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京大総長の志が低すぎて痛々しい件

 2013年・春を言祝ぐ:支局長インタビュー/3 京大総長・松本紘さん /京都(毎日新聞)

 今の日本社会に欠けているのは人材育成です。文明=利便性や技術は進んでいるが、文化=心の世界は必ずしも進歩していない。そのギャップを埋めるような人材を育てなければならない。教え込むのではなくて、自分で気づき成長しようとするのを引き出すのが、大学の役割です。

 

 さて毎日新聞に京都大学総長のインタビュー記事が載って、ちょっとばかり世間の話題を攫っているようです。曰く、文明は進んでいるが心の世界は云々と、飽きもせず手垢の付いた文明論が繰り返されています。もうちょっと、他人とは違うオリジナリティのあることを言おうとかは思わないのでしょうか。総じて毎日新聞は文明論が好きな様子ですが、何度となく同じような主張を論者だけ変えて繰り返されてもねぇ……

 

> 今、子どもの育ち方がひずんでいると思います。偏差値一辺倒で、入試の技術だけ身につけて大学に来る。全員大学に入っても、学力がなくて進路を見失い、社会に出ても役に立たない。医者になりたい人ではなくて、成績のいい人が医者になるように、単細胞でモノレール的なキャリアパスになっています。競争することだけがいいことではない。

> 受験勉強ばかりでなく、高校時代にやっておくべきこと、例えば音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤とか、幅広い経験をしてきた人に入試のバリアを少し下げる。大学では意志をもって一生懸命勉強して、卒業してもらう。出口管理ですね。このように大学が入学試験を変えれば、高校、中学にも波及するのではないかと期待しているんです。

 

 上の段落もまた使い古された俗流若者論と言いますか、何とも聞き飽きた台詞です。とはいえ校長とか学長とか、その手の人の「ありがたいお話」とは総じてこんなものなのかも知れません。で、ネット上などで色々と反発を食らうことになった主たる原因は引用の下段、「音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤とか、幅広い経験をしてきた人に入試のバリアを少し下げる」云々の行でしょうか。まぁ就職予備校を目指すなら、それで良いのではないかと思います。企業の採用側も京大総長と似たようなことを考えていることでしょう。勉強するための場ではなく就職するための場であろうとするなら、京大総長の方針は間違っていません。

 もっとも、似たようなことは他の大学、京都大学ほどには難関でない他大学では既に実行されて久しいような気がします。学力よりも人間性重視みたいに言えばどこでも聞こえは良いわけで、京大ほど勉強が得意な人が集まらない大学では前から普通にやってきたことなのではないでしょうかね。とりわけ経済系の分野で顕著ですけれど、我が国で改革気分に浸っている人の大半は周回遅れの議論をしているのが常、たぶん今回の京大総長も同様、世間の動きについて行けていないのだと思います。

 それはさておき「音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤」は「幅広い経験」と呼ばれ、京大総長が下駄を履かせてやりたいもののようです。ですが「音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤」だけが人生ではありませんよね? もっと他の、時には一風変わった生き方もあります。自分の学生時代を振り返っても、「勉強のできる人」って奇人・変人率が高いです。東大や京大の医学部に受かるような人はどこか「普通ではない」ところがありました。そして私に言わせれば「普通ではない」=「幅広いんじゃね?」と思うのですが、京大総長が挙げた例はどうなのでしょう。「音楽とか、恋愛」って、むしろ「普通」に近い気がします。そんな平凡な人生経験の持ち主なんて、わざわざ集めなくてもいいよ!

 私は京大に通ったことはありませんけれど、東の難関大学以上に京大は変人揃いと噂に聞いていたものです。噂が真実かどうかはさておき、とりあえず京大の総長は変人より「普通」の人を集めたがっているように見えます。ちょっと変わった、世間には理解されにくい趣味に没頭してきた奇人も京大にはたくさんいるのではないかと思うところですが、そういう学生を総長は全く評価していないのでしょう。

 スクールカースト、という言葉が日本でも使われるようになりました。メディア上で本格的に使い始めたのは教育評論家の森口朗氏だそうですが、日本版スクールカーストとは「人気のヒエラルキー」であり、「1 スクールカーストではコミュニケーション能力が大きなウエイトを占めている。」「2 「モテ」「非モテ」との相関性が極端に高い(と言われている)」「3 オタク=最下層という暗黙の了解がある」と氏は語っています。森口氏の論の妥当性はさておき、このスクールカースト概念と京大総長の言葉を併せて考えてみるとどうでしょうか。

 「音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤とか、幅広い経験をしてきた人」とは要するにスクールカースト上位のタイプであり、逆に「人間関係に乏しく、恋愛とは無縁、音楽などと違って世間の評価が芳しくない趣味を持つ」タイプはスクールカーストの下位となりがちです。だからどうした、と言いたいところですけれど大学の偉い人が「入試のバリアを少し下げる」基準としてこの辺りを持ち出すとなれば、知らぬ顔もしていられないような気がします。

 「人付き合いが悪く、恋愛よりも他にのめり込むものがあり、マイナーな趣味の持ち主」を京大総長はどう評価するのでしょうか。「音楽とか、恋愛始め人間関係の葛藤とか、幅広い経験をしてきた人」に加点し、「そうではない人」を相対的に不利な位置に置くとなれば、即ち「上位カースト出身者を優遇」「下位カーストを排除」ということにもなるわけです。勉強ができてもコミュニケーション能力に乏しければ就職だけではなく進学までが狭き門、そういう世界を京大総長は暗に嗜好しているとも言えます。

 試験の点数以外で「入試のバリアを少し下げる」ことは、要するに人間の生き方に点数を付ける行為でもあります。京都大学(総長)が高得点を付ける生き方もあれば、そうでないものもある、と。そこで「新たな価値を創造」しようとするのなら、ちょっと変わった人を優先的に集めるべきでしょうね。従来の価値基準では世間体の良くない人たちを活躍させてこその先進性です。逆に「既存の価値観に倣う」のであれば、群れ集う能力に秀で、かつメジャーな(あるいは流行の)趣味を持つ、企業のウケも良さそうな子を集めれば良い、スクールカースト上位の子を集めれば良いと言えます。そして京大の選択は?

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