記事

「フロー型からストック型に」コロナ禍でも元気な飲食店に共通すること

2/2

勝つためにチームワーク
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

愛知県蒲郡市にあるハンバーグレストラン「炭棟梁」には「炭棟梁大使」という、いわばファンクラブのような制度があるのだが、2020年には会員がついに1万人を突破した。

1万人超のファンダムを持つ「炭棟梁」では最近、真空パックのハンバーグを開発した。自宅でも炭棟梁の味を味わってほしいと思ってのことだが、自宅で手軽に調理してもらうことを考えると、どうしてもお店の味と同じものを再現することは難しかった。

そこにファン顧客の一人が、「自分がもっといい調理法を考える」と言い出した。その人は15個の真空パックハンバーグを自腹で購入し研究。その結果、店主すら驚くような家庭でできる調理法を編み出したという。今ではその調理法が公式とされ、調理工程も動画で配信、その人のアドバイスにより商品自体も微調整を行ったという。まさに一緒に創り上げていく「同志」なのだ。

「共創」という言葉がある。文字通り共に創っていくことだが、これからの時代、店と客、企業と客の関係はそういうものになっていく。

今の顧客が求めているのは「心の豊かさ」だ

フロー型ではなくストック型に自社のビジネスをシフトしていくにあたって、必然的にすべきことがある。それは、「自分たちの提供すべき価値は何か」を明確にすることだ。

ここで勘違いしてほしくないのは、「自分たちの提供する価値とは何かを明確化すること」とは単に、「どんなモノを作るか」「どんなモノを売るか」ではない、ということだ。

今の顧客が求めているのはモノではなく「その先にある価値」であり、その本質は「心の豊かさ」だ。提供しているのはモノだとしても、その価値はそのモノを使うことによって得られる幸福感だったり、そのサービスを利用することによって生まれた時間だったりする。

また、店と顧客、関係者と顧客、顧客と顧客、関係者と関係者、それらをつなげるものは「感性」だ。

炭棟梁の「会員だけの営業日」が教えてくれること

「炭棟梁」は昨年、店主・森下氏が「目標」としていた、会員数1万人を超えた。そこに到達したら、彼にはやってみたいことがあった。それは、会員だけを集めた、会員だけの営業日だ。その日は会員しか入店できない。

小阪裕司『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)
小阪裕司『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)

この日はチケット購入制。朝8時から発売すると、6時台から並び、チケットを死守する強者も。そうして9時前にはチケットは「SOLD OUT」。森下氏はこれがやりたくて、わざわざ本格的なコンサートチケットのような入場券を作ったとのこと。

営業が始まると、今度はこの日だけの特別な出し物が続く。ハンバーグの前説や後説、いつもは真面目なスタッフのおちゃらけたパフォーマンス、顧客内ではよく知られた著名顧客の登場、食材の生産者さんのインタビュー、新メニューのオークション、等々……。

この熱いファンたちには、会員であることの金銭的特典は一切ない。彼らは囲い込まれているわけではないのだ。彼らはここにいたいから、いる。彼らは感性でつながっている。

強力なチームを構築
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

そうして育まれるファンダムに、この店ならではの提供価値をまた新しい形──新メニューや、顧客が思ってもみないような新サービスなど──にして投げ込んでみるとどうなるだろうか。たちまち「売れる」ことにならないだろうか。

「市場」とは、まるで元からあったもののようによく語られるが、その本質は、こういうものだ。誰かが「価値」を具現化し、世に送り出す。受け手の感性と響きあって「買う」という行動が生まれる。そこに生み出されたものが「市場」だ。そしてこれから「市場」はいっそう、感性のつながりの中、生み出されていくのである。

コメントby SERENDIP

『ファンダム・レボリューション』(早川書房)という書籍には、ウィスキーメーカーのメイカーズマークが、同社のファンダムである「アンバサダー」に、同社のウィスキーの配合変更を伝えたところ、ネット上で“炎上”騒ぎになった例が紹介されている。

ファンダムには諸刃の剣の面があり、コミュニケーションの齟齬や、ファンの「感性」に合わないことを企業側がすることで、激しい反発を受けることがある。それを避けるには、企業側がファンの感性を深く理解しようと努め、コミュニケーションを密にしてファンとの仲間意識を育む必要がある。

先のメイカーズマークの一件では、配合変更を一方的に伝えるのではなく、ファンダムと親密な事前相談の機会を設けるべきだったのかもしれない。ファンダムとの関係性づくりに、通常のマーケティングよりも幅広く諸学問の知見を学際的に取り入れた戦略が必要になるのは間違いないだろう。

----------

書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」 ビジネスから教養まで、厳選した書籍のハイライトを10分程度で読めるダイジェストにして配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」。国内の書籍だけではなく、まだ日本で翻訳出版されていない、海外で話題の書籍も毎週日本語のダイジェストにして配信。(毎週、国内書籍3本、海外書籍1本)上場企業のエグゼクティブなどビジネスリーダーが視野を広げるツールとして利用しています。

----------

(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)

あわせて読みたい

「飲食業界」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「スゴイ日本!」ばかりのテレビ五輪放送。在留外国人は東京五輪を楽しめるか

    Dr-Seton

    08月05日 08:29

  2. 2

    淀川長治さんが『キネマの神様』を絶賛?CMに「冒涜」と映画ファン激怒

    女性自身

    08月05日 09:07

  3. 3

    環境省がエアコンのサブスクを検討 背景に熱中症死亡者の8割超える高齢者

    BLOGOS しらべる部

    08月04日 18:05

  4. 4

    中等症めぐり政府の揚げ足を取る毎日新聞 いい加減な記事を出すのは許されるのか

    中村ゆきつぐ

    08月04日 08:26

  5. 5

    東京都、新規感染者数5042人に疑問

    諌山裕

    08月05日 17:42

  6. 6

    中等症入院不可…専門家の意見を聞いていなかったとは

    大串博志

    08月05日 08:22

  7. 7

    ワクチン完全接種5割の8月末まで好転無しか

    団藤保晴

    08月05日 09:02

  8. 8

    テレビ放映権中心に回り夏開催される五輪 舛添氏が改革案を公開

    舛添要一

    08月05日 08:33

  9. 9

    強行放送!緊急事態宣言下の24時間テレビは「ジャニーズ祭り」

    渡邉裕二

    08月04日 08:04

  10. 10

    ベラルーシ選手はなぜ政治亡命したのか ルカシェンコ政権の迫害ぶりを示した東京大会

    WEDGE Infinity

    08月05日 09:18

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。