の漏洩状況を把握していました。その事態の深刻さを懸念し、「どうなっているのか」と聞いてきたわけです。

 今後の防災を考えると、万が一にも原発事故が発生してしまった場合、アメリカに支援を求めることはもちろんです。ただ、それだけではなくて、日本でも自衛隊に原発を一定程度モニタリングさせるような役割について、今から検討しておく必要があるだろうと思います。というのは、モニタリングを行なうのが文部科学省なのか、自治体なのか、体制がはっきりしていないのです。原発事故マニュアルができましたが、モニタリングのあり方までは踏み込んでいません。こうしたことを政府は考えておくべきだと思います。

 アメリカの支援を俯瞰(ふかん)した場合、その規模が大きかったというだけでなく、もっと本質的な意味のものだったと思います。米国は日本という国の存在を非常に重視していました。なぜなら米国にとって日本は、アジアにおける一番安定的な同盟国であると同時に、第7艦隊の母港である横須賀やアジア最大の米軍基地である沖縄を擁する国だからです。こうした点からアジア戦略上、日本の持つ意味というのは非常に重要であったのです。それだけにアメリカは、福島原発事故を日本の事故として捉えるだけではなかったのです。在日米国人のみならず、米軍部隊撤収など米国自身が日本から避難しなければならなくなることやその後の影響も考慮して、最大限の支援をしてくれたわけです。



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