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新法曹養成制度の「恩恵」と「障壁」

 以前から、司法改革によってもたらされた、新法曹養成制度や法曹人口増員政策を擁護する側が、「改革」後にこの世界に来た法曹に対して持ち出す「恩恵論」ともいうべきものがあります。要するに、増員政策と新法曹養成制度の誕生によって、旧制度より司法試験は格段に受かり易くなり、あなた方はその「恩恵」によって、法曹になれたのだ、と。

 だから何なんだ、と言えば、当然、これら制度・政策に「あなた方は反対する筋合いはないだろ」というニュアンスになります。現に弁護士会内では、界内の増員反対・慎重論から若手を分断することが狙いという捉え方もされましたし、若手に対する(反対・慎重論賛同への)委縮効果も言われました。

 増員政策にしても法科大学院制度にしても、その失敗がはっきりしている今、こういう論調も、以前より下火になり、多少ははばかられるようになってきたかと思いきや、ネットなど見る限り、大学関係者の中に依然根強く残っている観もあります。

 「そもそも論として、かつてのような500人の合格枠に入れるか否かで受験生活を一生続けなければいけない不安のなかで絶望するのと、合格者が増えたから弁護士になったけれど、さあ食べていくのは大変だと身構えるのと、前者と後者、どっちがマシですか?という究極の選択なわけです」

 「わたしの意見に反発する弁護士さん(特に新制度になって合格した方)は、自分が20年以上前の旧制度の時代だったらば500人の枠にスンナリ入って20代のうちから弁護士活動を始められたという確信があるのでしょうか」(板垣勝彦氏のツイート)

 彼の連続したツイートの文脈で読む限り、彼は既に新制度で資格を取得した者たちに対し、旧制度であったような資格の経済的価値の「恩恵」によって、暮らせる幻想を抱かず、生きる道を模索せよ、ということが言いたくて、その流れで前記のような表現をしているようにとれます。

 何をおっしゃりたいのかは分かりますが、旧試体制での先の見えない「絶望」と、経済的に先の見えない不安の対比と、後者で納得させようとする前提が必ずしも正しいように思えないのは、かつての弁護士の経済的価値が旧試の狭き門に、先が見えないことは百も承知で現在よりも多くの志望者がチャレンジしていた事実があるからです。

 百歩譲っても、既に退き帰せない資格取得者にこうした論法はぶつけられても、「どちらがマシ」などという究極の選択が迫られる世界を、志望者が「とりあえず」弁護士資格欲しさに目指すという前提には立てるというのでしょうか。

 「改革」としてみれば、彼らがこうした論調の中で、彼らに「改革」の「恩恵」のようにいう増員政策、合格者の拡大ですが、現実は、それこそが経済的価値という、かつて存在した資格のメリットを破壊したことになります。だから、もし、この論調を旧試で弁護士になったものが発したとすれば、旧制度が支えた経済的価値の「恩恵」を享受した者たちが、それを享受できなかった新制度組に対し、合格できた「改革」の「恩恵」で納得せよ、と言っていることになるのです。

 この問題では、「改革」推進者が使ってきた「障壁」という捉え方にも、ある種の矛盾のようなものを感じます。旧試体制の狭き門が、法曹という世界への、法曹人たちに都合のいい参入「障壁」として存在してきた、それを打破したのが増員政策であるという「改革」の描き方。ところが、その上に作られた法科大学院は受験資格要件を握り、経済的負担を課す新たな参入「障壁」となった。

 増員政策は前記の通り、弁護士資格の経済的価値を根本から変質させたため、先行投資の経済的負担のリターンが期待できなくなったことから、「壁」はより高いものになり、志望者は離れた――。

 「改革」の「恩恵」論を唱える人たちは、もちろん新「障壁」の問題性という捉え方はしませんし、志望者にとって旧「障壁」と新「障壁」のどちらが有り難いものであるかという視点はありません。そして、肝心の社会にとってはどうなのかということにおいても、新「障壁」がその成果を示し切れていないというのが「改革」の現実であるといわなければならないのです(「『食えるか食えないか』というテーマの前提」 「弁護士の『低処遇』を正当化する発想と論法」 「弁護士『食えない』論をめぐる視点」)。

 自らがどういう制度的枠組みで法曹になったにせよ、法曹としてその制度を批判・論評することはできる――。かつて冒頭のような論調を浴びせられる新制度組の新人たちに、こう言って発言を促す同じ世界の先輩たちの姿も見ました。それに納得した新人もいたようですが、やはり沈黙した新人もいました。

 しかし、こと「改革」の結果についていえば、そこにある矛盾に今、まず気が付かなければならないのは、新人でも志望者でもありません。

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