記事

「差別が見えていなかった」ジョージ・フロイド氏の死で日本人に届いた黒人市民の声 事件から1年

1/2
Getty Images

米ミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイドさんが警察官による拘束が原因で死亡した事件から、5月25日でちょうど1年。この事件をきっかけに、アメリカはもとより世界中で人種差別と警察暴力に反対する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)=BLM」と呼ばれる抗議活動が広がった。

筆者が住むイギリスでも、新型コロナウイルス感染の影響でロックダウン体制が敷かれるなか、各地で多くの人がマスク姿で抗議デモに参加。黒人市民をはじめとした様々な人々が声をあげ、人々の生活や文化に大きな影響を与えた。

フロイドさんの死から1年でどんな変化があったのかを伝えたい。

差別が「見えていなかった」筆者に届いた黒人市民の声

事件以前に、もし筆者が「イギリスに人種差別はあるの?」と聞かれたら、「差別意識を持つ人はどこの社会にでもいるものだが、有色人種だからと言って特別視されることは現代のイギリスにおける日常生活ではほとんどない」と答えただろう。

というのも、長年ロンドン近辺に住んでいると、インド系、パキスタン系、アフリカ系有色人種の市民を至る所で見かける。イギリスで生まれた人もいて、十分に融合が進んでいるように思えたからだ。

しかし、それは、単に「見えていなかった」だけだったとフロイドさんの死亡事件を機に気づかされた。

これは筆者だけの感触ではない。フロイドさんの事件やBLM運動に関するイギリスメディアの記事やポッドキャストを見聞きすると、情報発信者が白人市民の場合、「人種差別があるということを意識していなかった」と語る人が少なくなかった。

事件直後には、ナイジェリア人の母親を持つレニ・エッドロッジさんが、白人市民が持つ黒人への無意識の差別感情について綴ったノンフィクション『なぜ私は人種について白人と話すのを止めたか(Why I'm No Longer Talking to White People About Race)』がベストセラーになった。差別を受けてきた側の気持ちを知ろうという変化が起きはじめていた。

「あそこに自分がいる」 フロイドさんの死亡事件をめぐり友人が流した涙

Getty Images

フロイドさん事件の数日後、筆者の友人で音楽教師のアミーナさんが、フェイスブック・ストリーミングで動画を流していた。タイトルは「私は疲れている」もしくは「飽き飽きした」とも取れる「I'm tired」。

ロンドン生まれでフィリピン人の母親とケニア人の父親を持ち、いつも笑顔を絶やさない彼女が投稿したこの動画は、BLM運動のなかで筆者に最も衝撃を与えた告白となった。

クリックしてみると、音が出ない。

ワンピース姿のアミーナさんはカメラに目をやり、じっとこちらを見ているだけだ。胸のあたりが上下するので、呼吸をしていることは分かる。「疲れている」というメッセージを伝えるための一種のアートなのだろうか?

10分ほどの沈黙の後、「ジョージ・フロイドさんについて話したいんだけどね」と彼女は口を開いたが、少し間が開いて、「あの…」と言ったきり、次の言葉が出ない。泣き顔になって、一旦、ストリーミングは停止された。

しばらくして、再開されたストリーミングで彼女は泣きはらした顔で語った。

「どうして気にかけているのかって? それはね、フロイドさんの首に白人警官の膝がずっと置かれていた時、もう見ているのが苦しくて苦しくて。どう表現したらいいか分からないけど、あれは自分だ、って思えたの。あそこに自分がいる、ってね」。

白人市民や私のようなアジア系住民がフロイドさんの動画を見る時、痛みや息苦しさを感じるものの、「あそこに自分がいる」とは必ずしも思わない。しかし、アミーナさんは自分ごととして痛みを体験していたのだ。

奴隷商人の銅像がデモで破壊 「歴史を消す行為」との声も

アミーナさんのように、フロイドさん死亡事件をきっかけに、差別的言動にさらされ続けてきた日常を黒人市民たちが表明するようになった。

例えば、英ファッション雑誌「ヴォーグ」の黒人編集長は編集室がある建物に入ろうとしたところ、配送スタッフに間違われたという。法廷弁護士として働く黒人男性や女性は「被告の一人と思われる」のが日常茶飯事だという声もあがった。

