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戦車増強論者に提示する5つの命題

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前回の記事「H25概算要求-その5_10式戦車はせいぜい3両でOK」には、予想の通り大きな反響を頂きました。
当ブログのコメント欄はもちろん、普段は軍事バリバリの記事は転載しないBLOGOSも転載してくれたので、あちらのコメント欄にも多数のコメントを頂いています。
また、ツイッター上では、週刊オブィエクトのJSF氏にも突っ込んで頂きました。

空母ネタと戦車ネタは、言及すると面倒なので、正直言うと避けていたのですが、この際なので、取り上げることに致しました。
なお、少しでも戦車の導入に反対すると、戦車を無用無益なモノとする戦車無用論者というレッテルを貼られる傾向にあり、現に今回もそうだったのですが、私は自分自身がそうではないと思っています。(実際に400両維持には反対していない)
なので、現大綱の400両を超える戦車配備を主張し、前回記事に反論して頂いた方々を、勝手ながら戦車増強論者と呼ばせて頂き、今回の記事を書こうと思っています。

なお、今回の記事は、前回記事に異論を頂いた多数のコメント、及びツイッター上でJSF氏から頂いたメッセージに対する反論(いや反問か)として書かせて頂きます。

戦車増強論者の方は、日本が戦車を保有し、上陸してきた敵を排除する能力を持つことで、抑止力として機能すると主張されます。
これは、理論としては、筋が通っています。
ですが、私は日本が戦略として、これを行なうことは間違っていると考えます。

詳細に入る前に、以前にも書いた事のある小話を書いておきます。
3自衛隊間で相互に研修を行うことは良くあることですが、陸自の方を研修で受け入れた際、空自が彼らにどのようにエアカバーをかけられるか、という質問がされることが多くありました。
ただし、この質問は幹部ではなく、陸曹の方から貰うことが普通でした。幹部の方は、答えが分かっていたから質問はしなかったのでしょう。
この質問がされた時、私は決って次のように答えていました。
「(敵による着上陸を受け)陸自が戦闘を行う際、空自によるエアカバーは期待しないで下さい。なぜなら、(着上陸が行なわれ)陸自が戦闘になる時は、空自は壊滅した後だからです。」

さて本題に戻ります。
戦車増強論者の方は、次の命題に答えて頂きたいと思います。
命題①「日本は、国(政府)の意志として、敵が着上陸侵攻を行なう状況において、戦争の継続が可能である。」

着上陸は、空海自衛隊も全力で阻止します。
空においては、航空阻止(AI)という航空作戦の区分自体が、着上陸阻止と近い考え方でさえあります。
海自においても当然です。
つまり、着上陸侵攻を行なうのであれば、海空自衛隊(+陸自対艦ミサイル部隊)をほぼ壊滅に近い状態にまで追い詰めなければ、実施は不可能です。

そして、そのような状況になれば、着上陸の作戦前に、当然のこととして、戦略爆撃等が行なわれ、高速道路、主要橋梁、鉄道は破壊されるでしょう。
精密誘導兵器が発達した現代においては、上記のインフラ破壊は、やり方次第では一人の死者を出すこと無く実施することも可能かもしれません。
東日本大震災程度のインフラ被害でも、日本経済は非常なダメージを受けました。海空自衛隊が壊滅し、戦略攻撃を受ければ、あの程度の影響で収まるはずがありません。

それに歴史を見ても、太平洋戦争当時、十分な情報がない状態で、一億火の玉とさえ言っていたにも関わらず、日本は、沖縄の除き自国国土における戦闘を戦えませんでした。

私は、日本が本格的な着上陸侵攻を”政治決断として”戦えるとは到底思えません。
多数の空爆や弾道ミサイル攻撃を受ける状況において、陸戦まで戦えるほど日本国民に根性があるとは思っていないということです。
戦車増強論者の方には、日本国民が一億火の玉
で戦える国民だと考えているかもしれませんが、是非この命題に答えて頂きたいと思います。

また、政治ではなく、軍事的側面においても、答えて頂くべき命題が存在します。
命題②「多数の戦車配備による着上陸侵攻阻止は、海空作戦によって着上陸侵攻を阻止するよりも、合理的である」

