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  • ロイター
  • 2021年05月23日 08:05 (配信日時 05月23日 08:04)

アングル:脱炭素目指す中国、鍵は「世界最大規模」電力網の刷新


[北京/ロンドン 19日 ロイター] - 中国は2020年代中に二酸化炭素排出量の増加に歯止めをかけ、再生可能エネルギーに軸足を移すことを公約している。当局者やアナリストらによれば、その公約の達成に向けて最大の急務の1つとなっているのが、世界最大規模となっている同国電力網の刷新だ。

2020年に中国政府は、2030年までに炭素排出量を減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロ(カーボン・ニュートラル)とすることを突然発表した。研究者らによると、これが実現すれば、今日までの気候変動に関する取り組みの中でも、予想される地球温暖化を防ぐ上で最も大きな効果を生む可能性があるという。

だがアナリストらは、太陽光発電所や風力発電所の新設といった簡単な話では済まないと考えている。こうした「グリーンエネルギー」を遠隔地の消費者へ送電するシステムを刷新するには、新規の発電所建設に比べて5倍のコストが必要になる可能性がある。テクノロジーの急速な進歩も必要だ。

「目標達成に向けた課題が話題になると、ほとんどの人が電力網に注目する」。こう語るのは、ロンドン大学経済政治学部(LSE)で中国の気候変動・エネルギー政策を専門に研究するチュンピン・シー氏。「それが、この長旅の最初の1歩になる」

世界最大の公益事業者であり、中国国内の電力網の75%を運営する国家電網。同社のマオ・ウェイミン前会長は昨年10月に行った講演の中で、国内電力網への投資とその他関連コストは、今後5年間で6兆元(8960億ドル)を超えるとの試算を示した。

中国は発電量、電力消費量、二酸化炭素排出量とも世界最大だが、総発電容量に占める再生可能エネルギーの比率を、現在の42%から2025年までに50%以上に高める方針を発表している。

この方針の軸になるのが、現在世界最大の消費者となっている石炭から、太陽光・風力エネルギーに移行することだ。中国政府は、太陽光・風力発電の容量を、現在の535ギガワット(GW)から2030年までに1200GWへと2倍以上に拡大する計画を立てている。

中国で石炭火力発電は、継続的な稼働が可能で発電単価が安い「ベースロード電源」となっている。これを、気象条件によって変動する可能性のある再生可能エネルギーへとこれほど急激に移行すれば、中国の電力網に混乱が生じる可能性があると当局者は語る。

国家電網で配電部門を担当するシニアマネジャーは、 ロイターの取材に対し、安定した運用を維持するという観点では、電力網に接続できる再生可能エネルギー発電所の数は、すでに「上限に達して」いると語った。この担当者は、メディアの取材に応じる立場ではないとして匿名を希望している。

だが、導入済み総発電容量が2201GWと世界最大の電力システムを運用する中国は、なおも再生可能エネルギーを推進する(米国は1107GW)。

2030年までには、送配電事業者に対し、扱う電力のうち最低40%を化石燃料以外のエネルギー源による電力で賄うよう義務付ける予定だ。現在、その比率は28%前後だ。

<主要なコストは>

コンサルティング会社ウッド・マッケンジーで調査責任者を務めるアレックス・ウィットワース氏は、電力網への投資ペースは20年代末まで維持される可能性が非常に高く、同時期の再生可能エネルギー発電所の新設費用の5倍に達するだろうと語る。

アナリストや当局者によれば、主なコストは送電線の新設費用、数百カ所の石炭火力発電所をバックアップ電源として再編する費用、蓄電容量の増強費用などになるという。

国家電網では太陽光、風力、水力による発電所が主に立地する国内最西部の地域と大都市圏との接続を改善するため、今後5年間で超高電圧の送電線を少なくとも7系統新設すると話している。すでに導入されているのは29系統だ。

この構築コストは、340億ドルと推定されている。

かつて国家電網の社長を務め、現在は国内第2位の発電事業者フアネン・グループ(華能集団)社長であるシュー・インビャオ氏は「中国が石炭火力発電所を維持するという合意には達しているが、あくまでも緊急時のバックアップ用だ」と語る。

だが、再生可能エネルギーによる発電量の変動の埋め合わせができるよう石炭火力発電所を改良するには費用がかさみ、遅々として進んでいない。300メガワット級の石炭火力発電所の改良には、通常1億5000万元(2327万ドル)のコストがかかる。

国家電網と中国電力委員会のデータによれば、中国国内の石炭火力発電所のうち、改良が済んだものは約10%にすぎない。

「中国は、再生可能エネルギーが好調なタイミングで石炭火力が不利になるようなメカニズムを確立する必要がある」と語るのは、ドラワールド・エナジー・リサーチ・センターのツァン・シューウェイ所長だ。「さもなければ、中国がグリーン・アジェンダ(地球環境保護の取組み)を前進させることはできない」

<技術上の問題>

もう1つの障害が、蓄電テクノロジーの問題だ。

IHSマークイットでシニアリサーチアナリストを務めるビン・ハン氏は、中国は新たな太陽光・風力発電ニーズを支えるために、約120GWの予備電力を確保する必要があると推測している。中国エネルギー備蓄協会によれば2019年時は32.3GWであり、この4倍以上に相当する。

ウッド・マッケンジーのウィットワース氏は、バッテリーによる蓄電容量に関して、中国が2030年までに47GW時相当を導入すると推測している。これは現時点での全世界の蓄電容量の4倍以上だ。

だが、問題はコストだけではない。中国当局者は技術開発の遅れも懸念しているという。

中国生態環境省気候変動対策部のリ・ガオ部長は、4月の記者会見で「蓄電技術においては、革新的な進歩が実現していない」と語った。

英オックスフォード大学エネルギー研究所で中国エネルギー研究プログラムの責任者を務めるマイケル・メイダン氏は、中国と西側諸国のあいだの「地政学的な緊張」と「テクノロジー分野での競合」も、中国政府による予備電力確保を改善するために必要な協力を妨げている可能性があるという。

「中国にはイノベーションは無理だということではなく、国産のイノベーションを実現するには時間がかかる可能性があるという意味だ」とメイダン氏は言う。

他のアナリストは、再生可能エネルギーによる発電計画に対する中国の本気度に疑問を投げかける。石炭からの撤退に関して透明性が欠けており、新たな石炭火力発電所の拡大も続いているからだ。中国では2020年に新たな石炭火力発電所38.4GW相当が稼働開始しており、これは他国で建設されたものの3倍以上に当たる。

とはいえ、地球の未来に不可欠なプロジェクトの重要な最初の1歩が電力システムへの取り組みであることには誰もが同意する。

「中国が参加しなければ、世界は気候変動に関する目標を達成することなどできない」とLSEのシー氏は言う。「世界における中国の役割は今や非常に大きく、直近の未来における中国の行動は、世界が今後どのような道を歩むかを左右する」

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