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【原発避難と独居死】「把握する仕組み自体がない」 カウントすらされない避難先での死 「寄り添う」言葉ばかりの福島県

原発事故後に福島県から全国に避難し、避難先で亡くなった県民について、福島県は氏名も人数も一切把握していないことが分かった。新潟日報が今年3月に報じた3人の「独居死」も全く情報をつかんでおらず、担当職員は「避難先での死を把握するシステムそのものがないため分からない」と認めている。日頃から「避難者一人一人に寄り添う」などと口にする一方で、国家公務員宿舎からの退去を求める訴訟を起こすなど避難指示区域外からの避難者切り捨てを加速させている内堀県政。県外避難した県民への冷たさが改めて浮き彫りになった格好だ。


【「取得・作成していない」】

 新潟日報は3月29日、1面トップで「県内避難者の独居死 新たに2人判明」、「中越で16、20年 計3人に」と報じた。
 新潟県震災復興支援課などに取材し、福島県中通りから新潟県中越地方に〝自主避難〟した60代男性が2016年5月に遺体で発見された、南相馬市から新潟市内に避難した40代の男性がやはり2016年に亡くなっていた。また、避難指示区域から中越地方に避難した50代男性が2020年2月に遺体で見つかったと伝えた。

 記事は、新潟県震災復興支援課が取材を受け改めて避難者個々の資料を確認するなどして結果、3人が亡くなった経緯を把握したとしている。そこで4月下旬、筆者は以下の5項目に関する公文書の開示を福島県に請求した

 ①記事で報じられている3人の「報告書」に類する文書
 ②3人から〝よろず相談拠点〟や福島県への相談内容が分かる文書

 ③避難先での〝孤独死〟の統計書類(年度別、県内外別)
 ④新潟に設置された〝よろず相談拠点〟にこれまでに寄せられた相談の件数や内容が分かる文書
 ⑤避難先での〝孤独死〟を防ぐために福島県が取り組んでいる施策

 福島県は大型連休をはさんだことや「公文書の特定に時間を要し、期限内に開示決定等をすることが困難」として延長を決定。しかし、最終的に①②③は「取得・作成していないため、保有していません」と不開示。④については「避難者個人が特定される恐れがある」などとして、避難者支援課が新潟を含めた全国レベルの報告書をほぼ黒塗りで開示。⑤は社会福祉課が「避難者見守り活動支援事業」の資料を1枚、開示しただけだった。だがこれは県内避難者や帰還者に対する支援事業。「県外避難者を独居死から守る事業はない」(社会福祉課)という。

県外への原発避難者が避難先で亡くなっても、福島県は把握しようともしていない。把握する仕組みがない。だから公文書も存在しない

【避難先での自死も記録なし】

 実は問題の本質は開示された文書にはない。
 ①から③に関係する福島県の公文書が「存在しない」というところに、内堀県政の県外避難者に対する姿勢が表れていると言える。新潟日報が報じた3人のように福島県民が避難先で不幸にして亡くなった場合、それを把握する仕組みが県としてあるのかどうか。その情報を年度ごとに整理し、死の背景にある問題を探り、新たな施策につなげていくという体制が整っているのかどうか。それを福島県避難者支援課に確認したが、答えは「NO」だった。

 「結論から言うと、避難先の都道府県や市町村から福島県に報告が来るという仕組み自体が県庁として無い。『原発避難者の死』という情報が蓄積されて整理されているということはない。避難の有無にかかわらず、住民票を避難元に置いていれば一般的に住民票のある自治体に親族や警察から死亡の届け出が出される枠組みはもちろんある。だが『原発避難』というカテゴリーでは、仕組みがない。もちろん県の駐在職員や全国の相談窓口が何らかの形で避難者が亡くなったことを把握した場合には県庁にも報告があるが、定型化されたシステムとしてはない。自死であろうと病死であろうと、今回の記事のような独居死であろうと、死因にかかわらず把握していない」

 だから当然、報じられた新潟の3人についても、福島県としては一切把握していない。2011年に原発避難が始まった段階で全国の自治体に情報提供を依頼していれば、そこから区域外避難者の生活実態を把握することもできた。これについては、避難者支援課の担当者も「仮にそういう仕組みをお願いして『そんなことできません』という自治体は無いとは思う」と認める。しかし、この10年間、そういう取り組みはなされなかった。避難先で県民が亡くなっても〝我関せず〟を貫いた。

 実は2017年には、福島県中通りから都内に母子避難(いわゆる〝自主避難〟)した女性が自ら命を絶っている。住宅無償提供の打ち切り策も影響していたとも言われているが、彼女の死も一切記録されていない。原発避難者がこれまでに何人亡くなり、そのうち自死がどのくらいの割合を占めるかも分析されない。担当者は「いろんな情報をキャッチできるように努めていくが、現状ではできていない」と語るのが精一杯だった。
新潟日報は今年3月、3人の原発避難者が独居死していたと報じたが、この3人についても福島県は「把握していない」

【避難者「言葉がない」】

 福島県の内堀雅雄知事は日頃、「避難者一人一人に寄り添う」と口にしている。しかし、実際には避難者切り捨てに力を注ぐばかりだ。

 特に中通りやいわき市など政府の避難指示が出されなかった区域から県外に〝自主避難者〟(区域外避難者)した人々へは、住宅無償提供が2017年3月末に打ち切られるなど福島県は冷遇を続けている。家賃補助も2年限りで終了。帰還困難区域から避難している人々への住宅提供も終了し、大熊町と双葉町の町民だけが来年3月末まで延長された。

 昨年3月には、都内の国家公務員宿舎に入居している区域外避難者4世帯を相手取り、住居の明渡しと家賃の支払いを求める訴訟を福島地裁に起こした。他の世帯には親族宅を訪問。訴訟もちらつかせながら「追い出しへの協力」まで求めた。

  早々と「自立」を求められた区域外避難者の中には生活困窮に陥る人もいる。避難当事者や支援者でつくる「避難の協同センター」や「ひだんれん」などは、避難者の生活実態調査を実施して施策に反映させるよう継続的に求めているが、復興庁も福島県も拒み続けている。コロナ禍も原発避難者の生活に重くのしかかっている。

 「寄り添う」どころか避難者の死すら把握しない福島県。「避難の協同センター」代表世話人で、自身も郡山市から神奈川県内に避難した松本徳子さんは「被災県・福島県のやり方は汚い。今もなお原発事故に関する緊急事態宣言が解除されていないにも関わらず、地元の冷たさには本当に寂しさを感じる」と語った。南相馬市小高区から神奈川県に避難している村田弘さんも「ちょっと言葉がない。そのくらいは当然、把握しているものと考えていたが…。こんな馬鹿な話はあり得ない。避難者は一切ないものとしているのだろう」と怒りを口にした。

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