25年度概算要求における10式戦車の調達費用は、1機のF-35を調達する費用にも匹敵します。
その後の維持費用が異なるため、16両の10式と1機のF-35がトレードオフできると単純に考えることはできませんが、400両を越える戦車を配備することが、相当の費用を要する選択であることは明白です。
自衛隊の教範類を持ち出すまでもなく、地勢の活用を図ることは、軍事上の常識です。

日本の防衛においては、海という天然の要害を最大限活用することは、軍事的合理性にかなった選択です。
それに反して、多数の戦車を配備することは、その分、海空防衛力を低下させることに他なりません。
400両の戦車が、いずれ全て10式に換装されると考えれば、その調達費用は3950億円にも上ります。(25年度概算要求価格から算出)
F-35であれば、1個飛行隊分の調達費用さえまかなえます。そうりゅう型潜水艦なら、7隻も買えます。

戦車増強論者の方には、海空に予算を注ぎ込むよりも、戦車の方が合理的である説明をして頂く必要があります。

さて、もし上記2つの命題に有意な回答が出てこないのであれば、防衛省が主張する(建前か本音か分かりませんが)ように、戦車の調達は、ゲリラや特殊部隊の捜索、重要施設防護用ということになります。

ここで出てくる論点は、これらの目的に対して、400両を越える戦車が必要か否か、あるいは、90式さえ早期に10式に換装して行く必要があるのかどうかです。

90式は341両を保有しています。この数を踏まえれば、当面の10式調達は59両でいい計算になります。
そして10式は、24年度までに、既に39両が調達されています。残り20両です。
25年度概算要求の16両が調達されれば、後はわずか4両の計算です。

残り20両の調達を、年3両、7年で調達するという私の主張に反論頂く以上は、戦車増強論者の方には、次の命題にも答えて頂きたいと考えます。
命題③ゲリラや特殊部隊の捜索、重要施設防護のために、400両の戦車+他の戦闘車両では能力として不足である。

ちなみに、重要施設の一つとして私が非常に重要と考える空自基地の警備に関して、陸自が訓練において戦車を持ってきた実例は、千歳基地等の北海道の基地(まわりに戦車がいくらでもある)を含めて、私は知りません。
防衛及び警備計画等の作戦計画については、内容には言及できませんが、戦車を使用した防護が盛り込まれているならば、訓練が行なうことが必要なはずです。
(もっとも、戦車はもっと重要な目標の防護のみに使用する計画であるため、防空を行なう空自の基地など重要度が低すぎて防護する必要性は乏しいと考えている可能性もありますが……)

また、ゲリラや特殊部隊の捜索において、私は96式装輪装甲車(これが良いと言うつもりはないが、25年度に陸幕が買うつもりなのは96式なので)では、能力的に不足であるとする主張が多い事を踏まえて、次の命題にも答えてもらう必要があると考えています。

命題④ゲリラや特殊部隊は、陸自掃討部隊を作戦目標として行動し、RPG等対戦車火器を使用し、戦車でないが故に破壊可能な戦車以外の戦闘車両(96式装輪装甲車等)を攻撃し、命中弾を与えることができる。

”私が考えるに”、ゲリラや特殊部隊は、政経中枢や発電所等の重要ライフライン等のインフラ施設、海空自衛隊施設(イージス艦、FPS-5、パトリオット部隊、航空基地施設等)を目標とする可能性が高い。
そして、これらを不意急襲的に襲撃する以外は、ゲリラや特殊部隊は、極力存在の秘匿に努め、目標ではない自衛隊警備部隊との交戦は、自衛のために致し方ない状況以外では、極力回避するはずです。
また、本来の目標を破壊するために必要で、イージス、FPS-5等を遠方から破壊可能であり、そのために多大な努力を図って携行しているはずのRPGや対戦車ミサイル等を、破壊が可能だからという理由で96式装輪装甲車などという重要性の乏しい目標に使用してしまい、消耗するだけでなく、それによって秘匿すべき自らの存在を暴露するような行動を、ゲリラや特殊部隊が行なうとは考えられません。
行なうとしたら、陸自警備部隊に捕捉され、任務を放棄して、死なばもろともで攻撃する場合だけだと考えます。

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