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《ウマ娘が10倍楽しくなる?》トウカイテイオーは、いつだって涼しい顔で立っていた…『ウマ娘』ファンにも読んでほしい“リアル競走馬エピソード” - 江面 弘也

 Cygames開発の育成シミュレーションアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』の勢いが止まりません。4月のモバイルゲーム売上ランキングでは、ほぼ市場が日本国内だけにもかかわらず、世界全体で3位にランクインする快挙を果たしました。

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 人気の最大の理由が多彩な『ウマ娘』のキャラクターにあることは言うまでもないのですが、それに加えて、元々ドラマチックな競馬のエピソードを上手にストーリーに落とし込み、それぞれがしっかりとリアル競走馬のエピソードに沿っているという「つくりの緻密さ」が競馬ファンの心をガッチリとつかんでいます。

 だからこそ、実際の競走馬たちのリアルエピソードを知ることで、『ウマ娘』から競馬に興味を持ったファンの皆さんも、より競馬を楽しめるようになるはず――! まずは“親子二代・無敗の三冠”という重圧と戦い続けたトウカイテイオーのエピソードをご紹介します。

◆◆◆

90年代初頭、空前の競馬ブームを牽引したトウカイテイオー

 コロナのなかでも競馬は止まることなくつづいている。

「インターネット投票」が普及し、JRAの売上げは堅調だ。地方競馬にはかつてない売上げを記録している競馬場もあり、「競馬ブーム」の到来と言う人もでてきた。いまだに「馬券」を買っているアナログな人間には実感はないのだが、あたらしい競馬世界が広がっているのは間違いない。

 中央競馬でもこれまで何度か競馬ブームがあった。さきがけは高度経済成長期の1960年にコダマによっておきたブームだろうか。73、74年は史上最高のアイドルホース、ハイセイコーのブームがあり、バブル期にはオグリキャップがいた。そして90年の有馬記念を最後にオグリが引退すると、90年代初頭には空前の競馬ブームが巻き起こった。


トウカイテイオー ©文藝春秋

 このとき、ブームを牽引した1頭がトウカイテイオーである。オグリキャップによって火照った競馬場をクールダウンさせてくれるような、颯爽とした走りが印象的な天才肌のランナーだった。次々に現れるライバルとの名勝負で語られるオグリキャップ物語とは対照的に、トウカイテイオーにはライバルらしいライバルもなく、熱く語られるマッチレースもない。勝っても負けても、トウカイテイオーの一人舞台だった。

歴史的なスーパーホースになったトウカイテイオー

 トウカイテイオーは88年4月20日に北海道新冠町の長浜牧場でうまれた。父は三冠馬シンボリルドルフ。母のトウカイナチュラルは脚に難があってデビューできなかった。馬主は「トウカイ」の冠名で馬を走らせている内村正則(東海パッキング工業株式会社)。当初、内村はオークスに勝ったトウカイローマンにシンボリルドルフを配合するつもりだったが、ローマンが現役を続行することになり、代わりに妹のナチュラルにシンボリルドルフを種付けしたのだ。名馬はよく、ちょっとした偶然から誕生するものだ。

 トウカイテイオーは全体に細身で、見栄えのするタイプではなかったが、薄い皮膚につつまれた筋肉は柔らかく、なによりもバネがあった。パドックでは後肢を鳥のように跳ね上げる、「鶏跛(けいは)」と呼ばれる歩き方が特徴的だった。

 調教師は松元省一。母のナチュラルが籍をおいた縁で息子を預かることになったのだが、トウカイテイオーがはじめてのGⅠ馬である。騎手は安田隆行(現調教師)になった。それまでGⅠに縁のなかったベテラン騎手は2年前から調教師試験を受けていたのだが、試験に落ちたことで騎手人生で最高の名馬に出会うことになる。

 2歳の12月にデビュー戦を勝ったトウカイテイオーは、オグリキャップがラストランを飾った日に京都競馬場で2勝めをあげ、3歳になって2連勝する。父のシンボリルドルフを彷彿させる優等生然としたレースぶりで、クラシックの大本命となった。

 三冠初戦、皐月賞は直線で早めに先頭に立ってそのまま押しきった。後方から追い込んだシャコーグレイドが勢いよく迫ってきたが、ゴールでは安田が手綱を抑えるだけの余裕があった。