黒人市民の現在の生きづらさを知り、改善しようというイギリスのBLM運動は、黒人市民のルーツをたどり、奴隷貿易や植民地支配を行った歴史への批判につながっていった。

象徴的なのは昨年6月7日、BLMデモが発生していたイギリス南西部の港町ブリストルで、起きた事件だ。17世紀の奴隷商人エドワード・コルストン(1636-1721年)の銅像がデモ参加者によって倒され、ブリストル湾に投げ込まれたのである。その様子はソーシャルメディアで共有された。

ブリストル湾から引き上げられるエドワード・コルストンの銅像=Getty Images

コルストンは1680年、アフリカ西部の奴隷貿易市場を独占していた王立アフリカ会社(RAC)に入り、巨万の富を築いた人物だ。後に、慈善家として学校や病院を支援したコルストンの名前は、奴隷貿易の拠点の1つだったブリストルの通りや建物、記念碑に多く残っている。

銅像や記念碑をなくす動きを「歴史を消す行為」と考える人もいる。しかし、ロンドンを含む複数の自治体では、奴隷貿易や植民地支配に関連した銅像・記念碑、通りの名称などを見直す作業が始まっている。

 

黒人を描くドラマやドキュメンタリーが次々と制作

文化の面でも変化は起きた。

フロイドさん事件以降、イギリスのテレビは黒人市民の現状や奴隷貿易の過去を伝える番組を制作・放送し続けている。

BBCは昨年、黒人監督スティーヴ・マックイーンが英国に住む黒人市民を描いた長編ドラマ「スモール・アクス(「小さな斧)」を公開した。マックイーン監督は奴隷として売られた黒人男性の実話を映像化した『それでも夜は明ける』(2013年)で第86回アカデミー賞3部門に輝いたことなどで知られる。

マックイーン(左下)が監督したドラマ「スモール・アクス」で紹介された事例が現実にあったことを語るドキュメンタリー番組の紹介(「ラジオ・タイムズ」5月15-21日号、筆者撮影)

また、かつての奴隷貿易の歴史をたどる番組や、「自分は何人なのか」とアイデンティティに悩む若者たちの告白、現在も続く差別の現状を語るドキュメンタリー番組など、この1年で様々な番組が制作・放送された。

キャスティング面では、ドラマでの黒人俳優の出演が目立つようになってきた。

視聴者の意識の変化に伴い、「黒人」や「女性」など、「白人男性」以外の人々をしっかりと描かなければ「現代を反映している作品」だと認められなくなったのだ。

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「大規模会場予約 67% 空き」はお役所仕事の想像力欠如 ~ なぜ「高齢者」に拘り続けるのか

    近藤駿介

    06月14日 14:19

  2. 2

    私がDHC吉田会長の在日コリアンに関する妄想は相手にしなくていいと思う理由

    宇佐美典也

    06月14日 12:00

  3. 3

    田中みな実、長澤まさみ問題で考える マネージャーの劣化か時代の変化か

    NEWSポストセブン

    06月15日 08:58

  4. 4

    オリジナルを常に超越してくる 愛すべきガーナの手描き映画ポスターの世界

    木下拓海

    06月14日 11:34

  5. 5

    五輪強行開催 コーツが来たりて大量虐殺の笛を吹く

    田中龍作

    06月15日 08:39

  6. 6

    2021年のガンダムの見せ方、それとテロリズム──『閃光のハサウェイ』

    シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

    06月15日 08:36

  7. 7

    「ディズニーランドのついでに予約」女性向け風俗の利用者が爆増しているワケ

    PRESIDENT Online

    06月14日 15:30

  8. 8

    ワクチン接種は医療者として当然必要な条件 個人の自由を制限するのはダメなのか

    中村ゆきつぐ

    06月15日 08:23

  9. 9

    選手間の感染だけでなく熱中症の死亡リスクも 東京五輪は綱渡り状態

    諌山裕

    06月15日 11:52

  10. 10

    歳を取ると「厄介な人」になりがちな理由

    内藤忍

    06月14日 10:57

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。