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30対1の格闘戦で虚しく散った北朝鮮「最強工作員」の最期

北朝鮮軍の特殊部隊や破壊工作員は、練度がきわめて高いことで知られる。青瓦台襲撃未遂事件(1968年)や江陵潜水艦座礁事件(1996年)で韓国に侵入した特殊工作員たちの大部分は、韓国軍・警察によって射殺されるなどしたが、数で圧倒的に勝る韓国側にも相当数の死者が出た。

また、これらの事件では数人の北朝鮮工作員が、韓国側の包囲網を突破して帰還を果たしたとの説もある。

そんな北朝鮮の特殊工作員と関連し、脱北者で韓国紙・東亜日報記者のチュ・ソンハ氏が、自身のYouTubeチャンネルで以下のような興味深いエピソードを披露している。

1980年代に20代前半の若さで韓国に浸透し、現地の大学生に身分を偽装して活動した工作員がいた。民主化運動が活発だった当時の韓国には、北朝鮮にシンパシーを抱く大学生グループも少なくなかった。

この工作員は1990年秋、それまでの活動報告や新たな指示の受命、資金の受け取りなどのため平壌に一時帰還した。ちょうど、平安北道(ピョンアンブクト)の香山(ヒャンサン)郡に住む彼の父親が、喜寿を迎えるタイミングでのことだった。

こうした有能な工作員は、本国において非常に大事にされる。彼の活動を管轄する朝鮮労働党中央委員会の幹部は、「車を出すから、それに乗って(故郷へ)行ってこい」と勧めたが、工作員は護衛の兵士2人だけを連れて故郷に向かった。家族や親しい人々も、彼の本当の任務を知らず、軍務に就いているものと思っている。また、長く離れていた故郷の山河を愛でつつ、のんびり里帰りをするつもりだったのだろう。

それに、工作員として鍛えられているだけあり、怖いものもない。実家の近くにくるや、彼は護衛兵たちにも「少し後からきてくれ」と言って休ませ、ひとり家路についた。

すると、路上ですれ違った6人の兵士たちが、「タバコを1本もらえませんか」と彼に声をかけた。長い韓国生活で気のゆるんでいた彼は、故郷で軍務に就く兵士らを懐かしみ、高級タバコを1箱ずつ分け与えた。そのとき、カバンに詰まった高級な酒や食べ物をのぞき見た兵士たちは、態度を豹変させた。

「おい、それをぜんぶ寄越せ」

それでもまだ気持ちに余裕があったのか、工作員は「これは父の喜寿の土産だから渡せないが、後で遊びにくれば御馳走するぞ」と言って、実家の場所まで教えた。

この態度に、兵士たちは「チョロい相手だ」と思ったのだろう。カバンを強奪しようと襲い掛かった。しかし、そんな田舎の兵卒が到底かなう相手ではなかった。工作員は6人をまとめてたたき伏せたという。

工作員の不幸はここから始まった。ほうほうのていで帰隊した6人を見た中隊長は、「どんな野郎がこんなマネをしたんだ!軍隊の恐ろしさを教えてやれ!」と言って、ひとりの副小隊長に中隊のケンカ自慢30人を集めさせ、仕返しに向かわせた。

兵士たちは、父親の喜寿の祝い中だった工作員の家に上がり込み、乱暴狼藉を働いた。最初は彼らを止めようとしていた工作員も、両親に暴力が振るわれるに及んでキレてしまい、30人を相手に大立ち回りを演じた。だが、彼のそんな屈強さが災いした。仲間が次々に倒されるや、兵士のひとりが工作員の背後に回り込み、家にあった薪割り用の斧で頭をたたき割ったという。

工作員がこうして殺されたとの知らせは、遅れて到着した護衛兵により中央に報告された。それを聞いた金正日総書記は「軍の1個師団を失うより大きな損失を被った」と言って激怒。完全武装した対南工作員の訓練生――つまりは殺された工作員の一団を、件の中隊の駐屯地に送り込んだという。

(参考記事:【写真】金正恩の処刑命令を実行する「巨漢兵」たちの正体

訓練生の一団が、その中隊を皆殺しにしたのは言うまでもない。

この話が事実なら、殺された工作員は相当に優秀だったのだろう。しかし、そんな人物が韓国に浸透できたのも1980年代までだったはずだ。

韓国が急速な経済成長を遂げる一方、1990年代に大飢饉「苦難の行軍」を経験した北朝鮮は、こんな人材を育てる余力を徐々に失ったと思われる。

※デイリーNKジャパンからの転載

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