記事

弱すぎる北京五輪「外交的ボイコット」

島田洋一(福井県立大学教授)

【まとめ】

・ペロシ氏主張の北京五輪「外交的ボイコット」は中共の痛手にならず。

・中共の「弾圧・抑圧・侵略」みれば、理想は「完全ボイコット」か「G7による代替開催」。

・「ボイコットせず黙って参加」は中共に好都合な敗北主義。日本の対応は?

5月18日、米連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長(民主党)が、下院人権委員会の場で、2022年の北京冬季五輪について、中国政府による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧に抗議して、各国が選手団は参加させつつ、開会式などへの首脳(heads of state)の出席を見送る「外交的ボイコット」を行うべきだと提唱した。

▲写真 北京冬季五輪での「外交的ボイコット」を提唱したナンシー・ペロシ米下院議長(2021年5月18日 議会議事堂) 出典:Nancy Perosi twitter

これに対し、中国「戦狼外交」の顔である外務省の趙立堅報道官が翌19日、「強烈な不満と断固とした反対を表明する」と反発し、「嘘やフェイク情報がはびこっている」「人権問題を利用して中国を中傷し、北京冬季五輪の妨害や破壊を企てている」「五輪を卑劣で政治的な悪だくみに使うのをやめるべきだ」「スポーツの政治化は五輪憲章の精神に背いている。各国選手の利益や国際的な五輪事業を損なう」などと述べ、ボイコット提案は各国の賛同を得られず「思い通りにならない」と牽制した。

趙氏の一見激越な言葉にも拘らず、中国共産党政権(以下中共)としては、事がペロシ提案の線程度で収まるなら大した政治的ダメージにはならないと内心考えているだろう。というのは、大過なく行われ、盛り上がったソチ五輪の際と同程度の「ボイコット」に過ぎないからである。

ロシアのソチで開催された第22回冬季オリンピックは2014年2月7日に幕を開け(23日までの約2週間)、開会式ではウラジーミル・プーチン大統領が開会宣言を行った。

しかしその場に、アメリカのオバマ大統領、バイデン副大統領、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、キャメロン英首相ら欧米主要国の首脳級の姿はなかった。

この「外交ボイコット」は、2013年にロシアが、未成年者への「非伝統的な性的関係」に関する情報提供を禁じる同性愛プロパガンダ禁止法を制定したことへの抗議として行われた。

ロシアによるウクライナ領クリミア半島の併合はソチ五輪後の2014年3月18日で、「外交ボイコット」の理由にはなっていない。

▲写真 ソチ冬季五輪のフリースタイルスキー男子ハーフパイプに出場するアメリカ人選手。開会式をボイコットした国の選手たちも競技には参加した。(2014年2月 ロシア・ソチ) 出典:sampics/Corbis via Getty Images

問題は2022年の北京冬季五輪に関して、中国政府による、ジェノサイドとまで表現される組織的なウイグル人弾圧、長年にわたるチベット弾圧、モンゴル系住民への抑圧強化、香港の自由剥奪ひいては中国全土における監視統制強化、外国人の不当拘束、南シナ海や東シナ海での侵略行動等々にも関わらず、ペロシ氏が主張する程度の措置でお茶を濁してよいのかだ。

ロシアの同性愛宣伝禁止とは明らかにレベルが違うだろう。

現に米共和党からは、ペロシ提案では生ぬるいとの声が即座に上がっている。下院人権委員会共同委員長のクリス・スミス議員(共和党。2006年4月に横田早紀江さんが下院外交委員会の公聴会で証言した際の共同議長でもあった)は、北京五輪反対は議会の総意との認識を示したうえで、スポンサーとして利益を得ようとしている「大企業」(big business)の責任を明らかにするため経営者を証人として議会に呼ぶと宣言した。

ペロシ氏の身内の民主党からも、中国の人権問題追及を主導するジム・マクガバン下院議員(議会行政府中国委員会委員長、下院人権委員会委員長)が、ペロシ氏が上記の発言をしたその場で、「虐待行為を行っていない国に会場変更する時間を国際オリンピック委員会 (IOC)に与えるため開催を1年延期すべきだ」と異論を述べている。

▲写真 ジム・マクガバン下院議員(民主党) 出典:Samuel Corum/Getty Images

北京五輪については、理想は完全ボイコットおよび先進7か国(G7)による代替大会開催だろう。アスリートは何ら傷つかない。日米欧カナダからなるG7諸国には、国際大会に耐えるハイレベルなスキー場やスケートリンクがいくつもある。代替大会の準備にさほど時間を要しないだろう。

中共は、ボイコットした国には激烈な報復を加えると脅しているが、G7すべてに制裁を掛ければ自らの首を絞めるだけに終わる。

もっとも、無条件参加と完全ボイコットの間には様々な中間段階がある。最もゆるい政府関係者の開会式不参加(すなわちペロシ提案)から、行進の際国旗を掲げない、選手団も含めて開会式ボイコットの順にきつくなり、最後に完全ボイコットが来る。

与党民主党の最高幹部ペロシ氏の発言により、アメリカは、最もゆるい「北京五輪に米当局者の派遣禁止」までは行くことがほぼ確定したと言える。

今後、中共を非難する声が高まるにつれて、バイデン政権始め各国政府は対応の度を上げざるを得なくなろう。

「ボイコットは無理。黙って参加するしかない」は中共にとって最も好都合な敗北主義である。日本の対応も鋭く問われてくる。

あわせて読みたい

「北京五輪」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    河野大臣がワクチンめぐるデマ流布に言及 不妊については「科学的根拠がない」

    河野太郎

    06月24日 11:12

  2. 2

    ウガンダ選手団2人目の陽性者の持つ意味

    大串博志

    06月24日 08:11

  3. 3

    平井大臣の発言を文春が捏造か 内閣官房が公開した音声には企業名なし

    和田政宗

    06月23日 12:48

  4. 4

    安倍政権下でおかしくなった霞が関 自民党の良心は失われてしまったのか

    早川忠孝

    06月24日 08:39

  5. 5

    菅内閣が「無観客五輪開催」を絶対に避けたい理由

    田原総一朗

    06月23日 16:02

  6. 6

    昭和の頑固オヤジ!JASRACと闘い続けた小林亜星さん

    渡邉裕二

    06月23日 08:04

  7. 7

    関係者・スポンサーに忖度ばかりの五輪・パラリンピックは「古き自民党政治」の象徴か

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    06月24日 09:26

  8. 8

    軽自動車はEV化で高価格に 「交通弱者」が増加するいま改めて考えたい軽自動車の役割

    森口将之

    06月23日 10:51

  9. 9

    菅内閣支持率最低に 短命政権の可能性強まる

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

    06月23日 17:13

  10. 10

    ワクチン不足で職域接種の新規受付を一時停止へ「可能配送量の上限に」 河野大臣

    ABEMA TIMES

    06月23日 21:39

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。