 単勝1・6倍と断然の人気を集めたダービーではさらなる強さを見せた。先行集団を見ながらレースを進め、直線で外をとおってスパートすると、2着のレオダーバン(菊花賞馬)に3馬身差をつけている。シンボリルドルフでさえダービーでは一瞬苦しいかと思わせるシーンがあったが、息子は危なげなく、いとも簡単に二冠を達成してしまう。皐月賞、ダービーを無敗で勝ち抜くのはトキノミノル、コダマ、シンボリルドルフにつづいて4頭め。この時点で歴史的なスーパーホースに並んだ。

「地の果てまで走って行きそう」“史上最強馬”と評されるルドルフと比肩される存在に

 ゴールした直後、ファンもマスコミも競馬関係者も、だれもがおなじ夢をいだいた。

 父子二代、無敗の三冠馬――。

 ところが、表彰式が終わったあとトウカイテイオーの左後肢に異常がみられ、三日後の診察で左第三足根骨の骨折が判明する。全治6カ月の重傷だった。その瞬間、菊花賞の出走は不可能になり、究極の夢が消えた。

 92年春、トウカイテイオーは大阪杯で復帰する。騎手はシンボリルドルフの主戦でもあった岡部幸雄に替わった。安田が調教師試験を受けていたことや、海外遠征も視野に入れての乗り替わりだった。調教ではじめてトウカイテイオーに乗った岡部が、あの名言を口にした。

 地の果てまで走って行きそう――。

 マスコミ受けするコメントなど滅多に口にしない名手が絶賛した馬は、10カ月ぶりの大阪杯も岡部の手綱がほとんど動かないまま楽勝した。これで7連勝。史上最強馬と評される父親と比肩される存在になっていた。

相次ぐ故障で試練の時を迎える

 だが、このあと思いも寄らない試練が待ち受ける。1歳上のメジロマックイーンとの対戦が話題となった天皇賞・春では、最後の4コーナーで先頭のメジロマックイーンを追いかけるように上がってきたトウカイテイオーは直線で急速に失速してしまう。5着。ゴールインしたときには優勝したメジロマックイーンから10馬身近く遅れていた。

 はじめての敗戦。それも完敗だった。

 悪いことは重なるものだ。雪辱を期すはずだった宝塚記念の前に左前肢を骨折する。さいわい剥離骨折で快復も早かったが、復帰戦となった秋の天皇賞も7着に負けた。屈辱的な連敗である。

 つづくジャパンカップは5番人気まで人気を落としている。この年はヨーロッパの年度代表馬となる牝馬ユーザーフレンドリーをはじめ、欧米オセアニアのGⅠ馬が6頭も出走していた(唯一GⅠ勝ちのない馬も凱旋門賞3着)。骨折休養中のメジロマックイーンの姿もなく、日本馬に勝ち目はないという前評判のなかで、トウカイテイオーが日本のエースらしい走りを見せてくれた。4、5番手を進んで直線で先頭に立つと、内で粘るニュージーランドのナチュラリズムを競り負かす。着差は首差でも内容は完勝だった。日本馬として3頭めのジャパンカップ制覇、父シンボリルドルフ以来7年ぶりの優勝である。

 しかし、完全復活を印象づけたのも束の間、1カ月後の有馬記念では11着に負けてしまう。15番人気のメジロパーマーが逃げきる大波乱のなか、騎乗停止中の岡部に替わって田原成貴が乗ったトウカイテイオーはスタートで後手を踏み、後方のままレースを終えた。のちに腰を痛めていたという報道もあったが、それにしても、不可解な敗戦だった。

3度の骨折も、涼しい顔で乗り越えて

 93年。宝塚記念を目標に調整されていたトウカイテイオーは調教中に左前肢を骨折する。症状は軽かったが、骨折はこれで3度めである。さすがのテイオーでも復帰は厳しいのではないか。このまま引退だろうか……。

 それでもトウカイテイオーは有馬記念に出走してくる。1年もレースから遠ざかっていた馬がGⅠに勝つのは常識的にはあり得ないと思いながら、復帰を待ち、復活を信じるファンは4番人気に支持した。

 はたしてトウカイテイオーは、人々の期待に応え、競馬の常識を簡単に覆した。レース序盤は中団の内を進み、2周めの4コーナーで先行集団にとりつくと、直線で先頭に立った1番人気のビワハヤヒデを測ったように半馬身捉える、完璧なレースだった。

 信じられないレースを目撃したベテランファンはただ唖然とし、ブームのなかで急増した若いファンは「テイオー!」「テイオー!」と叫んでいる。騎手の田原成貴が涙し、マスコミが「奇跡の復活」と書いたあのレースで、トウカイテイオーだけが、いつものように涼しい顔で立っていた。

 トレードマークの前髪がなびく、その姿が格好良すぎた。(文中敬称略)

(江面 弘也)

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