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「男女差47%」自動車事故で女性の重傷リスクが圧倒的に高い理由

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自動車事故は男性のほうが事故に遭う確率が高い一方で、女性のほうが重症化や死亡するケースが多いそうです。ジャーナリストのキャロライン・クリアド=ペレスさんは「自動車の設計には、長年にわたって女性を無視してきた恥ずべき歴史がある」と指摘します――。

※本稿は、キャロライン・クリアド=ペレス(著)神崎朗子(翻訳)『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

安全運転
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tony Studio

自動車設計における女性差別

ミネソタ大学の運動生理学の教授、トム・ストッフレジェンは、「女性のほうが男性よりも乗り物酔いになりやすいのは、この分野の研究者なら誰でも知っています。」と語る。「女性の姿勢の傾きは月経周期によって変化する」というエビデンスも発見した。

私はストッフレジェンの研究結果にはわくわくすると同時に、怒りを覚えた。

なぜならこれは、私が調べているもうひとつのデータにおけるジェンダー・ギャップの問題すなわち、車の設計にも関わってくるからだ。

座っているときでも、体は揺れている。

「スツールに座っている場合は、ヒップのあたりが揺れています」ストッフレジェンは説明する。

「椅子に背もたれがある場合は、首の上にある頭が揺れています。揺れを取り除くにはヘッドレストを使うことです」

その瞬間、私の頭に疑問が浮かんだ。もしヘッドレストの高さや角度や形状が体に合っていなかったら、いったいどうなるんだろう?

女性はただでさえ乗り物酔いをしやすいのに、車が男性の体格に合わせて設計されているせいで、車酔いがよけいにひどくなるのでは?

私はストッフレジェンに疑問をぶつけた。

「そうですね、おおいにありうるでしょう」。彼は答えた。

「ヘッドレストの高さなどが合っていなければ、安定性の質がね……そういう例は初耳ですが、いかにもありうる話だと思います」

だがここでまた、データにおけるジェンダー・ギャップにぶつかる。車のヘッドレストが女性の体格を考慮して設計されているかどうかを確認できる研究は、どうやら皆無のようなのだ。だが、それも予想外ではなかった。自動車の設計には、長年にわたって女性を無視してきた恥ずべき歴史があるからだ。

自動車事故の死亡率の男女差

男性は女性よりも自動車事故に遭う確率が高い。つまり、自動車事故における重傷者の大部分は男性だ。ところが女性が自動車事故に遭った場合は、身長、体重、シートベルト使用の有無、衝突の激しさなどの要素を考慮しても、重症を負う確率は男性よりも47%高く、中程度の傷害を負う確率は71%高い。

さらに、死亡率は17%高い。これらはすべて、車がどのように、そして誰のために設計されたかに関係がある。

運転するとき、女性は男性よりも前のめりになりがちだ。その理由は、女性のほうが平均的に身長が低いからだ。

両脚がペダルに届くように前に出す必要があるし、ダッシュボードを見渡すには背筋を伸ばして座る必要がある。しかし、これは「標準的な座席の位置」ではない。女性たちは「適所を外れた」ドライバーなのだ。標準から外れているということは、正面衝突の際に内臓損傷を負うリスクが高くなるということだ。短い脚をペダルへ伸ばすことで、ひざやヒップの角度も損傷を負いやすくなる。基本的に、すべてがまちがっているのだ。

交通事故で傷付いた車体
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milan Krasula

さらに追突に関しても、女性のほうが負傷のリスクが高い。女性は首や上半身の筋肉が男性よりも少ないため、むち打ちに弱いのだが(最大で3倍も弱い)、車の設計のせいで、さらに負傷しやすくなる。

スウェーデンの研究では、いまの車の座席は固すぎて、衝突の際に女性の体を保護していないことが明らかになった。女性のほうが体重が軽いため、椅子の背もたれが機能せず、女性の体は男性よりも速いスピードで前方に投げ出されてしまうのだ。こんなことが起こってしまう理由は単純だ。

衝突テストは「男性前提」でしか行われていない

自動車の衝突安全テストに用いられるダミー人形は、「平均的な」男性の体格にもとづいているからだ。

衝突安全テストにダミーが初めて導入されたのは1950年代のことで、それから数十年のあいだ、約50パーセンタイル[100人中、下から数えて50位くらい。つまり平均的]の男性にもとづいていた。最も一般的なダミーは、身長177センチ、体重76キロ(どちらも平均的な女性をかなり上回っている)で、筋肉量比率や脊柱も男性にもとづいている。1980年代の初めには、研究者たちのあいだで、規制試験においては50パーセンタイルの女性ダミーを含むべきではないかという意見も出たが、その提案は無視された。アメリカの衝突安全テストで女性のダミーの使用がようやく始まったのは、2011年のことだ。ただし、これから見ていくとおり、そのダミーが「女性」と呼べるものかどうかは疑わしい。

妊婦においては有効なシートベルトさえ開発されていない

妊婦をめぐる状況はさらにひどい。妊婦のダミーは1996年から製造されているが、アメリカでもEUでも、政府は衝突安全テストにおける妊婦ダミーの使用を義務付けていない。それどころか、自動車事故は母体外傷による死産の原因の第1位であるにもかかわらず、妊婦に有効なシートベルトさえ開発されていないのだ。

キャロライン・クリアド=ペレス(著)神崎朗子(翻訳)『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(河出書房新社)
キャロライン・クリアド=ペレス(著)神崎朗子(翻訳)『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(河出書房新社)

2004年の研究は、妊婦も標準型シートベルトを装着すべきだと示唆しているが、妊娠後期の妊婦の62%には標準型シートベルトはフィットしない。また3点式シートベルト[腰の左右と片方の肩の3点を支えるもの]を妊婦が大きくなった腹部(妊娠子宮の膨らみ)を横切るかたちで装着した場合は、1996年の研究で明らかになったとおり、腹部の下の、腰骨のできるだけ低い位置でベルトを装着した場合にくらべて、力伝達が3〜4倍に上昇するため、「致命傷のリスクも上昇する」。

また標準型シートベルトは、妊婦以外の女性たちにもあまりよくない。女性は胸の隆起があるため、多くの場合は装着のしかたが「不適切」になり、負傷リスクが上昇する(だからこそ男性の縮小型ではなく、ちゃんとした女性のダミーを設計すべきなのだ)。さらに、妊娠によって変化するのは腹部だけではない。胸のサイズも変化するため、適切な装着はますます難しくなり、シートベルトの有効性は低減してしまう。この問題もやはり、女性のデータがあるにもかかわらず、無視され続けている典型的な例だ。必要なのは、完全なデータを使用して自動車を徹底的に再設計することだ。そのためにも、実際の女性の体格にもとづいてダミーを製作すればよいのだから、簡単な話だろう。

女性ダミーの導入により安全性の評価が急落

以上のようなデータ・ギャップはあるとはいえ、アメリカでは2011年に衝突安全テストに女性ダミーを導入したことによって、自動車の安全性の星評価が急落した。『ワシントン・ポスト』紙の記事によれば、ベス・ミリトーと夫は、4つ星の評価が決め手となって、2011年型のトヨタのシエナを購入した。ところが、思わぬ誤算があった。ミリトーは「家族で外出するときは」助手席に座ることが多いのだが、助手席の安全評価は2つ星だったのだ。前年モデルでは、助手席(男性ダミーでテストされた)は最高評価の5つ星だったが、助手席のダミーが女性ダミーに切り替わったことで、時速約56キロの正面衝突の場合、助手席の女性の死亡もしくは重症リスクが20〜40%になることが明らかになった。

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